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略歴 / Brief history
【映画界に衝撃を与えたイギリス演劇界出身のカリスマ】イギリス、バークシャー州レディングの生まれ。1987年にケンブリッジ大学を卒業後、チチェスター・フェスティバル・シアターに入り、『桜の園』の演出で批評家協会最優秀新人賞を受賞。舞台演出家として華々しいスタートを切る。90年、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに移り、92年から02年までロンドンのドンマー・ウェアハウスの芸術監督をつとめる。『ブルー・ルーム』『ガラスの動物園』『カンパニー』などの話題作を次々と手がけ、ロンドンで初演された『キャバレー』のブロードウェイでのリバイバル公演では、最優秀ミュージカル賞を含む4つのトニー賞のほか数々の賞を総なめにした。その斬新な演出がスティーヴン・スピルバーグらの目に留まり、99年、「アメリカン・ビューティー」の監督に抜擢。郊外の新興住宅地で暮らす現代アメリカの典型的な一家の崩壊を、イギリス人ならではの視線で俯瞰し、各登場人物の内面も深く掘り下げた。本作でアカデミー賞の監督賞・作品賞を含む5部門に輝き、映画界でも一躍その名を馳せる。続く「ロード・トゥ・パーディション」(02)では一転、大恐慌時代のシカゴを舞台にしたギャング映画を渋いトーンにまとめ上げ、アカデミー賞6部門にノミネートされた。05年には、湾岸戦争に志願した海兵隊員の回顧録にもとづく異色戦争映画「ジャーヘッド」を発表し、英国監督協会功労賞を受賞。08年の「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」では、93年の結婚以来、初のコラボレーションとなった妻のケイト・ウィンスレットにゴールデングローブ賞の主演女優賞をもたらした。近年はプロデュース業にも乗り出し、「悲しみが乾くまで」「君のためなら千回でも」(07)などを手がけている。【役者の才能を存分に引き出す手腕】映画監督として鮮烈なデビューを飾る以前に、すでに舞台演出家として確固たる地位を築いていたメンデスは、初監督作の「アメリカン・ビューティー」でも、数週間に及ぶリハーサルを敢行するなど、演劇的なアプローチを導入した。この手法は俳優たちの役作りにも大いに役立ち、同作のケヴィン・スペイシーにアカデミー主演男優賞をもたらしたほか、メンデスたっての希望で出演が実現した「ロード・トゥ・パーディション」のポール・ニューマンや、「レボリューショナリー・ロード」のマイケル・シャノンが助演男優賞候補となるなど、俳優たちのリアルな演技を引き出すことに成功している。これまでの監督作は題材的にはバラバラなようで、登場人物たちはいずれも過酷な運命に抗いつつ、そんな現状をどこか達観している。それはそのまま演劇畑出身のメンデスの映画作りに対するスタンスにも通じ、俳優陣の熱演を一歩退いたところでコントロールするバランス感覚により、演劇界、映画界の双方で才能を認められた数少ない演出家として活躍を続けている。
サム・メンデスの関連作品 / Related Work
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ナショナル・シアター・ライブ2024『ザ・モーティヴ&ザ・キュー』
制作年: 2024英国ナショナル・シアターが厳選した傑作舞台を映画館で上映するプロジェクトの2024年版。エリザベス・テイラーと結婚したリチャード・バートンは、ジョン・ギールグッド演出の下、ブロードウェイの新作『ハムレット』で、タイトルロールを演じることになるが、その舞台はある危うさを抱えていた。出演は「ファーザー」のマーク・ゲイティス、「オペレーション・ミンスミート -ナチを欺いた死体-」のジョニー・フリン。演出を「007 スペクター」のサム・メンデスが担当。 -
エンパイア・オブ・ライト
制作年: 2022「アメリカン・ビューティ」「1917 命をかけた伝令」のサム・メンデスが、1980年代初頭のイギリスのカルチャーに敬愛をこめて贈るヒューマン・ラブストーリー。海辺の町にある映画館・エンパイア劇場で長年働いてきたヒラリーは、辛い過去によって心に闇を抱えながらも、ひとりの青年スティーヴンと出逢ったことをきっかけに、生きる希望を見出していく。主人公のヒラリーを「女王陛下のお気に入り」でアカデミー賞主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマン、スティーヴンをTVシリーズ『スモール・アックス』(20)の新鋭マイケル・ウォードが演じた。 -
1917 命をかけた伝令
制作年: 2019サム・メンデスが驚異の全編ワンカット撮影で挑んだ戦争ドラマ。第一次世界大戦。最前線にいる1600人の仲間の命を救うため、一刻も早く重要な伝令を届けよとの命令を受けた英軍兵士スコフィールドとブレイクは、数々の危険が待つ戦場へと飛び出していく。出演は「マロ―ボーン家の掟」のジョージ・マッケイ、「ブレス しあわせの呼吸」のディーン=チャールズ・チャップマン、「メリー・ポピンズ リターンズ」のコリン・ファース、「アベンジャーズ/エンドゲーム」のベネディクト・カンバーバッチ。驚異的な撮影を実現した撮影監督は、「ブレードランナー2049」のロジャー・ディーキンス。88点 -
ナショナル・シアター・ライブ2020「リーマン・トリロジー」
制作年: 2019世界的な投資家リーマン一家が米国に移住した1844年から 2008年のリーマン・ショックが起こるまでの3世代にわたる栄光と衰退を描く舞台。ナショナル・シアター上演時にはチケット完売を記録した。主演の3人が約3時間にわたり、150年以上にわたるリーマン家の歴史を演じ切る。2020年3月7日からはブロードウェイ公演も予定されている。 -
007 スペクター
制作年: 2015ダニエル・クレイグが4度目のジェームズ・ボンドを演じるシリーズ第24作。少年時代を過ごした“スカイフォール”で焼け残った写真の謎を解明するためメキシコ、イタリアへ飛んだボンドは、悪の組織スペクターの存在をつきとめるが……。監督は、前作「007 スカイフォール」に続きサム・メンデス。共演は「グランド・ブダペスト・ホテル」のレイフ・ファインズ、「追憶と、踊りながら」のベン・ウィショー、「マンデラ 自由への長い道」のナオミ・ハリス、「アデル、ブルーは熱い色」のレア・セドゥ、「灼熱の肌」のモニカ・ベルッチ、「ジャンゴ 繋がれざる者」のクリストフ・ヴァルツ。主題歌はサム・スミスの『ライティングズ・オン・ザ・ウォール』。80点 -
ナショナル・シアター・ライヴ 2014 「リア王」
制作年: 2014イギリス国立劇場ロイヤル・ナショナル・シアターが、イギリスで上演された全ての舞台の中から特に注目に値する演目だけを選び、映画館で上映するプロジェクト“ナショナル・シアター・ライヴ”の第4弾。ウィリアム・シェイクスピア原作の舞台を「アメリカン・ビューティー」のサム・メンデス監督が演出。出演は「ギャザリング」のサイモン・ラッセル・ビール。