李相日 イ・サンイル

  • 出身地:新潟県
  • 生年月日:1974/01/06

略歴 / Brief history

【一気にベスト・ワン監督へ昇りつめた早咲きの実力派】新潟県生まれ。新潟朝鮮初中級学校の教師をしていた父を持つ在日コリアン三世で、4歳の時に横浜に移り住み、小学校から高校まで横浜の朝鮮学校に通った。神奈川大学在学中にプロデューサーの李鳳宇の紹介でOVの現場についたのをきっかけに、大学卒業後、日本映画学校に入学。自身の体験が色濃く反映された1999年の卒業制作作品「青/chong」が、PFFアワード2000でグランプリのほか4部門を独占、ロッテルダムや釜山の映画祭に招待されたのち、2001年には劇場公開もされた。助監督経験などを経て、02年のPFFスカラシップ作品「BORDER LINE」も評判を呼ぶ。この長篇デビュー作が、村上龍の小説『69』の映画化企画を温めていた伊地智啓プロデューサーの目に留まり、すでに宮藤官九郎に脚本を依頼していた「69/sixtynine」(04)の監督に抜擢される。李はこれを初のメジャー作品というプレッシャーを感じさせない軽妙な青春映画に仕上げ、好評を得た。翌05年、「青/chong」の頃から才能に注目してきた佐々木史朗プロデューサーに声をかけられ、李自身のオリジナル脚本をもとにした「スクラップ・ヘブン」を発表。前作からトーンを一変させ、もう若くはない現代の男性ふたりの鬱屈した怒りの発露をシニカルに見つめた。そして06年、閉鎖が迫る昭和40年の常磐炭鉱に町興しのためハワイアンセンターを作ったという実話をもとにした「フラガール」を監督。独立系のシネカノン配給ながら10億円超えの大ヒットとなり、キネマ旬報ベスト・ワン、日本アカデミー賞最優秀作品賞など数々の賞に輝く。その後、“子供”を共通のテーマに5人の監督が競作したオムニバス「みんな、はじめはコドモだった」(08)の一篇「タガタメ」を、名だたるベテランに混じって最年少で監督。10年には、吉田修一の同名小説を原作に「69」以来のタッグとなる妻夫木聡主演による「悪人」が公開された。【名プロデューサーが認める確かな才能】映画学校出身監督であり、PFFスカラシップ作品以前の段階で劇場公開を果たし、先述した李鳳宇、伊地智啓、佐々木史朗など、映画界を代表する名プロデューサーたちがその才能を認めた新鋭のひとり。監督を打診された時点ですでに脚本が存在していた「69/sixtynine」「フラガール」といったメジャー系の作品は、人間の心の闇を鋭く突く「BORDER LINE」「スクラップ・ヘブン」「タガタメ」など、内省的な志向に沿って自ら脚本を手がけた作品群とテイストを異にする。前者の設定はいずれも李が生まれる前の年代で、企画と自身との接点を柔軟に見極めることで、皮相なノスタルジーに陥ることを回避している。題材との距離感を即座に?み、自身の立ち位置を明確にしつつ、メジャー系のエンタテインメントと中規模の等身大映画とを両立。似た作品は続けて撮らない振れ幅の大きなフィルモグラフィーも持ち味である。

李相日の関連作品 / Related Work

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  • 国宝

    制作年: 2025
    歌舞伎の世界を舞台にした吉田修一の同名小説を李相日が映画化、「悪人」「怒り」に続いて三度目のタッグを組んで贈る、壮絶な人間ドラマ。ヤクザ同士の抗争で父を亡くした喜久雄は、上方歌舞伎の名門・花井半二郎に引き取られる。そこで、将来を約束された半二郎の実子・俊介と出会い、互いにライバルとして芸に青春を捧げていく。血筋と才能、歓喜と絶望、信頼と裏切りのはざまで、人生をもがき苦しみながら歩んだ男が掴んだものとは……。出演は「ぼくが生きてる、ふたつの世界」の吉沢亮、「正体」の横浜流星、「ザ・クリエイター/創造者」の渡辺謙。
  • 流浪の月

    制作年: 2022
    2020年本屋大賞を受賞したベストセラー小説を、「怒り」の李相日監督が映画化。大学生の文は10歳の更紗の意を汲み彼女を部屋にあげ、そのまま一緒に暮らしていたところ、文は誘拐の罪で逮捕される。15年後、事件の烙印を背負ったままの二人は偶然再会し……。誘拐事件の被害女児として広く知られた家内更紗を広瀬すずが、事件の加害者とされた佐伯文を松坂桃李が演じる。また、「パラサイト 半地下の家族」など数々の韓国映画を撮った撮影監督ホン・ギョンピョや、「ヘイトフル・エイト」「悪人」など国内外の作品の美術を手がけてきた種田陽平が参加している。
    60
  • 怒り(2016)

    制作年: 2016
    原作:吉田修一、監督:李相日の『悪人』チームが再集結した、オールスターキャストの群像ミステリー。東京の八王子で夫婦が惨殺されてから1年、犯人はいまだ逃走を続けていた。千葉・東京・沖縄で前歴不詳の男と出会った人々の間に、男に対する不信感が広がっていく。監督は「フラガール」が第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得した李相日。芥川賞作家・吉田修一の同名小説を映画化。娘の交際相手を信用しきれず苦悩する父親を「許されざる者」以来の李監督作出演となる渡辺謙が演じるほか、「モテキ」の森山未來、「天の茶助」の松山ケンイチ、「そこのみにて光輝く」の綾野剛らが出演。
    81
  • ブルーハーツが聴こえる

    制作年: 2016
    1995年に解散した伝説のバンド、THE BLUE HEARTSの結成30周年を記念して製作されたオムニバスドラマ。「怒り」の李相日や「大人ドロップ」の飯塚健、「キネマ純情」の井口昇ら6人の監督が、それぞれ思い入れのあるTHE BLUE HEARTSの楽曲を自由な解釈で映像化。出演は「ミュージアム」の尾野真千子、「オー・マイ・ゼット!」の角田晃広、「極道大戦争」の市原隼人、「L エル(2016)」の高橋メアリージュン、「高台家の人々」の斎藤工、「あやしい彼女」の要潤、「映画 暗殺教室」の山本舞香、「人生の約束」の優香、「ぶどうのなみだ」の内川蓮生、「葛城事件」の新井浩文、「64 ロクヨン」の永瀬正敏、「信長協奏曲(ノブナガコンツェルト)」の水原希子、「後妻業の女」の豊川悦司、「テラフォーマーズ」の小池栄子、「淵に立つ」の三浦貴大。
    50
  • 許されざる者(2013)

    制作年: 2013
    第65回アカデミー賞作品賞・監督賞ほか2賞を受賞したクリント・イーストウッドの傑作西部劇を、「悪人」「フラガール」李相日がリメイク。1880年のアメリカ西部から、明治新政府のもと開拓が進められている同年の北海道に舞台を移し、幕府軍時代には恐れられたものの愛しい人と出会ったのを契機に刀を置いた男が、他の者のために再び刀を手にする。「インセプション」「硫黄島からの手紙」の渡辺謙を筆頭に、「アントキノイノチ」の柄本明、「誰も知らない」の柳楽優弥、「ペタル ダンス」の忽那汐里、「アウトレイジ」の國村隼、「草原の椅子」の佐藤浩市ら実力派俳優が集結。「レッドクリフ」シリーズを手がけた岩代太郎の音楽が作品を彩る。
    71
  • 悪人

    制作年: 2010
    吉田修一の同名小説を「フラガール」の李相日監督が映画化。ある殺人事件の犯人と彼を愛する女の逃避行、引き裂かれていく家族の姿を描く。音楽を「おくりびと」の久石譲が担当。出演は「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」の妻夫木聡、「女の子ものがたり」の深津絵里、「瞬 またたき」の岡田将生、「川の底からこんにちは」の満島ひかり、「歩いても 歩いても」の樹木希林など。
    70