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- 三木聡
略歴 / Brief history
【小ネタから世界を俯瞰する異能の観察者】神奈川県横浜市の生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業後、テレビの構成作家として『ダウンタウンのごっつええ感じ』『笑う犬の生活』『タモリ倶楽部』『トリビアの泉』『TV.sHIGH』など、数々の人気番組に携わる。作・演出家としても、2000年までシティボーイズのライブを手がけたほか、『優香座シネマ/お湯は意外とすぐに沸く』(02)、『演技者。/いい感じに電気が消える家』(03)などのドラマを演出する。05年、奥田英朗の同名小説を映画化した「イン・ザ・プール」、平凡な主婦の意外なスパイ活動をコミカルに綴る「亀は意外と速く泳ぐ」が相次いで公開され、飄々と洗練されたユーモアセンスで映画界でも多くのファンを掴んだ。06年には、三木初の劇場用映画として02年に撮影されながら、長く陽の目を見なかった幻のデビュー作「ダメジン」が公開。第1作から第3作までが、撮影順と逆の順序で公開されるという異例の事態となったが、世間からはみ出した人たちに対する三木の共感が、もっともストレートかつ過激な形で表現された本作は、その後の三木の足跡をたどる上でも重要な原点であり続けている。同年、深夜枠ながらも異例の高視聴率をマークしたミステリー・コメディドラマ『時効警察』のメインエピソードの脚本・監督もつとめ、翌07年には続篇も製作される。生死の境をシュールな笑いで煙に巻く「図鑑に載ってない虫」(07)に続き、同年の「転々」では久々の原作ものに挑む。親子ほど歳の離れたふたりの男が東京を散歩するという原作のプロットはそのままに、07年当時のリアルな東京の風景の中に、三木作品おなじみの小ネタや一風変わった人々を放り込み、おかしさと切なさが溶け合うロードムービーで新境地を開く。「インスタント沼」(09)では、再びオリジナルの領域に戻り、泥沼に瀕したOLの奇想天外な冒険を描き出している。【脱力系ワールドを支える完璧主義】構成作家出身の異業種監督であり、コント集映画の企画が受け入れられ(「ダメジン」)、映画進出が叶った。02年当時はデジタル撮影の環境が整い、従来のフィルム撮影の技術に依らず作品を演出し得たという時代背景も監督デビューの一助となっている。何気ない日常から面白いものを発掘して“小ネタ”として惜しみなく放出し、当人は真剣だが傍から見ると相当おかしな人たちが住まう三木ワールド。その独特の笑いに満ちた世界観は“脱力系”などとカテゴライズされてきたが、その“ゆるさ”の影には妥協を許さぬ完璧主義者としての三木の顔がある。岩松了、ふせえり、松重豊ら常連俳優を好んで起用しながらも、馴れ合いを許さず、台詞の微妙な言い回しや一語一語のニュアンス、間合いなど、撮影前には徹底的にリハーサルが行なわれる。「ダメジン」のダメ男3人衆から「インスタント沼」のジリ貧OLまで、人生に迷いつつもダメはダメなりに懸命に生きている愛すべき欠落人間たちをじっくりと俯瞰することから浮かび上がる、ささやかな日常にも面白いものは転がっていて、見方を変えれば人生は案外楽しくなるという究極の人生賛歌は、テレビ時代からのコアなファンに留まらず、一般にも着実に浸透しつつある。
三木聡の関連作品 / Related Work
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大怪獣のあとしまつ
制作年: 2022特撮映画でお馴染みの巨大怪獣。その死体が国家を危機に陥れるとしたら……。前代未聞の「あとしまつ」を描く空想特撮エンターテイメント。監督・脚本は『時効警察』シリーズや、「転々」「俺俺」の三木聡。松竹と東映が創立以来、初タッグを組んだ共同幹事・配給作品。大怪獣の死体のガス爆発を止めるべく究極の難題に挑む特務隊員・帯刀アラタに山田涼介。彼を見守る環境大臣秘書官・雨音ユキノを土屋太鳳、総理秘書官として暗躍する雨音正彦を濱田岳、元・特務隊で爆破のプロであるブルース(本名:青島涼)をオダギリジョー、そして内閣総理大臣・西大立目完に西田敏行。特撮監督は「仮面ライダー」シリーズの佛田洋。大怪獣の造形は「平成ゴジラ」や「ウルトラマン」シリーズの若狭新一が手掛ける。また、VFXプロデューサーを「男たちの大和/YAMATO」などの野口光一が務め、特撮映画のドリームチームが実現した。 -
コンビニエンス・ストーリー
制作年: 2022「大怪獣のあとしまつ」の三木聡監督による異世界アドベンチャー。スランプに陥り悶々と悩む日々を過ごす若手脚本家・加藤は、ひょんなことから欲しいものがなんでも見つかるコンビニエンス・ストア“リソーマート”に迷い込み、怪しげな人妻・惠子と出会う。出演は、「ニワトリ・フェニックス」の成田凌、「葬式の名人」の前田敦子、「すばらしき世界」の六角精児、「フタリノセカイ」の片山友希。 -
音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!
制作年: 2018「俺俺」の三木聡監督がバンド・グループ魂のボーカリストでもある阿部サダヲや「明烏」の吉岡里帆と組んだコメディ。声帯ドーピングで作られた喉の限界に怯えるロックスターのシンは、ある日、歌声が異様に小さいストリートミュージシャンのふうかと出会う。岩松了、ふせえりら三木作品常連の俳優も出演。阿部サダヲ扮するシンによる主題歌『人類滅亡の歓び』をHYDEが作曲、いしわたり淳治が作詞、吉岡里帆扮するふうかが歌う『体の芯からまだ燃えているんだ』の作詞・作曲をあいみょんが手がけたのをはじめ、多くのミュージシャンが本作の楽曲に参加している。43点 -
俺俺
制作年: 2012ありふれた日常の中、増殖していく“俺”とその崩壊を綴り第5回大江健三郎賞を受賞した星野智幸の『俺俺』(新潮社・刊)を、「亀は意外と速く泳ぐ」や「インスタント沼」などでちょっとずれた人々や世界を描いてきた三木聡監督が映画化。“俺”が増えるというシュールな設定ながらも、自分と考え方が一致する人物がいる居心地の良さや画一的な人々という面にはリアリティがある。「映画 妖怪人間ベム」の亀梨和也が実に33人もの“俺”を演じる。また、不思議な依頼をする女性を「クワイエットルームにようこそ」の内田有紀、家電量販店の上司を「永遠の僕たち」の加瀬亮が演じる。ふせえり、岩松了、松重豊、松尾スズキといった三木作品の常連も出演。26点