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  •   第76回カンヌ国際映画祭の授賞式が現地時間5月27日(土)20時半より行われ、是枝裕和監督作「怪物」が脚本賞を受賞した(脚本は坂元裕二が担当)。先立って発表されたクィア・パルム賞と合わせ、同作は2冠となる。授賞式後、是枝監督が日本メディア向けの囲み取材に応じた。 ──ご自身の脚本でないというところで、客観的に語れる部分があると思うのですが、この脚本のどこが評価されたかというのをお答えいただけますか? 是枝 僕がそれを語るんですね……(苦笑)。えぇっと、この脚本のどこが評価されたか……難しいな。最初にいただいたプロットからこの三部構成の形でした。読み進めても読み進めても、一体何が起きているのかわからない、という本がとてもわくわくしました。これをどういう風に映像にしていくんだろうというのを、演出を任される前提でプロットを読ませていただいて、相当チャレンジをしている、方法論的にも、題材的にもかなり攻めてるなと感じたので、これはちゃんと色んなものと向き合ってちゃんと勝負しようという風に考えました。それぐらいやっぱり自分には書けない本でしたし、ストーリーテリングというものがとても無駄がなくて、とても面白かったと僕は思いました。カンヌがどう評価したかはわかりません。 ──先ほど坂元さんからメールが来たというお話がありましたが、そのあと何かお話をされたりという機会はありましたか? 是枝 いや、メールだけなんですけどね。多分、起きてすぐ「怪物チームの一人としてうれしいです、感謝です」というのが来て、僕から「坂元さん、簡単なコメントいただけたら嬉しいです。簡単じゃなくてもいいです」と送ったら、「えっ、今?」と。だから、「もう少ししたら囲みがあるので」と、これを前提にお願いしたら、すぐにきて、「たった一人の孤独な人のために書きました。それが評価されて感無量です」と。そのあとまた寝たかもしれませんね(笑)。 ──監督も誰か一人を想定して映画を作っているんですか? 是枝 そうですね。必ずそうですね。 ──それはどういうイメージなんでしょうか? 是枝 今回はそのことについて僕と坂元さんで、これは誰に向かって書いたとかみたいなやりとりとかは一切してないんです。多分、川村さんも山田さんも聞いていなくて。完成披露試写会の舞台挨拶で初めて坂元さんが子供の時に出会った男の子のことを書きましたという話が出て「そうだったんだ」と驚きだったんですけど、僕は僕であまり特定はしたくないんですけど、1人の男の子のためにこれは作ろうと思いました。 ──公式上映からカンヌに滞在されて、色々上映とかご経験されて、今回この賞になりましたけれども改めてカンヌ映画祭の魅力だったり、映画人としてのこれからに繋がる経験とかを振り返られてどうでした? 是枝 こんなに長くいたの初めてなんです。オープニングだったので、ほぼ2週間丸々滞在をして、こんなに自分以外の作品を観たのも初めてですね。それはやっぱりたぶん世代が近い方はお分かりだと思うんですけれど、エリセとヴェンダースの新作があるということは、もうねえ……ちょっと特別なんです。そこに自分の作品があることが誇らしいというよりは、彼らの新作を真っ先に観られる環境に自分がいるということを感謝するって感じですね。そしてそこに今年は武さんもいらっしゃっていて。やっぱりその自分が映画を志した頃に憧れていた監督たちとここで再会ができたし。例えば、今回監督賞を獲ったトラン・アン・ユンとかは、僕がデビューしたときに一緒にヴェネチアにいて、彼は2本目で、そこからもう30年近い。彼が東京に来たら一緒にご飯を食べたり、パリに行くと会ったりということが、ずっと続いてきた間柄なので、その2人がこういう形でコンペで作品を持ち合って、今日ホテルで着替えの途中で2人でエレベーターの前でばったり会って、「あ、(授賞式に)呼ばれてるんだー」ってお互い言い合うみたいなのが、何だか幸せでした。長く頑張ってきたんだなって気持ちになりますよね。 ここに来るために作っているわけではないですけれども、やっぱりそうやって違う場所で映画を作り続けてきた仲間とまた出会いたいなという気持ちはあります。そういう場所です。 ──ロケ地のことについて。諏訪湖にしようと思った理由を教えてください。なぜ諏訪湖だったのでしょうか? 是枝 ネガティブなことを言いたくないのですが、本当は西東京の話で坂元さんが書かれていて、町の中を一本の大きな川が流れているという。その前提で一度ロケハンに行きましたが、東京が撮影には非協力的なんです。消防車を走らせないということがあって、悩んだ制作部が長野県、特に諏訪地方は、非常に撮影に協力的なフィルムコミッションがあって、去年だけで3、4本くらい撮っているんじゃないですかね? 川ではないのだけどどうだろうかと提案してくれた制作部のスタッフがいまして、それで坂元さんも一緒に見に行きました。町をずっと見て回って、ここで書けますか?という話をして、大丈夫ですということで湖で書き直してもらいました。 ──監督にとっても長野県の小学校も含めて特別な思い入れがあったわけじゃなくて、監督自身がというよりも制作部からのご提案が先で、それに監督ものったという形ですか? 是枝 現実的には。ただ、そういうことって一つの縁ですから、この作品の撮影が長野になって諏訪湖の近くになった。なんとなく引き寄せられてる感じが僕もありますし、多分、坂元さんもそれはあったんじゃないですかね。そういう場所が見つかるというのは作品にとっては幸せなことなんだと思います。 ──坂元さんともう一度組んでやりたいことはありますか? 是枝 僕はありますね。坂元さんがどう思っているかは今度聞いてみます。ただ、とても良いバランスで脚本と演出のタッグを組めたんじゃないかな。お互いの良いところを引き出せたっていうとちょっと自分で褒め過ぎな気もしますけど、相性は良かったと思います。 ──役所さんと何かお話をされましたか? 是枝 本当に嬉しいですよね、役所広司さんが……。もっと早く獲ってても良かった、絶対に。もっと世界的な評価があっていい役者さんだと思っていました。それが、ここでこういう形で結実してとても良かったと思います。なんだろうな、ずっと一緒に、日本映画界をどうしていくみたいな話も、とても応援していただいて、会うと大体、本当は次の作品の話がしたいんですけど、「どうなってる?」って心配して声をかけていただいて、少しでも若い役者、若いスタッフがどうやってこの後、日本の映画界でちゃんと映画が撮れるようになるのかというのを気にかけていただいているので、そんな話を裏でして、写真を撮って、西川美和に送りました(笑)。喜んでました。 ──今回「怪物」をご覧になった審査員の方から、かけてもらった言葉とか、感想とかで覚えているものがありましたら教えてください。 是枝 審査員と話ができるのは、多分この後ディナーに行くと色々話せるんですけど、さっきは同じおっきいエレベーターに乗せられただけで、あのー、congraturation言うくらいで精一杯だったんですよね。なので、この後ですね、なんか言葉を交わせるのは。 ──審査員以外の方で、何か言葉を交わされた方などいらっしゃいますか? 是枝 まだセイハローなんですよね。ジョナサン・グレイザーとはちょっと握手をしましたけど。あとはトランがいるので、トランとは熱く抱擁しましたが、そのくらいです。多分、この囲みが終わるとそういう時間に流れ込むんだと思います。 (受賞した盾を持って、写真を撮らせての声に) 僕が持っちゃって……。本当は坂元さんにお渡ししたいですね。 (また、写真を撮られながら) さっき役所さんがここで評価されてとても嬉しいと言いましたけれど、坂元裕二という名前も、もちろんドラマの作家としては、アジアではもう相当名前は浸透していると思うのですが、映画ファンにはまだ発見されていない脚本家なのではないのかなと思いますので、これを機に彼の書くものとか、彼の過去作とか、いろんな形で注目が集まるといいなと思っています。それは僕が別に企んでいるわけではないですが、いいきっかけになるといいなと思います。 (最後、お疲れさまでした!の声がけに) 今回は日本から沢山作品が来ていて、すごくメディアの皆さまも盛り上がっている感じが伝わってきて、本当に嬉しかったんですけど、そうじゃないときも来ていただいて、継続して映画祭を取材していただけるととてもいいと思います。よろしくお願いいたします。ありがとうございます。     ©2023「怪物」製作委員会 配給:東宝、ギャガ ▶︎ “夢が叶った”。監督・是枝裕和 × 脚本・坂元裕二の豪華コラボで贈る「怪物」 ▶︎ 監督・是枝裕和 × 脚本・坂元裕二「怪物」。音楽は坂本龍一、キャストは安藤サクラはじめ実力派集結 ▶︎ 是枝裕和監督「怪物」がカンヌ映画祭コンペティション部門出品!本予告が到着
  • 校長と子どもたちの「対話」の授業が、分断された街を変える まだ半ば眠ったようなベルファストの街。目に飛び込んでくる壁画や落書きは、カトリックとプロテスタントの宗派闘争から生じた悲劇と荒廃を物語る。エルヴィス・プレスリーを口ずさみつつホーリークロス男子小学校へ車を走らせ、子どもたちをハグやタッチで迎えるのはケヴィン校長だ。堂々としてユーモアたっぷり、そして「新学期最初の哲学の授業へようこそ」——哲学に情熱を燃やす。 哲学とは襟を正して拝聴するものではなく〝問う〞姿勢だと校長は教える。「他者に怒りをぶつけてよいか」、悪さをした子には「なぜやったのか」「感情をどうコントロールするか」、ケンカした子には「友だちとは何か」、時には「タイムトラベルは可能か」といった変わり種も。校長の盟友というべき教師ジャン=マリーも、持ち前の包容力と根気強さで生徒を導く。小さなプラトンたちは言葉を手繰り、考え、耳を傾ける。無心になり、笑い、戸惑い、相手の立場で考えることを学んでいく。「なかなか正解に辿り着けないのが哲学のいいところだ」と校長。若き日には自身も荒んでいた。ドラッグなどで命を落とした卒業生も少なくない。だから授業は続き、校長は誇り高くあることをやめない。 もちろん簡単ではない。仲直りしたはずの子たちが、またケンカした。手を上げたのは「殴られたら殴り返せとパパが言ってる」からだと返され、言葉を失う校長。考えに考え、暴力の連鎖を断ち切るために編み出した授業は、なかなかケッサクだ。成果は上出来、笑みと拍手が広がる。そして私たちは、胸を熱くしてもう大丈夫だと確信する。未来の困難など、この最強の瞬間を生きたことに立ち返れば、取るに足らない。過去は永遠となる。タイムトラベルを成功させたのは校長だ。 文=広岡歩 制作=キネマ旬報社 (キネマ旬報2023年6月上旬号より転載)   https://www.youtube.com/watch?v=1nmh70ldWUw&t=6s     「ぼくたちの哲学教室」 【あらすじ】 プロテスタントとカトリックが長く対立してきた北アイルランド、ベルファストの街。ホーリークロス男子小学校では、威厳と愛嬌を併せ持つケヴィン校長が「哲学」の授業を行っている。異なる意見に耳を傾け、思考を整理し、言葉にしていく子どもたち。不安や怒りを制御できれば、憎しみの連鎖は生まれないと信じ、校長は向き合い続けていく。 【STAFF & CAST】 監督:ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ 出演:ケヴィン・マカリーヴィーとホーリークロス男子小学校の子どもたち 配給:doodler アイルランド=イギリス=ベルギー=フランス/2021年/102分/区分G 5月27日(土)より全国順次公開 ▶公式HPはこちら © Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films, Zadig Productions,MMXXI          
  •   一流オペラ教師とその日暮らしのラッパーが織り成すヒューマンドラマ「テノール! 人生はハーモニー」が、6月9日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。ユニークなオペラレッスン場面の映像が到着した。     初演技ながら主人公アントワーヌを演じたMB14は、オーディション番組〈THE VOICE〉で準優勝したビートボクサーだ。オペラ教師マリー(ミシェル・ラロック)のレッスンで、アントワーヌはヴィクトル・ユゴーの詩集をラップ風に読み上げてノリノリに。さらにマリーのパートでヒューマンビートボックスを披露する。 クロード・ジディ・ジュニア監督は「この映画を準備していた2016年、誰もが〈THE VOICE〉に釘付けになっていた。MB14がクーリオの『Gangsta’s Paradise』のループ演奏を披露したとき、プロデューサーのラファエル・ベノリエルと僕は“うわぁ、これはヤバい!”とメールし合ったんだ。MB14の才能とカリスマ性は一目瞭然だった」と振り返り、「彼は最初から僕らが求めるすべての条件を満たしていたけど、心配要素もあった。でも初めて話した時、MB14は歌手になるずっと前から演技することを夢見ていたと知った。撮影時も演技への理解力が常に正確だから、僕は監督として彼の演技の精度と彼がもたらす新鮮さの両方を捉えようと努めたんだ」と称えている。 なおMB14は現在、スーザン・ボイルなどを輩出し、とにかく明るい安村の出場でも話題となったイギリスのオーディション番組〈Britain's Got Talent2023〉に出場中。予選ではループステーションを使ったパフォーマンスで最高の栄誉というべきゴールデンブザーを獲得し、審査員のサイモン・コーウェルらに絶賛された。順調に準々決勝に駒を進めており、今後の結果が注目される。     Story パリのオペラ座・ガルニエ宮に、スシの出前でやってきたラップ好きのフリーター青年アントワーヌ。エリートレッスン生に見下された彼は、仕返しでオペラを真似るが、それがまさかの超美声だった。アントワーヌに才能に惚れ込んだオペラ教師のマリーは、猛スカウトを開始。そしてオペラに興味を持ち始めたアントワーヌは、“住む世界が違う”と思いつつも、マリーと内緒のオペラレッスンを始めるが……。   © 2021 FIRSTEP - DARKA MOVIES - STUDIOCANAL - C8 FILMS 配給:ギャガ ▶︎ オペラが運命の出会いをもたらす感動ドラマ「テノール! 人生はハーモニー」
  •   命を授かった兵馬俑の少年と家族を奪われた人間の少女による地底バトル&ラブファンタジーを描いた中国発3DCG映画「兵馬俑の城」が、6月16日(金)よりグランドシネマサンシャイン池袋ほかで全国公開。手に汗握るアクションシーンが解禁された。     兵馬俑の少年モンユエンと人間の少女シーユイ、そして山羊のシャオバオ。謎の巨大怪物を相手に、彼らは熾烈な攻防を繰り広げるが……。 中国コンテンツを日本で展開する面白映画株式会社のプロデューサーは、昨今の中国アニメーションのハイクオリティについて「中国アニメ映画は比較的に潤沢な制作費を得られることも大きいと思います。中国映画市場の急速発展とともに、中国アニメ映画の興収も年々に増加しています。その結果、中国市場での興収のみでも元を取れる保障ができれば、企画段階でも十分な制作費が投入でき、クオリティの高い作品が生まれやすくなると思います」と説明。 本作のアクションシーンについては「やっぱりスクリーンを通じて感じる迫力と爽快感だと思います。クライマックスの最終決戦ですと、数千人もいる兵馬俑の大軍が敵に向って突撃し、それぞれ容姿や服装、使う兵器も百人百態の兵俑たち、劇場の大スクリーンでしか味わえない醍醐味こそがその魅力だと思います」と話す。 めくるめくアクションとともに波乱の物語を堪能したい。     Story 中国の歴代皇帝によって作られた兵馬俑。それらは神より命を授かり、巨大な地下都市を作り上げていた。 兵馬俑の雑用係モンユエンが住む秦陽城は、凶暴な霊獣たちの襲撃に悩まされている。その脅威に立ち向かうシアホウ将軍に憧れたモンユエンは、精鋭部隊〈鋭士〉へ入りたいと希望するが、そのためには「霊獣・地吼(ディーホウ)を捕まえよ」との条件が出される。 さっそく旅立ったモンユエンが出会ったのは、謎多き少女シーユイ。冒険の中で広く美しい世界を知りながら、ふたりは惹かれ合い、モンユエンは家族を探すシーユイの力になりたいと願う。そしてついに地吼を追い詰めるが……。   ©︎Fantawild Animation Inc. 配給:ライブ・ビューイング・ジャパン、エレファントハウス ▶︎ 兵馬俑の少年&人間の少女が地底世界を冒険する「兵馬俑の城」、福山潤や寿美菜子が日本語吹替
  • 徹底した娯楽とバイオレンスの巨匠として20世紀後半の日本映画界を怒濤のように駆け抜けた深作欣二。没後20年を迎える今年、改めてその魅力に光を当てるシリーズ企画の第3弾。今回ご登場いただくのは「柳生一族の陰謀」(78)を皮切りに、70~80年代の深作映画で華やかに躍動した“伝説のアクション女優”志穂美悦子さん。長く芸能活動からは離れていても、現役当時と変わらぬエネルギッシュさで、当時の思い出を語っていただいた。 深作欣二との出会い ©東映・東北新社 「宇宙からのメッセージ」 ◎東映チャンネルにて6月放送 志穂美: 亡くなられて、もう20年にもなりますか。深作監督、たしかにそう言ってくださいました。いま思い出しても、涙が溢れそうになります。 ──2023年4月、志穂美悦子は遠い目となった。1981年に刊行された山根貞男責任編集『女優 志穂美悦子』(鈴木一誌造本・写真構成による志穂美への愛に溢れた本だ)に深作欣二が寄稿している。その文章には、「いつまでもカラテ女優でもあるまい」と新聞記者に謗(そし)られ泣いて悔しがった志穂美に深作がこう言ったと記されている。 「肉体こそが俳優のことばなのだ。その肉体を君ほどみごとに駆使出来る女優は日本にいない。それを君は誇っていい。見ていたまえ、今にきっと君の価値が花開く時が来るから」   そののち、深作は「里見八犬伝」(83)、「上海バンスキング」(84)で志穂美の新境地を拓(ひら)き、「里見八犬伝」の桜吹雪の中での志穂美の殺陣(たて)から、絢爛にして過剰な1980年代の深作映画が幕を開ける──。 志穂美: 深作監督には、本当にお世話になりました。映画人として大きくしていただいたと思っています。 深作監督と最初にお目にかかったのは東映京都撮影所でした。「新仁義なき戦い 組長最後の日」(76)の撮影を一方的にですが、覗いたんです。第1ステージ前の広場で、乱闘シーンを撮影するために煌々(こうこう)とライトが灯っていました。そこに人一倍大声を出している人がいる。台詞を言いながら走っているから、俳優さんだと思っていたんです。「あれが深作欣二監督だよ」と殺陣師(たてし)の菅原俊夫さんが教えてくれました。かっこいいんですよね。でも、話すと水戸弁で親しみやすい方でした。私は子どもの頃からアクションが好きで、弟と物置の上から飛び降りて写真を撮ったりしていたんです。運動神経はあるほうでしたけど、だからといって殺陣ができるわけではない。ただただ、アクションをやりたい、と妄想していたんです。最初は、東京の早稲田大学教育学部教育学科へ行こうと決めていました。そこから文学座などの劇団に入って芝居をやっていれば、好きな殺陣をやらせてくれるんじゃないかと思っていた。絶対やりたいと思うけれど、何もできない。そんなふうに悶々とする東京に出てくるまでの岡山での二年間が、人生で一番苦しかったかもしれないです。その頃、週刊誌を読んで知ったのが千葉真一さん主宰のジャパンアクションクラブ(JAC)でした。TVの『キイハンター』で千葉さんを見て電流が走るほど感動していましたから。絶対にここへ行きたい、と思いました。 そして、映画の世界に入り、18歳で「女必殺拳」(74、山口和彦監督)に主演しました。映画の仕事はとにかく楽しかったんです。演じるって楽しいですし、監督さんたちもよくしてくださいました。そうしたなかで、深作監督に出会うことができ、公私ともにお世話になりました。 70~80年代の深作監督と並走 ©東映 「柳生一族の陰謀」 ◎東映チャンネルにて6月放送 (右は千葉真一)  ──1978年、「仁義なき戦い」(73)から始まった実録やくざ映画路線に終止符を打ち、深作欣二は時代劇とSFに挑む。「柳生一族の陰謀」(78)で志穂美と初仕事をした深作は、「宇宙からのメッセージ」(78)で志穂美を宇宙に連れ出したばかりか、得意のアクションを封じ、芝居で勝負させた。 志穂美: 私が21歳のとき、JACでトレーニングを積んで、京都に乗りこんで時代劇の殺陣をやったのが「柳生一族の陰謀」です。私は萬屋錦之介さん演じる柳生但馬守の娘、茜役。錦之介さんには恐れ多くて近づいてさえいません。いま思えば、何かお話すればよかったなあと後悔がつのります。 深作監督は殺陣をやるときに自ら動かれるんですよ。上野隆三さんが殺陣をつけられて、深作監督も身振り手振りでアイデアを出されて。おそらく女性でそういうことができる俳優がほかにいなかったからでしょうけど、私が殺陣で動けば動くほど、監督は喜ばれるんです。だから、殺陣の場面が増えていったんじゃないかと思います。 一緒に殺陣で組んだ成田三樹夫さん、素敵でしたね。白塗りにされて、眉をちょこんと書かれた烏丸(からすま)少将文麿(あやまろ)の姿を見て、綺麗だな、かっこいいなあと思いました。役になりきって演じられていました。 次に深作監督の作品に出演したのは時代劇から一転してSFの「宇宙からのメッセージ」。奈良の生駒に惑星のロケセットを組んで、宇宙船も造って、その中で私がエメラリーダ姫を演じました。ヴィク・モローさんと共演できたのは感慨深かったですね。『コンバット』の「軍曹」は家族中で見ていましたから。  ──その後1981年、深作は志穂美が主演した舞台『柳生十兵衛 魔界転生』の演出を務めた。 志穂美: あるとき私が、「これから歌って踊って魅せる時代が来る、JACはこんなに動けるんだから舞台をやりたい」と千葉さんに直訴して、真田広之君も巻き込んで、踊りのレッスンをはじめました。当時、TVで放送していた『ソウル・トレイン』なんかを見て刺激を受けていたんです。だから、この舞台(『柳生十兵衛 魔界転生』)ができたことが嬉しかったですね。当時は真田君人気でJACのオーディションをやると1日で3千人が受けに来た。そこからできる人たちを集めて舞台を作りました。 これは映画「魔界転生」(81、深作欣二監督)の舞台版で、映画で沢田研二さんが演じた天草四郎時貞を女性に変えて、私が演じました。宙吊りになって私が一人で登場する。降りてから薙刀(なぎなた)を持って「全知全能の神よ!」と叫ぶんですが、そのあとも一人で言うセリフが2~3頁ずうっと続くんです。あの頃はそれも一瞬で覚えられたんですよね。 深作監督は演出のとき、とにかく舞台の上を走り回るんです。演出家というと客席から舞台を見て意見を言うものですが、深作監督は客席にいるのを見たことがないんです。いつも私たち、役者と一緒の側にいて、一緒に作ってくださる監督でした。  ──そして、「里見八犬伝」の犬坂毛野、「上海バンスキング」のクラブの歌姫・リリーが深作と志穂美の最後の仕事となる。 志穂美: 「里見八犬伝」のときは、「悦っちゃん、蛇持てる? 首に巻ける?」──最初に深作監督からそう言われて、「えッ!?」となりました。「観光地の記念写真みたいにニシキ蛇を首に巻いて登場するのが毛野のイメージなんだ」と。それぐらいのインパクトが欲しかったんだと思うんです。それで蛇に慣れようと、伊豆のジャパン・スネークセンターにも行きましたが、前世で蛇と何かあったのか、私にはとても無理(笑)。「監督、自分なりの努力はしてきました。けれど、蛇には触れないし、巻きつけるなんて無理です」と言いました。諦めてくれたのでしょう。代わりに、作り物の大蛇にグルグル巻きにされて私自身が飛びましたが、それは私にとって初のワイヤーアクションのシーンでした。 私が登場する場面にも、最後の場面にも桜吹雪が散っています。それが監督のイメージだったんでしょうね。散らすために用意された花びらが100枚ぐらい綴られていて、照明待ちの1時間半ぐらいの間に一枚一枚剝かなければならないんです。深作監督とスクリプターの田中美佐江さんと私で、一緒にずうっとその単純作業をしました。なかなか、そういうことまでなさる監督さんっていませんよね。そうしたら深作監督が「いいなぁ」とおっしゃるんです。監督として現場でいろいろと考えなければならないときだったと思うのですが「無心になれるなぁ、これがいいんだよ」って。そのひとことをすごく覚えています。 「上海バンスキング」は、オンシアター自由劇場の舞台を見ていましたから「松坂慶子さんと一緒に歌って踊ってほしい」と依頼をいただけて、嬉しかったです。映画賞を総ナメにした「蒲田行進曲」──私も一場面だけ出演させてもらいましたが──のメンバーが再び集 まった映画に参加できるのも、本当に嬉しかったですね。 リリーは中国人なので、カタコトの日本語しかしゃべれません。さらに私にとって初の奥さん役ですから、どういうふうに演じたらいいのだろうと思って、深作監督とディスカッションをさせてもらいました。そこで「切なさを出すようにしよう」「純粋に夫の亘(宇崎竜童)を愛しているんだから、健気さを出そう」とエスコートしてくださったんです。少女が空手をする「女必殺拳」シリーズで女優人生をスタートして10年、28歳になって演じたリリー役で、「この子、色気もあるよ」と私の女っぽい部分を引き出そうとしてくださったのかな、と思っています。深作監督は、私のことをずっと見てくださっていたんですね。 深作欣二の〈故郷〉 志穂美: このあと「二代目はクリスチャン」( 85 、井筒和幸監督)に主演して、「男はつらいよ 幸福の青い鳥」(86、山田洋次監督)にも出演します。ですが、深作監督とはご一緒する機会がないまま……やがて結婚して、私は映画を封印してしまったんです。だから話題になった「バトル・ロワイアル」(00)も拝見していません。家庭を作りましたし、子育てをしなければならないので、最近まで映画は観ないようにしていたんです。本質的に映画に出ることが好きなので、観ると血が騒ぎ出してしまいますから。 私が映画に出演させていただいた頃は、本当にいい時代でした。時代も私に味方をしてくれたんだと思います。だからこそ、私はスクリーンの中で「戦う女」でいられました。だって私、お茶の間でご飯食べたりなんて似合わないですもん(笑)。自分が一番目指して、普通はなれないものになることができた。職業にできた。そのことが、自分の人生において、本当に素晴らしいことだったと思っています。 そんな映画の世界で深作監督と出会うことができました。深作監督の生い立ちのこととか、もうちょっと興味を持って聞いておけばよかった、といまにして思うんです。深作監督は〈故郷〉(ふるさと)という曲がお好きでした。うさぎ追いしかの山……水戸でのご自分の原風景と重ねられていたんでしょうね。   ──かつて深作とともにスクリーンを沸かせた志穂美悦子は現在、フラワーアレンジメントを手がける「花創作家」として活動し、依頼があると巨大な花を活ける。そして今も筋トレをし、動ける身体を維持しているという。「90歳になったときにアクションおばあちゃんをやってみたい」と話す口調は、あながち冗談でもなさそうだ。 取材の最後に、志穂美が薬師寺の聖観世音菩薩に手向けた5千本の花の写真を見せてもらった。絢爛でありながら寂として、深作欣二が好きだった桜吹雪の匂いがした。 取材・文=伊藤彰彦 撮影=近藤みどり 制作=キネマ旬報社(キネマ旬報2023年4月上旬号より転載)   志穂美悦子[元俳優・花創作家] しほみ・えつこ/1955年生まれ、岡山県出身。72年、千葉真一主宰のジャパンアクションクラブ(JAC)を受験し合格。「女必殺拳」(74)で映画初主演。本作はシリーズ化され日本初のアクション女優として人気を博す。「華麗なる追跡」(75)、「女必殺五段拳」(76)など主演作のほか、千葉やJACの弟分・真田広之と共演した助演作も多い。87年、結婚を機に芸能界を引退。2010年から花の世界に魅せられ、フラワーアレンジメント作品の制作を開始。13年、奈良明日香村での天武天皇御陵献花をはじめ、各地で展覧会やステージパフォーマンスを披露している。 深作欣二 ふかさく・きんじ:1930年生まれ、茨城県出身。53年、東映に入社。「風来坊探偵 赤い谷の惨劇」(61)で監督デビュー。67年からはフリーとして東映、松竹、東宝、大映などでも活躍。73年から始まった「仁義なき戦い」シリーズは大ヒットを記録。同作を筆頭とする実録ヤクザ映画、現代アクションをはじめ、SF、時代劇大作、伝奇物、文芸物など幅広いジャンルの娯楽作品を手掛ける。実質的な遺作となった「バトル・ロワイアル」(00)まで、生涯に手掛けた長篇劇場映画は全60作。2003年、ガンのため死去。享年72。   『没後20年総力特集 映画監督 深作欣二』 ◉東映チャンネルでは1月から9カ月にわたり、全51本という過去最大級の規模で監督作品を特集放映。代表作から希少なドキュメンタリー作品まで、反骨のエネルギーにあふれた数々の作品を、ぜひこの機会に! ▶東映チャンネルの公式サイトはこちら ★2023年6月放送予定 【まだ間に合う!見逃し深作欣二】 ●柳生一族の陰謀 4Kリマスター版 13日(火)12:30-15:00、30日(金)11:00-13:30 ●赤穂城断絶 6日(火)12:00-15:00 ●バトル・ロワイアル 4Kリマスター版[R15+] 13日(火)22:00-24:00 ●バトル・ロワイアルⅡ【特別篇】REVENGE[R15+] 14日(水)22:00-24:50 ●宇宙からのメッセージ 2日(金)23:30-25:30、15日(木)22:00-24:00 【没後20年総力特集 映画監督 深作欣二 Vol.6】 ●資金源強奪 5日(月)20:00-22:00、15日(木)13:00-15:00、22日(木)21:30-23:30 ●暴走パニック 大激突 6日(火)20:00-21:30、12日(月)22:00-23:30、19日(月)21:30-23:00 ●白昼の無頼漢 7日(水)20:00-21:30、11日(日)22:00-23:30、20日(火)21:30-23:00 ●ギャング対Gメン 8日(木)20:00-21:30、16日(金)11:00-12:30、26日(月)23:00-24:30 ●ギャング同盟 9日(金)20:00-21:30、21日(水)13:30-15:00、27日(火)23:00-24:30 ●脅迫(おどし) 10日(土)20:00-21:30、16日(金)12:30-14:00、21日(水)21:30-23:00

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