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  • ネットフリックスをはじめ各種ストリーミング配信サービスの存在感が日々高まっているなか、そこではいったい 何が起こっているのか?そして私たち映画ファンは、配信作品とどのように向き合うべきだろうか?長年映画を見続けながら配信にも親しんできた 3人に自由に語っていただいた。 ネット配信の複雑な現状   ─ ネットフリックスをはじめとする配信サービスが花盛りですが、皆さんはどのように見られていますか?    村山 正直言って、配信の全体像って把握できないですよね?そもそも数が多すぎるし、ネットフリックスにあると思っていたらある日突然消えて、今度はアマゾンで見れるようになる、そういう流浪の作品もある。 長谷川 ユーザーの嗜好に応じたリコメンド機能があるといっても、すでに見た作品に近いものしか出てこないし、 何がどの配信プラットフォームで見られるのかを教えてくれるメディアもない状況ですもんね。それこそ、伝聞や噂話を頼りに雲を摑むようなやり方で辿り着くっていう。 宇野 しかもプラットフォームが替わると、タイトルすら替わる場合もありますからね。例えばスターチャンネルで『キング・オブ・メディア』として放送されていたドラマが『サクセッション』とタイトルを変えてアマゾンで配信されたり。初見の人はこんがらがるでしょう。 『サクセッション』(別題『キング・オブ・メディア』)HBO製作の社会派コメディ・ドラマシリーズ。ニューヨークを舞台に、メディア王の醜い 後継者争いと会社の行く末が描かれる。Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」で配信中©2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO ©and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.   村山 あと、いわゆる「Netflix オリジナル」とは何か?っていう問題がありますよね。画面上に「N」とい うロゴマーク付きで表示されるものはオリジナルという扱いなんだけど、その中には日本以外では普通に劇場公開されてる作品が結構ある。 宇野 「N」が付くか付かないかはネットフリックスが買い付けるときの条件の違いなんです。例えば日本で劇場公開された行定勲監督の「リバーズ・エッジ」( 18年劇場公開)は、海外では「Netflix オリジナル」作品として配信されている。 長谷川 要は「独占配信」ぐらいの意味なんですね。 宇野 「Netflix オリジナル」の「オリジナル」は、その国ごとの配信権を意味してるだけなんです。つまり「 Netflixオリジナル」になっている作品の中には、企画段階から関わっているもの、作品が完成した段階で買い付けているもの、そして、その国では劇場未公開という理由によって独占配信になってるものがある。当然、独占配信にはそのための契約が発生しているので、それをもってネットフリックスのお墨付き作品と言ってもいいわけですけど、同じ「Netflixオリジナル」でも、実際は3段階あることは理解しておいたほうがいいです。 村山 誤解されがちですけどネットフリックスは「ROMA/ローマ」(18年製作、Netflix で配信中)を完成してから買い付けたわけですよね。2017年に「最後の追跡」がアカデミー賞にノミネートされたときも、配信の作品がオスカー候補にと紹介されたりもしましたけど、 あれは日本で「Netflix オリジナル」扱いだっただけで、 海外では普通に劇場公開されてましたし。 宇野 ネットフリックスは、ピーター・バーグやマイケル・ベイみたいなエンタテインメント路線は普通のシーズンに出して、アカデミーやゴールデングローブなど賞狙いの作品は秋以降に固めるというのを露骨にやりますよね。投票権のある会員の記憶力は3カ月くらいしかもたないという前提に立った彼らの戦略が今のところ当たっているかたちです。 日本語データベースの問題   村山 配信と劇場公開の問題で言うと、たとえばピーター・ジャクソンの 映画「彼らは生きていた」(18年製作)は、 日本で劇場公開される前からアマゾンやYouTubeの配信で 普通に見ることができた、というようなことも起きていますよね。「ゼイ・シャ ル・ノット・グロウ・ オールド」とタイトルは違うんですが。 宇野「イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり」(19年製作)、少し前だと「タンジェリン」(17年製作)もそうでしたね。ずっとネットで見れてたんだけど今さら劇場公開?っていう滑稽な状況が続いています。 村山 観客側としては、見る窓口が増えたんだと好意的に捉えてはいますけどね。 宇野 今の混乱した状況はある種、過渡期なのかなと思います。そんな中もはや解決できそうにもないのが日本語によるデータベースの問題。我々はすでに外国の監督や俳優のフィルモグラフィーを日本語環境でまともに把握できなくて、海外サイトの IMDb(インターネット・ ムービー・データベース)とかに頼るしかない。日本語のウィキペディアとか情報が不完全過ぎてもはや害悪ですらある。 長谷川 大抵更新が3年ぐらい前で止まってますからね。 みんな途中で挫折して(笑)。 宇野 『ゲーム・オブ・スローンズ』(HBO製作のドラマ、Hulu 等で配信中)みたいなビッグタイトルはある 程度押さえられてるけど、それ以外のドラマは歯抜け状態だし、映画もどのメディアも配信作品をフォローしきれてない。例えばアダム・ドライヴァーについて「スター・ウォーズ」と「マリッジ・ストーリー」は見てても「ザ・レポート」( 19年製作の映画、日本ではAmazon プライム・ビデオで配信中)を見てる人はほどんどいない。その時点で、少なくともプロとしては現在の彼について語る資格がないはずなんですよ。でも、日本のメディアで「ザ・レポート」は取り上げられない。   「ザ・レポート」 Amazon Prime Videoにて独占配信中。 アダム・ドライヴァーを主演に迎え、9.11後にCIAがテロリストに行った拷問調査の公 表めぐる人々の攻防を描くスリラー映画。   長谷川 僕が主戦場にしている海外コメディ映画の分野では2000年代ぐらいから日本ではほとんどがDVDスルーになってしまって、多くの国内メディアから情報が消えてしまった。そういう状態がメインストリームの映画に及んでる危機感はあるかもしれない。 村山 やっぱり根底には作品数が多すぎるという問題がありますよ。 宇野 確かにそれはあるけれど、見られる以上、メディアの人間ならそこを追っかけないといけない。今のハリウッド映画を見ていると、『ブレイキング・バッド』 (2008〜 13年製作のドラマ、Netflix 等で配信中)やゲースロからスターになった人たちがいっぱい出ていて、 それを把握してないと楽しめない部分がある。“ゲースロでこういう役をやってる奴がこんな役をやってる”っ ていう文脈が確かにあるんです。ただでさえハードルのある外国映画が、それによってさらなるコンテクスト地獄に陥るというマイナス面もありますが。 長谷川 例えばリース・ウィザースプーンは映画界では落ち目で、「わたしに会うまでの1600キロ」(14年製作)のあとロクな作品に出てないと思われている。でも実は、いま彼女は配信TVドラマの女王なんです。 どの局でも主演作をやっていて、どれも成功させている。 そういう認識を持ってないと、今度リースが映画に出たときに彼女の立ち位置をまったく見誤ってしまうことになる。 宇野 監督や役者が旬なのか、そうでないのかという情報は絶対に必要ですよね。ジュリア・ロバーツとかも最近はあまり映画出てないから落ち目と思われているかもしれないけど......。 長谷川 むしろ盛り返してますよね(笑)。 宇野 若手だけじゃなく、ジュリア・ロバーツのような大女優ですら正確にキャリアが認識されてない状況が起こってる。   長谷川 あのジェーン・フォンダもここ数年、黄金期を迎えてます。ネットフリックスのドラマ『グレイス&フランキー』(15年〜)で国民的な人気を博して、ロバート・レッドフォードと共演した映画「夜が明けるまで」( 17年製作、Netflixで配信中)もある。アメリカでは中高年向けの作品づくりも配信で着々と進んでいるんです。   宇野 イーストウッドのような劇場映画しか撮らない存在だけを扱うならいざ知らず、普通に映画を語るなら配信作品を見なくちゃしょうがない。それがまぎれもない現実だと思います。 アダム・サンドラーという成功例  ─ アダム・サンドラーは今ネットフリックスで最も成功を収めているスターの一人ですが、彼の活躍についてはどのように考えますか 。 長谷川 映画で大コケしたのが3本ぐらい続いていたので、彼がネットフリックスに拠点を移したときは都落ちしたなと思っていました。そもそも、あまり作品にお金をかけないサンドラーが西部劇コメディの企画書を出したらメジャー映画会社3つぐらいから断られてしまった。そんな中、ネットフリックスはいきなり巨額のお金を出したんです。誰もが無謀だと思っていたけど、蓋を開けてみたらその作品「リディキュラス6」( 15年製作、Netflixで配信中)はそれまでのネットフリックスのコンテンツで一番視聴数を稼ぐほど大ヒットした。これは僕の仮説ですが、彼の映画が不入りだったのは、実は彼のファン層が歳を取って子育てや介護で忙しくて映画館に行かなかっただけなんじゃないか。そして、ネットフリックスはもしかしたら、 彼の人気が実際は落ちてないことをデータで摑んでたのではないか。   宇野 要するにソフトやレンタルで多く回ってたからってことですか?  長谷川 そうです。去年ジェニファー・アニストンと組んだ「マーダー・ミステリー」( 19年製作、Netflix で配信中)もすごい視聴数を稼ぎました。彼女は大人気 シットコム『フレンズ』(94~04年放映)で注目されたあと映画に進出していたけど、昨年アップルTV+の、これまたウィザースプーンが関わってる『ザ・モーニ ングショー』でドラマに帰ってきた。彼女のような中年の俳優たちがサンドラーから学んで、こっちに行ったほうがいいんじゃないかと考えた可能性はある。昨年 エディ・マーフィがネットフリックスで「ルディ・レ イ・ムーア」を製作したのも、そういった流れなのかなと思います。エディのファン層はサンドラー以上に年寄りが多いはずなので(笑)。それから「マイヤー ウィッツ家の人々(改訂版)」(17年製作、Netflixで配信中)でノア・バームバックとネットフリックスを結び付けたこともサンドラー効果と言えるかもしれない。 宇野 「アンカット・ダイヤモンド」(19年製作、Netflixで配信中)もありますね。 Netflix映画『アンカット・ダイヤモンド』独占配信中。米インディーズの気鋭ジョシュ&ベニー・サフディ兄弟監督が、アダム・サンドラーを主演に迎えたクライムドラマ。 長谷川 そう! それもサンドラー効果ですよ。  宇野 監督のサフディ兄弟は近年ニューヨークから出てきたインディー監督では断トツで尖ってる存在で、前作「グッド・タイム」(17年製作)も強烈でした。そのときに騒いだのが当時まだ恋人同士だったセレーナ・ゴメス とR&B界の人気スター、ザ・ウィークエンドだった。 とくにセレーナは全然自分は映画に関与してないのにロサンゼルスで試写会を開いたりするほどで、その流れで 「アンカット・ダイヤモンド」にはザ・ウィークエンドが本人役で出てる。 長谷川 (劇中の時代設定である)2012年当時の本人役なのがおかしいですよね(笑)。 宇野 この映画のスコアは「グッド・タイム」と同様、 ゴリゴリの前衛電子音楽家OPN(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)が手掛けてて、彼はウィークエンドの新作アルバム『アフター・アワーズ』もプロデュースしてる。もちろんタイトルはスコセッシの映画から取ってるわけで、サフディ兄弟も21世紀のスコセッシみたいな存在であり、サンドラーの要素もあり、色々なものが合体して、なおかつ奇跡的にすごい映画になってるウルトラ重要作が「アンカット・ダイヤモンド」。 ひとつ残念なのが、あまりにも音がすごいので、これこそ映画館の音響で見たかった。  村山「アイリッシュマン」とか「キング」(ともに19年製作、Netflixで配信中)とか、最近ネットフリックスの作品が相次いで日本でも劇場公開されましたけど、「アンカット・ダイヤモンド」はなんでされなかったんでしょう?  宇野 あれはアメリカで普通に劇場公開されてるからなんですよ。「アイリッシュマン」とかは、基本ネットフリックスで配信するものを限定公開するという条件で複数作品のパッケージで販売されてるんです。  村山 劇場配給権を別に買わないと日本では公開できないってことですね。  宇野 そもそも「アンカット・ダイヤモンド」は日本を含む複数国では最初から「Netflix オリジナル」前提で、マーケットにも出てないはずです。製作はA24なんですけどね。  村山 「アンカット・ダイヤモンド」でちょっと不思議 だったのは、ネットフリックスが珍しく邦題っぽい邦題をつけましたよね。原題は「Uncut Gems(原石)」で、 宝石は出てくるけどダイヤではない。 宇野 オパールですよね(笑)。 村山 日本人にわかりやすいように敢えてタイトルで嘘をついてるパターンですよね(笑)。  長谷川 どうせなら「狼たちの○○」みたいなニューシネマっぽいタイトルにすれば、もっと見るべき人に届きそうな気がしますね。 ソダーバーグの苦闘と配信の未来 村山 作品を見るべき人に届けるということで言えば、スティーヴン・ソダーバーグも自分の企画がリス キーだからと言われて映画会社に通らないこととの戦いをずっとしてましたよね。以前「フル・フロンタル」(02年製作の映画)で取材したときに、「これからは映写がデジタルになるから、俺は作品をハードディスクに完パケして、そのまま衛星回線で世界中の映画館のサーバーに流すんだ」と言っていたことを思い出します。   長谷川 ああ、結構いい線いってたんですね(笑)。 村山 その後スパイク・ジョーンズやデイヴィッド・ フィンチャーらと組んで優先的に面白い中小規模の企画を流すからと映画会社と専属契約をしようと試みたんですけど、それもポシャっちゃった。それでもう映画界では自分の企画が通らないということで2013 年以降、一時的にTVに活躍の場を移しましたよね。 最近は「ザ・ランドロマット -パナマ文書流出- 」(19年製作、Netflix で配信中)をはじめ、配信のおかげでようやく彼がやりたい企画を撮れる土壌が出来つつある気がします。 宇野 彼が「ローガン・ラッキー」(17年製作)で劇場映画に復帰したのも、作品の権利を持った上で売り込むスタイルを構築できたからだと言ってましたよね。 村山 全米配給のための会社(フィンガープリント・リリーシング)を自分で作ったんですよね。 宇野 映画とTVの間でふらふらしてるように見えて全部一貫してる。 長谷川 それに絡めると、ロバート・ロドリゲスも自分でカメラを担いで撮る人ですけど、彼はアメリカでCSチャンネル(エル・レイ・ネットワーク)を持ってるんですよね。 山・宇野 ええ!そうなんだ。  長谷川 「フロム・ダスク・ティル・ドーン」のドラマ版( 年製作)はそこが最初のオンエア局で、ほかには 自分がインスパイアされたB級映画ばかり放映してる。 テキサスで小さな王国を作ってるんですよ。そういう人って増えてきてるのかなと思いますね。  宇野 タランティーノがロサンゼルスにフィルム上映専用の映画館を運営してるのもそうですね。作り手も大資本に任せるんじゃなくて、最終的なアウトプットまで自分で回路を作る流れが生まれてる。音楽はとっくの昔にそうなってたけど、映画もそれにどんどん近づいてきてますよね。  村山 でも、全体的な状況で言うと、配信はいっときほどインディーズのパラダイスではなくなってきてますよね。メジャーでは難しい企画や見られる機会の少ない映画を救ってくれた功績は確かにありますが。 長谷川 たぶん中規模以下の映画にとっては“いま”が 黄金時代ですよね。  村山 それも終わりかかってる気はします。  宇野 昨年末から今年にかけてディズニープラスとHBOマックス、ピーコックが始まり、ネットフリックスやアマゾンの包囲網が出来てきている……。 長谷川 HBOはワーナー系、ピーコックはユニバーサル系。大手がそれぞれ配信プラットフォームを立ち上げてライバル関係になってくると、金勘定にシビアになって、映画より安上がりなリアリティ・ショーやドキュメンタリーに流れていく可能性はありますよね。 宇野 ネットフリックスはこれまで賞狙いの作品と中規模のエンターテインメント作品、そしてローカル・ コンテンツを製作してきた。中でもローカル・コンテンツが重要で、それがほかのストリーミング・サービスとは一番違うところだと思う。今後も賞狙いとローカル・ コンテンツは継続していくだろうけど、有名監督が自由に撮ってきた中規模作品にしわ寄せがくる予感がします。将来的に振り返ったときに、“いま”がいい時代だったなとなりかねない。 映画館で公開されるもの="映画"ではない   宇野 最近、ネットフリックスで国内の人気作品のラ ンキングが見れるようになりましたよね。あれを見て愕然としたんですが、上位は『テラスハウス』以外ほぼアニメ。海外の映画やドラマを比較的見そうな層が契約してるネットフリックスですらこれなのかと。  村山 僕は逆に、映画とかドラマに本来そんなに興味がない人まで加入した結果であって、ネットフリックスは日本に定着したんだとも思いました。でも、多くの人が映画館で公開されるものだけが映画だと思い込もうとしてるけど、もはやその垣根ってナンセンスですよね。 長谷川 ハリウッドもそうだし、あとカンヌも思い込もうとしてますね(笑)。  宇野 最初にも話したように、現実として海外で劇場公開されてる作品もあって、内容的にはまったく差がない。ただただローカルの問題でしかないのに。  村山 良くも悪くもかも知れませんが、映画はこういうものだという固定概念を配信という存在が変えてくれているとは思います。 長谷川 でもそうやって垣根がなくなって、気合の入った作品というか、緊張を強いる作品が増えてくると、逆に息抜きのような作品も欲しくなりますよね。 僕はそんなときはフード系のドキュメンタリーばっかり見ちゃう(笑)。  村山 『タコスのすべて』 (19年製作、Netflix で配信中)っ て見てます? 長谷川 大好きです! 村山 あれ最高ですよね! 宇野 ロックダウン下のアメリカでは『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者 』(20年製作、Netflix で配信中)ってドキュメンタリーが話題になってます。これが面白いんですよ! ─ ネットフリックスは秀逸なドキュメンタリーも多いですよね。 まだまだ話題は尽きないところですが、そのあたりはまたの機会 にぜひ詳しく。ありがとうございました! 取材・構成:常川拓也 長谷川町蔵 はせがわ・まちぞう/文筆家。映画や音楽についての評論 やコラム、小説執筆など、幅広く活躍中。近著に『文化系の ためのヒップホップ入門3』(大和田俊之との共著)。 宇野維正 うの・これまさ/映画・音楽ジャーナリスト。リアルサウンド映 画部アドバイザー。著書に『1998年の宇多田ヒカル』『小沢 健二の帰還』『2010s』(田中宗一郎との共著)など。  村山章 むらやま・あきら/映画ライター。新聞、雑誌、ウェブなどに映 画レビューやインタビュー記事等を執筆。配信系作品をレ ビューするサイト「ShortCuts」の代表も務める。 
  • オリジナル映画からドラマシリーズ、バラエティショーまで、膨大かつさまざまなコンテンツが楽しめるネット配信。その中で “ 映画ファン” が楽しめる作品にはどんなものがあるのか? その答えに近づくべく、映画のプロであり、映画ファンの代表とも言える評論家、ライター、ジャーナリストの方々におすすめの作品を聞いてみました。 ◉作品リストの後ろの( )内は 2020年4月時点での配信プラットフォームです。リストの1~5は便宜上のもので、基本的に序列はありません。  映画ライター 常川拓也おすすめの5本 1:ユニークライフ(Netflix) ※シリーズ 2:セックス・エデュケーション(Netflix) ※シリーズ 3:ノット・オーケー(Netflix) ※シリーズ 4:アンビリーバブル たった 1 つの真実(Netflix) ※シリーズ 5: 同じ遺伝子の 3 人の他人(別題:まったく同じ 3 人の他人) (Amazon プライム・ビデオ)  Netflixオリジナルシリーズ『ユニークライフ』独占配信中 スティーヴン・キングやジョン・ヒューズが築いた学園青春ものの伝統を踏まえた上で、多様な 人種やセクシャリティを持つキャラクターを意欲 的に盛り込むことで、既存のステレオタイプやパラダイムを変革し、クィアを祝福する包括的なドラマを中心に選んだ(順不同)。ジェニファー・ジェイソン・リー製作の1は、軽視されがちだが、ノア・バームバックが元妻である彼女との体験を基にした「マリッジ・ストーリー」と少なくとも同等に評価されるべき。パンセクシャルやアセクシャルをも明確に照射するセックスポジティブな 2、クィア版「キャリー」な3。4は「童貞。をプロデュース」の性的暴行の告発を考える上でも必見の現代の最重要フェミニズム・ドラマ。   映画批評/編集者 降矢聡おすすめの5本 1:ブリタニー・ランズ・ア・マラソン(Amazon プライム・ビデオ) 2:ハイ・フライング・バード-目指せバスケの頂点-(Netflix) 3:マーダー・ミステリー(Netflix) 4:風の向こうへ(Netflix) 5:ホールド・ザ・ダーク そこにある闇(Netflix)  Amazon Prime Videoにて「ブリタニー・ランズ・ア・マラソン」独占配信中 オーソン・ウェルズの未完の遺作「風の向こうへ」がネットフリックスによってまさか完成されようとは。まさか、といえば配信作品でのアダム・サンドラーの目覚ましい活躍もそうだ。「マーダー・ミステリー」のようなサスペンスコメディはなにより演者の魅力にかかっている。であれば、 嫌な人物を魅力的に演じるというコメディ俳優の真骨頂「ブリタニー・ランズ・ア・マラソン」もオススメ。若手の有望株ジェレミー・ソルニエによるストイックな最新作「ホールド・ザ・ダーク そこにある闇」やスティーヴン・ソダーバーグの インディ精神溢れる「ハイ・フライング・バード- 目指せバスケの頂点 - 」も配信だからこそ可能となった映画だろう。    映画評論家 真魚八重子おすすめの5本 1:コミンスキー・メソッド(Netflix) ※シリーズ 2:バリー(Amazon プライム・ビデオ)※シリーズ 3:FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー (Netflix) 4:アンカット・ダイヤモンド(Netflix) 5:マインドハンター(Netflix) ※シリーズ Netflixオリジナルシリーズ『コミンスキー・メソッド』独占配信中   『コミンスキー・メソッド』におけるマイケル・ ダグラスの軽妙さ。年齢に対する悲嘆をこめた自 虐的な目線と、それでも喜びがある挿話が楽しい。『バリー』も同じく演劇教室が舞台という偶然。 本作ではビル・ヘイダーの繊細な演技に泣かされる。バリーの心に、かすかなさざ波が立つ瞬間のドラマティックさに胸が突かれる。そして 「 FYRE~」の逃れ難い悪夢っぷり。どうにも止まらない暴走機関車のような悲劇に、黒い笑いを越えて鳥肌が立つ。「アンカット・ダイヤモンド」は作品も素晴らしいし、サフディ兄弟の新作が配信で観られる簡易さが嬉しい。気軽に観る視聴者によってファンも増えるかもしれないので。『マインドハンター』はルックが好み。 映画評論家 森直人おすすめの5本 1:FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー (Netflix) 2:ザ・ダート:モトリー・クルー自伝(Netflix) 3:ルディ・レイ・ムーア(Netflix) 4:全裸監督(Netflix) ※シリーズ 5:チェルノブイリ(Amazon プライム・ビデオほか)※シリーズ 「FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー」 Netflix映画『FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー』独占配信中 ネットフリックスのオリジナルドキュメンタリーが大好きで、つまみ食いの感覚でいろんな作品を日々鑑賞しています。本稿では最近の代表1本として怪作の類いをレコメンド。「 FYRE~」は悪名高き音楽フェス計画の大失敗に至る顚末を追ったもので、これほど現代の空虚で埋まっている映像作品を他に知りません。マジで観ている間、溜め息しか出ない(笑)。こういう昔で言う“ビデオス ルー”的な掘り出し物こそが大好物です。残りの4本は有名タイトルばかりで恐縮。 HBOのドラマシリーズ『チェルノブイリ』は Amazonプライムで観たのでセレクトに加えました。思えば本当にここ1~2年で、配信専用作品か否かという区別をほとんど意識しなくなったのは自分でも驚きです   映画評論家 吉田伊知郎おすすめの5本 1:同じ遺伝子の3人の他人(別題:まったく同じ 3 人の他人) (Amazon プライム・ビデオ) 2:チャック・ノリス vs 共産主義(Netflix) 3:ロングショット(Netflix) 4:消えた 16mm フィルム(Netflix) 5:マーキュリー13 宇宙開発を支えた女性たち(Netflix)   映画「マーキュリ−13 宇宙開発を支えた女性たち」Netflixにて独占配信中 ドキュメンタリーに限定したが、「同じ遺伝子の3人の他人」はTIFFで「まったく同じ人の他人」の題で上映されたもので、生き別れの3つ子が偶然再会したことから有名人となる。信じがたい内容だがこれがすべて仕組まれたものだったことが明かされる後半の転調も凄い。「チャック・ノリス共産主義」は西側諸国の情報を遮られた国民が米国映画を密かに鑑賞する映画会を催す。映画で世界を知ったと語るのが感動的。「ロングショット」は冤罪を晴らすために意外な映像が登場し、「消えた16mmフィルム」は映画に取り憑かれた者の狂気に慄く。宇宙飛行士志望の女性たちを描いた「マーキュリー~」は「ドリーム」の裏面史的面白さあり。   映画批評・編集者 渡部幻おすすめの5本 1:アンカット・ダイヤモンド(Netflix) 2:サクセッション(別題:キング・オブ・メディア)(Amazonプライム・ビデオ)※シリーズ 3:DEUCE/ポルノストリートinNY(Amazonプライム・ビデオ)※シリーズ 4:ウエストワールド(Amazon プライム・ビデオ)※シリーズ 5:伝説の映画監督 - ハリウッドと第二次世界大戦 - ( N e t fl i x ) ※シリーズ   Amazon Prime Videoにて『ホームカミング』シーズン1~2を独占配信中 1の映像と音のうねりは劇場で観たかった。2はメディア王一族の継承争いを辛辣に描いて抜群。3の70~80 年代の街と性意識の変遷。4はビッグデータに管理され、自由が幻影となった世界の悪夢と革命。5 は映画ファン必見のドキュメンタリー。配信終了間近の「ベトナム戦争の記録:ケン・バーンズ&リン・ノービック 監督」(Netflix) の大胆な構成は圧倒的。さらにHBOの『ウォッチメン』『シャープ・オブジェクツ』『ザ・ナイト・オブ』 『TRUE DETECTIVE』『またの名をグレイス』 『チェルノブイリ』『ビッグ・リトル・ライズ』、それに『MR・ ROBOT/ミスター・ロボット』『ブラック・ミラー』の着想、構成、社会批評に興奮したが、有名作なので、加えて映画マニア向けの拾い物『ホームカミング』( Amazon) を。帰還兵収容施設をめぐる奇妙なミステリ。       ・今こそ見るべき!映画のプロ11人に聞く”私のおすすめ配信ムービー5本”【前篇】こちらから
  • オリジナル映画からドラマシリーズ、バラエティショーまで、膨大かつさまざまなコンテンツが楽しめるネット配信。その中で “ 映画ファン” が楽しめる作品にはどんなものがあるのか? その答えに近づくべく、映画のプロであり、映画ファンの代表とも言える評論家、ライター、ジャーナリストの方々におすすめの作品を聞いてみました。 ◉作品リストの後ろの( )内は 2020年4月時点での配信プラットフォームです。リストの1~5は便宜上のもので、基本的に序列はありません。  在LA映画ライター 荻原順子おすすめの5本 1:ビリオンズ(Netflix)※シリーズ 2:ジ・アメリカンズ(Amazonプライム・ビデオ/Hulu)※シリーズ 3:バリー(Amazonプライム・ビデオ)※シリーズ 4:ブラック・ミラー(Netflix)※シリーズ 5:ロスト・マネー 偽りの報酬(Amazonプライム・ビデオほか)   「ロスト・マネー 偽りの報酬」 Amazonプライム・ビデオほかにてデジタル配信中 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン ©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 『ビリオンズ』はニューヨークを舞台に政界とビジネス界に生きる男たちの容赦ない闘争を描き、 『ジ・アメリカンズ』は年代の米国に潜入したロシア人スパイ夫婦の暗躍を描いているが、両作とも登場人物像の掘り下げが深く、回を追うごとに面白さが倍増するところが凄い。俳優志望の殺し屋が主人公だという前代未聞な設定の30分枠ダークコメディ『バリー』は個性的な登場人物たちの言動に抱腹絶倒必至。『ブラック・ミラー』 は21世紀の『トワイライト・ゾーン』とでも呼びたくなる知性派SFファンタジー。「ロスト・マネー 偽りの報酬」は日本では劇場公開されなかったのが全く納得できない秀作なので、映画ファンにはネット配信で是非!観てもらいたい。 映画評論家 鬼塚大輔おすすめの5本 1:呪われた死霊館(Netflix) 2:ペッタ!(Netflix) 3:伝説の映画監督-ハリウッドと第二次世界大戦-(Netflix)※シリーズ 4:ルディ・レイ・ムーア(Netflix) 5:ELI/イーライ((Netflix)  「呪われた死霊館」                                     Netflix映画『呪われた死霊館』独占配信中   「ミッドサマー」のサプライズ・ヒットで注目を浴びるフローレンス・ピュー。彼女の新作が続けて公開延期となっている今、「呪われた死霊館」 に注目。インドの“スーパースター”、ラジニ・ カーントの新作「ペッタ!」もネトフリにあるぞ。 ラストがどうにも衝撃的。ホラー映画「ELI/イーライ」は、古今東西のホラー映画の闇鍋状態。 なんでも有りのクライマックスは、ツッコミを入れつつ楽しみたい。エディ・マーフィの「ルディ・レイ・ムーア」は「エド・ウッド」、「カメラを止めるな!」にも負けない“ 映画作り映画 ”の快作。ちょっと古めだが『伝説の映画監督-ハリウッドと第二次世界大戦- 』は映画ファン必見のドキュメンタリーだ。    映画評論家 小野寺系おすすめの5本 1:バスターのバラード(Netflix) 2:ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー(Netflix) 3:ボクらを見る目(Netflix)※シリーズ 4:ブラック・ミラー:バンダースナッチ(Netflix) 5:トゥカ&バーティ(Netflix)※シリーズ 『トゥカ&バーティー』              Netflixオリジナルシリーズ『トゥカ&バーティー』独占配信中   制作・配給で膨大なオリジナル作品を確保するネットフリックスから選出。コーエン兄弟の西部劇「バスターのバラード」や、ダン・ギルロイの皮肉な美術ホラー「ベルベット・バズソー」は映画館でも観たい傑作。『ボクらを見る目』は黒人少年の実話を4話構成で描くリミテッドシリーズで、「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」は物語の展開を自分で選べる双方向映画。これらは配信ならではの自由な尺、そして仕組みが活かされた象徴的な作品だ。今年完結した名作アニメ『ボージャック・ホースマン』の製作者による、男性からの視線を排除し、女性の能動性を発揮した希有なアニメシリーズ『トゥカ&バーティー』 は、いまの時代を社会的な面から反映している。    映画ライター/ジャーナリスト 斉藤博昭おすすめの5本 1:スペンサー・コンフィデンシャル(Netflix) 2:Giri/Haji(Netflix)※シリーズ 3:ザ・レポート(Amazonプライム・ビデオ) 4:ROMA/ローマ完成までの道(Netflix) 5:ネバーランドにさよならを(Netflix)※シリーズ 「スペンサー・コンフィデンシャル」   Netflix映画『スペンサー・コンフィデンシャル』独占配信中   アクション系は、少なくとも初見は大きめスクリーンで体験したいけれど、ノリの良さがあればそこはこだわらなくていいと、P・バーグとM・ウォールバーグの最強コンビが教えてくれた「スペンサー~」。最高にハマリ役なこの主人公はシリーズ化を切望。『Giri/Haji』は海外目線の“なんちゃって日本”の匙加減がちょうどよくて感心。 あまりにリアルでも面白くないし、逆に勘違いで もしらけるわけで......。オスカー候補にもなって新作ラッシュのA・ドライヴァーの真髄を知る意味で「ザ・レポート」は必見。ネットフリックスはドキュメンタリーの宝庫で、とくに「ROMA/ ローマ」の舞台裏は、モノクロの本篇がカラーで別の味わいにシフトする不思議な感覚に酔った。  映画評論家 添野知生おすすめの5本 1:フォー・オール・マンカインド(Apple TV+)※シリーズ 2:ウォッチメン(Amazonプライム・ビデオ)※シリーズ 3:ウエストワールド(Amazonプライム・ビデオ)※シリーズ 4:マンドロリアン(ディズニーデラックス)※シリーズ 5:ラブ、デス&ロボット(Netflix)※シリーズ 『ウォッチメン』 Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」で配信中 ©2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.   全ジャンルから5本に絞るのは無理なのでSF縛りで。『フォー・オール・マンカインド』は、 ソ連が人類初の月着陸に成功したもう一つの宇宙開発史を描き、あり得たかもしれないより良い世界を模索したオルタナ・ヒストリーもの。『バトルスター・ギャラクティカ』のロナルド・D・ ムーア渾身の新作ですが、アップルTV+なので 知られていないのが残念。『ウォッチメン』『ウエストワールド』は共にHBO作品で、暴力と支配 のテーマをアメリカの原罪として暴き出したのが 共通点。『マンダロリアン』は年の輝きを取り 戻したスター・ウォーズ。『ラブ、デス&ロボット』は現代のアニメーションとSFがどれだけ多面的で多彩になっているかの見本市です。   ・今こそ見るべき!映画のプロ11人に聞く”私のおすすめ配信ムービー5本”【後篇】はこちらから
  • 配信ムービー・ピックアップ・レビューその7 「マンダロリアン」   数ある配信ムービーのなかから、選りすぐりの作品のレビューをお届け。日本屈指の「スター・ウォーズ」マニア・研究家として知られる河原一久氏に、噂のドラマシリーズの魅力について語っていただいた。 (C)2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.  『マンダロリアン』が勝ち取ったものはスター・ウォーズシリーズの未来なのか? 1977年から始まった「スター・ウォーズ」、 いわゆる「スカイウォーカー・サーガ」と呼ばれる正篇は、昨年暮れに公開された「エピソード9 スカイウォーカーの夜明け」によって、その42年にわたった長い歴史に(とりあえず)幕を下ろした。しかし「夜明け」の作品としての評価は大きく分かれ、興行収入もディズニー時代の3部作中、最も低い成績という結果となった。その是非は今後のシリーズ展開の行方にも左右されるだろうが、鑑賞後に「ノー!」と叫ばずにはいられなかったファンたちでさえ、興奮を抑えきれずに「イエス!」と膝を打つコンテンツが同時期に供給されたことは、 彼らにとっての正に「新たなる希望」 だったと言えるだろう。シリーズ初となる実写ドラマ『マンダロリアン』 のことだ。 ディズニーが独自のネット配信サービス「Disney+」の目玉コンテンツとして用意した『マンダロリアン』は、配信されると同時にハイパースペース級のスピードで世界中のファンの心を摑んだ。日本では「Disney+」の開始が未定だったため配信が危ぶまれたが、日本独自のサービス「ディズニーデラックス」で遅ればせながら配信され、2月中旬には全エピソードを一気見できる状態になった。  ではいったいこの『マンダロリアン』とはどんな内容なのか?そもそもこの単語自体、知らない人には謎なのだが、年季の入ったファンには昔から心をくすぐるキーワードだったのだ。 そもそも「エピソード5 帝国の逆襲」(80) に登場した賞金稼ぎボバ・フェットがすべての原点だ。彼が身にまとっていたクールな甲冑。それは「伝説のマンダロア兵士(マンダロリアン)の装備」と呼ばれてきた。ボバ自身はマンダロリアンではなく、ただその甲冑を着ているだけなのだが、その人気が上がっていと共に、魅力的な甲冑とその背景への興味は増していった。 その後、アニメの『クローン・ウォーズ』や『反乱者たち』でもマンダロリアンの歴史の一部は語 られてきたが、ファンが待ち望んでいたのは「実写版」だった。その最大の理由は「エピソード6 ジェダイの帰還」(83)で、人気のボバがろくに活躍もしないまま、呆気なく死んでしまったためで、見るからに意味ありげな彼の装備の数々がほとんど活用されないままの退場劇は多くのファンからブーイングを浴びていた。 そんなわけだから、その伝説の兵士が実写で観られるというだけで期待が集まったのは当然で、さらに原案・脚本を「アイアンマン」(08)のジョン・ファヴローが、製作総指揮を『クローン・ウォーズ』『反乱者たち』の デイヴ・フィローニが担当するに至って、 期待値はMAXとなった。そして「ジェダイの帰還」の5年後を描く『マンダロリアン』は、実際、最高に「かっこいい」コンテンツだったのだ。 そもそも第1作の「スター・ウォーズ」の魅力、特に「かっこよさ」には2つのポイントがあった。それはハン・ソロに代表される「西部劇」の面白さ。もう1つがライトセーバーで繰り広げられる「時代劇」の面白さだ。これが『マンダロリアン』には冒頭から満載なのだから堪らない! 寡黙な賞金稼ぎ、ならず者が集まる酒場、カウンター上をすべる酒のボトル、そして早撃ち。『マンダロリアン』は第1話からすでに西部劇要素がてんこ盛りだった。そして帝国軍の残党から依頼を受けた「歳の獲物」をマンドー(主人公の愛称)は追うことになるのだが、その「獲物」こそが全世界に大旋風を巻き起こした「ベイビー・ ヨーダ(ザ・チャイルド)」だ(ヨーダと同種族の幼児)。 やがてマンドーとベイビー・ヨーダは道中を共にすることになるのだが、ここで俄然「時代劇」の色合いが濃くなっていく。そう、この2人の展開はまるで「子連れ狼」なのだ。これがもう目が離せないほど面白い。「七人の侍」(54)へのオマージュ満載のエピソードもある。残念ながらライトセーバーによるチャンバラはシーズン2までお預けだろう。  おなじみのジャワ族やサンドピープルの生態、タトゥイーンの例の酒場のその後、などなど痒いところに手が届くファンサービスも絶妙な匙加減だし、メカ、クリーチャー、ドロイドなど、過去作との関連が深いトリビア要素の埋め込み方も巧い。ニック・ノル ティ、ジーナ・カラーノ、カール・ウェザースといった豪華キャストの配置も的確だ。 秋に予定されているシーズン2の配信を待ちきれないファンも数多いし、ついにはアニメで人気だったアソーカ・タノが実写で登場するという話も出ている。この成功がディズニーにとって意味するものは非常に大きいはずだ。 「最後のジェダイ」(17)、「ハン・ソロ」(18)、「スカイウォーカーの夜明け」といった劇場用作品は、 必ずしもディズニーの期待した結果や評価を得たわけではなかった。それゆえ、今後の劇場用作品の展開については仕切り直しが行われ、様子を見ながら慎重に進めていくこととなった。その「様子を見る」最大のポイントが、「配信サービスにおけるスター・ウォーズコンテンツの成果」であることは間違いない。世界中のファンが何を求め、何に期待しているのか。下手すればすぐに炎上し てしまう劇場公開よりは、少しは期待のハードルも低くなる配信サービスでの結果は「慎重に」今後の展開を見極める上では最適な媒体と言えるだろう。そして『マンダロリアン』は期待以上の成果を挙げた。それを踏み台にして、ディズニーがどのようなスター・ウォーズの未来を構築していくのか。もうしばらくは目が離せそうもない。  文・河原一久 『マンダロリアン』 2019年製作・アメリカ・テレビシリーズ(シーズン1) 原作・脚本:ジョン・ファヴロー 出演:ペドロ・パスカル、カール・ウェザース、ジーナ・カラーノ、ヴェルナー・ヘルツォーク、 ニック・ノルティ ◎ディズニーデラックスにてシーズン1配信中       ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその1「ルディ・レイ・ムーア」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその2『マーベラス・ミセス・メイゼル』はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその3「ベター・コール・ソウル」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその4「アンカット・ダイヤモンド」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその5「ホース・ガール」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその6「ウィルソン」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその7「マンダロリアン」はこちらから  
  • 配信ムービー・ピックアップ・レビューその6 「ウィルソン」 数ある配信ムービーのなかから、選りすぐりの作品のレビューをお届け。映画ライター・村山章氏によるオススメ第2弾は、「ゴーストワールド」(01)の原作者が放つ毒っ気たっぷりのドラマ!   20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン ©2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.  偏屈な中年男のささやかで 遅すぎる成長譚  「ゴーストワールド」(01)の原作者としても知られる人気コミック作家ダニエル・クロウズは、自作が映画化される際には必ず脚本も手がけている。 本作は「ゴーストワールド」、「アートスクール・コ ンフィデンシャル」(06)に続く3作目の映画化作品で、日本では劇場公開されずネット配信で観られるようになった。 主人公はウィルソン(ウディ・ハレルソン)という独り暮らしの偏屈な中年男。 働きもせず毒ばかり吐いているロクデナシだが、疎遠だった父の死を契機に、自分がいかに孤独なのかに気づいてしまう。 そこで16年前に出て行った元妻(ローラ・ ダーン)を探し出し、里子に出された娘がいることを知ると、今度は父親として失われた関係を取り戻そうとするのだ。 涙ぐましいメロドラマにもなりそうな展開だが、クロウズの毒気は手軽なヒューマニズムで観客を気持ちよくさせてはくれない。またウィルソンの身勝手さは当人も周囲もさらなる苦境に陥れるのだが、そんな彼をジャッジするような目線もない。ただただ身勝手なダメ人間なりに、世知辛い人生を達観することを学んでいく 。ささやかで遅すぎる成長物語とも言える。 アクサンダー・ペインも本作の映画化に興味 を示していたが、最終的に監督を務めたのは「スケルトン・ツインズ 幸せな人生のはじめ方」(14)のクレイグ・ジョンソン。テリー・ツワイゴフ監督が原作のイメージに近い世界観を構築 した「ゴーストワールド」と違って、原作よりもトーンは明るく、オーソドックスなコメディのルックスに近い仕上がりだ。 原作本は2005年に日本でも刊行されているので、「思っていた『ウィルソン』とは違う」と感じる人もいるかも知れない。そもそも風采の上がらない原作のウィルソンに寄せるなら、ハレルソンよりもポール・ジアマッティ辺りがキャスティングされるのが順当だろう。 しかしクロウズは原作のイメージにこだわらず、ハレルソンとローラ・ダーンが主演に決まると彼らに合わせて脚本をリライト。 また監督のジョンソンが自由に采配を振るえるように、ビジュアルを指定するようなト書きは極力避けたという。さらに原作には収録しなかったエピソードも復活させるなど、原作者が積極的に改変に関わ る形で、「ウィルソン」はパラレルワールドのような別物に生まれ変わった。 日本の映画ファンの間では「ゴーストワールド」の知名度ばかりが先行しているからこそ、本作でクロウズの別の顔を知って欲しい。そして願わくは原作とも見較べて、両者の味わいの違いを楽しんでいただきたい。 文・村山章 「ウィルソン」 2017年製作・アメリカ・1時間34分 監督:グレイグ・ジョンソン 出演:ウディ・ハレルソン、ローラ・ダーン ◎Amazonプライム・ ビデオほかにてデジタル配信中      ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその1「ルディ・レイ・ムーア」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその2『マーベラス・ミセス・メイゼル』はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその3「ベター・コール・ソウル」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその4「アンカット・ダイヤモンド」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその5「ホース・ガール」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその6「ウィルソン」はこちらから ・配信ムービー・ピックアップ・レビューその7「マンダロリアン」はこちらから