『マンダロリアン』が勝ち取ったものは スター・ウォーズシリーズの未来なのか?

配信ムービー・ピックアップ・レビューその7
「マンダロリアン」

 

数ある配信ムービーのなかから、選りすぐりの作品のレビューをお届け。日本屈指の「スター・ウォーズ」マニア・研究家として知られる河原一久氏に、噂のドラマシリーズの魅力について語っていただいた。

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『マンダロリアン』が勝ち取ったものはスター・ウォーズシリーズの未来なのか?

1977年から始まった「スター・ウォーズ」、 いわゆる「スカイウォーカー・サーガ」と呼ばれる正篇は、昨年暮れに公開された「エピソード9 スカイウォーカーの夜明け」によって、その42年にわたった長い歴史に(とりあえず)幕を下ろした。しかし「夜明け」の作品としての評価は大きく分かれ、興行収入もディズニー時代の3部作中、最も低い成績という結果となった。その是非は今後のシリーズ展開の行方にも左右されるだろうが、鑑賞後に「ノー!」と叫ばずにはいられなかったファンたちでさえ、興奮を抑えきれずに「イエス!」と膝を打つコンテンツが同時期に供給されたことは、 彼らにとっての正に「新たなる希望」 だったと言えるだろう。シリーズ初となる実写ドラマ『マンダロリアン』 のことだ。

ディズニーが独自のネット配信サービス「Disney+」の目玉コンテンツとして用意した『マンダロリアン』は、配信されると同時にハイパースペース級のスピードで世界中のファンの心を摑んだ。日本では「Disney+」の開始が未定だったため配信が危ぶまれたが、日本独自のサービス「ディズニーデラックス」で遅ればせながら配信され、2月中旬には全エピソードを一気見できる状態になった。 

ではいったいこの『マンダロリアン』とはどんな内容なのか?そもそもこの単語自体、知らない人には謎なのだが、年季の入ったファンには昔から心をくすぐるキーワードだったのだ。

そもそも「エピソード5 帝国の逆襲」(80) に登場した賞金稼ぎボバ・フェットがすべての原点だ。彼が身にまとっていたクールな甲冑。それは「伝説のマンダロア兵士(マンダロリアン)の装備」と呼ばれてきた。ボバ自身はマンダロリアンではなく、ただその甲冑を着ているだけなのだが、その人気が上がっていと共に、魅力的な甲冑とその背景への興味は増していった。

その後、アニメの『クローン・ウォーズ』や『反乱者たち』でもマンダロリアンの歴史の一部は語 られてきたが、ファンが待ち望んでいたのは「実写版」だった。その最大の理由は「エピソード6 ジェダイの帰還」(83)で、人気のボバがろくに活躍もしないまま、呆気なく死んでしまったためで、見るからに意味ありげな彼の装備の数々がほとんど活用されないままの退場劇は多くのファンからブーイングを浴びていた。

そんなわけだから、その伝説の兵士が実写で観られるというだけで期待が集まったのは当然で、さらに原案・脚本を「アイアンマン」(08)のジョン・ファヴローが、製作総指揮を『クローン・ウォーズ』『反乱者たち』の デイヴ・フィローニが担当するに至って、 期待値はMAXとなった。そして「ジェダイの帰還」の5年後を描く『マンダロリアン』は、実際、最高に「かっこいい」コンテンツだったのだ。

そもそも第1作の「スター・ウォーズ」の魅力、特に「かっこよさ」には2つのポイントがあった。それはハン・ソロに代表される「西部劇」の面白さ。もう1つがライトセーバーで繰り広げられる「時代劇」の面白さだ。これが『マンダロリアン』には冒頭から満載なのだから堪らない!

寡黙な賞金稼ぎ、ならず者が集まる酒場、カウンター上をすべる酒のボトル、そして早撃ち。『マンダロリアン』は第1話からすでに西部劇要素がてんこ盛りだった。そして帝国軍の残党から依頼を受けた「歳の獲物」をマンドー(主人公の愛称)は追うことになるのだが、その「獲物」こそが全世界に大旋風を巻き起こした「ベイビー・ ヨーダ(ザ・チャイルド)」だ(ヨーダと同種族の幼児)。

やがてマンドーとベイビー・ヨーダは道中を共にすることになるのだが、ここで俄然「時代劇」の色合いが濃くなっていく。そう、この2人の展開はまるで「子連れ狼」なのだ。これがもう目が離せないほど面白い。「七人の侍」(54)へのオマージュ満載のエピソードもある。残念ながらライトセーバーによるチャンバラはシーズン2までお預けだろう。 

おなじみのジャワ族やサンドピープルの生態、タトゥイーンの例の酒場のその後、などなど痒いところに手が届くファンサービスも絶妙な匙加減だし、メカ、クリーチャー、ドロイドなど、過去作との関連が深いトリビア要素の埋め込み方も巧い。ニック・ノル ティ、ジーナ・カラーノ、カール・ウェザースといった豪華キャストの配置も的確だ。

秋に予定されているシーズン2の配信を待ちきれないファンも数多いし、ついにはアニメで人気だったアソーカ・タノが実写で登場するという話も出ている。この成功がディズニーにとって意味するものは非常に大きいはずだ。

最後のジェダイ」(17)、「ハン・ソロ」(18)、「スカイウォーカーの夜明け」といった劇場用作品は、 必ずしもディズニーの期待した結果や評価を得たわけではなかった。それゆえ、今後の劇場用作品の展開については仕切り直しが行われ、様子を見ながら慎重に進めていくこととなった。その「様子を見る」最大のポイントが、「配信サービスにおけるスター・ウォーズコンテンツの成果」であることは間違いない。世界中のファンが何を求め、何に期待しているのか。下手すればすぐに炎上し てしまう劇場公開よりは、少しは期待のハードルも低くなる配信サービスでの結果は「慎重に」今後の展開を見極める上では最適な媒体と言えるだろう。そして『マンダロリアン』は期待以上の成果を挙げた。それを踏み台にして、ディズニーがどのようなスター・ウォーズの未来を構築していくのか。もうしばらくは目が離せそうもない。 

文・河原一久

『マンダロリアン』
2019年製作・アメリカ・テレビシリーズ(シーズン1)
原作・脚本:ジョン・ファヴロー
出演:ペドロ・パスカル、カール・ウェザース、ジーナ・カラーノ、ヴェルナー・ヘルツォーク、 ニック・ノルティ

◎ディズニーデラックスにてシーズン1配信中
 
 
 

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