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第45回 城戸賞準入賞作品シナリオ「黄昏の虹」全掲載
2020年1月21日1974年12月1日「映画の日」に制定され、第45回目を迎えた城戸賞の準入賞作品「黄昏の虹」全文を掲載いたします。 タイトル「黄昏の虹」 町田一則 あらすじ 舞台は長閑な海辺の小さな街。冬彦は老齢ながら三点倒立が出来るのが自慢である。 そんな冬彦の携帯にメールが届く。宝くじに当選しました、という詐欺メールなのだが、冬彦とその妻、昌美はそれを信じてしまう。が、宝くじに当たったところで欲しい物も行きたい所も特にない。だからといってせっかく当たった宝くじである。しかしどうすればお金を貰えるのかが分からない。昌美は東京にいる娘の佳代に電話で聞いてみてはと提案するが、冬彦はせっかくだから東京まで直接会いに行こうと言い出す。二人はロクに荷物も持たずに、東京へと向かうのだった。 何とか東京に辿り付いた二人。冬彦は新宿のカメラ店でハッセルブラッドという若い頃に密かに憧れたカメラが欲しいとねだる。宝くじが当たったのだから、と。しかしそのお金はまだない。冬彦は未練を残しつつ、とりあえず諦め、娘の住む国分寺を目指す。 そんな東京での珍道中、その最中で起こる特殊詐欺の一員である青年との出会い、そして交流。また娘の佳代とのわだかまりのある関係。それは佳代が若い頃に駆け落ち同然で家を飛び出したことが原因であることなどが判明していく。 そして実は妻の昌美というのは、冬彦にしか見えない幽霊であることが描かれる。 物語を通じて描かれる主調低音は妻に先立たれてしまった男、老人の孤独、時の流れの残酷さであり、生きることの切なさやおかしさである。 やがて冬彦は無事娘と再会、和解するに至り、特殊詐欺の青年は冬彦との交流を通じて改心することになる。 冬彦は念願の憧れだったカメラを手に入れる。が、結局のところ金で買える物で本当に欲しいものなど、何もないことを改めて知るのである。 登場人物 小野寺冬彦(45~75) 〃 昌美(70) 〃 佳代(5~35) 高橋雅也(25) 宮下孝一(享年75) スナック「漁り火」のママ(享年72) 司会者(30) 店員(27) ヘルパー(50) 久保将人(40) 警官(30) 宮下芳子(60) シナリオ ○アパート・全景(夜) 中野区の比較的閑静な住宅街にある古びた2階建てのアパート。 ○同・内(夜) ソファに座り、お茶を飲みながらTVを見ている小野寺冬彦(75)。 台所では妻の昌美(70)が洗い物をしている。 冬彦「ビールとか、ないか?」 昌美「……」 と、洗い物をする水の音で聞こえないのである。 冬彦「おい!」 昌美は水を止めて、 昌美「何か言いました?」 冬彦「ビールないか?」 昌美「何言ってるんですか。人の家ですよ、ここ。図々しい」 冬彦「……」 T「一日前」 ○海辺の街・俯瞰(雨) ――海が見える。 長閑な風景である。 ○葬儀場・全景(雨) 街にある葬儀場。 司会者の声「では故人とは古くからの親友であられました小野寺様より、弔辞を頂戴致します」 ○同・内(雨) 司会者(30)の進行により、葬儀が執り行われている。 司会者「小野寺様、宜しくお願いします」 冬彦は前に出て、マイクの前に立つ。 冬彦「……」 が、冬彦は言葉が出てこない。 司会者「宜しくお願いします」 しかし冬彦は、 冬彦「……」 と、黙ったままなのである。 ――沈黙。 冬彦「……こうちゃん、俺、何を言おうとしてたんだっけ?」 一同「……」 冬彦「こうちゃん、本当に死んじゃったんだな」 冬彦は突然泣き始めて、 冬彦「もう年だから、何を言おうとしてたのか忘れちゃったよ、こうちゃん。最近すぐに何でも忘れちまうんだ」 思わず吹き出してしまう参列者。 冬彦は弔辞を述べようとするが、依然として思い出せないでいる。 冬彦「そうだ、こうちゃん。見てくれよ」 すると冬彦は突然、三点倒立をし始めるのである。 参列者たちは驚いて唖然とする。 冬彦「ほら、こうちゃん。俺、まだ三点倒立が出来るんだぜ。凄いだろ」 一同「……」 冬彦「何で死ぬんだよ。こうちゃんの馬鹿野郎」 冬彦はバランスを崩し、祭壇の花を倒してしまう。 そんな騒動とは裏腹に、遺影の中で穏やかに微笑む宮下孝一(享年75)。 タイトル「黄昏の虹」 ○小野寺家・全景(夜・雨) 海辺に建つ、木造の平屋。 波の音が聞こえる。 『釣り船おの寺』の看板が掲げてあるが、半分くらい朽ちてしまっていて、もう営業していないのが見て取れる。 ○同・内(夜・雨) ちゃぶ台で質素な夕飯を肴にビールを飲んでいる冬彦と、その前に座っている妻の昌美(70)。 昌美「三点倒立?」 冬彦「うん」 昌美「遺影の前で?」 冬彦「うん」 昌美「みんな驚いてたでしょう?」 冬彦「そりゃあ、な。中々この歳で三点倒立は出来るもんじゃないからな」 昌美「そういう意味じゃありませんよ」 冬彦「ん?」 思わず笑ってしまう昌美。 冬彦「何がおかしい?」 昌美「だって(と、笑い続ける)」 冬彦「不謹慎だぞ」 昌美は笑い続けながら、 昌美「聞いたことないですよ。弔辞の代わりにそんなことする人」 と、更に笑う。 つられて冬彦も笑ってしまう。 二人でいつまでもクスクスと笑うのである。 冬彦「もう死んじゃったから言うけど、実はな、こうちゃん、スナック『漁り火』のママとデキてたんだよ」 × × × (インサート) もう今では営業していない、廃墟同然のスナック『漁り火』。 (インサート終わり) × × × 昌美「どうでも良いですよ、そんなの」 冬彦「そうか?」 昌美「そうですよ」 ○墓地 スナック『漁り火』のママの墓。 墓の横に白装束姿で立つスナック『漁り火』のママ(享年72)。 昌美の声「あそこのママだってもう何年か前に亡くなってるじゃないですか」 ○小野寺家・内(夜・雨) 冬彦と昌美。 冬彦「そうだっけか?」 昌美「呆れた。忘れたんですか?」 冬彦「最近どっかで見たような気がするけどなぁ」 昌美「あらやだ、怖い。幽霊ですよ、それ」 と、再び笑う。 どこからともなく『くちなしの花』のイントロが流れてきて――、 冬彦「じゃあこうちゃん、今頃は天国で、ママとカラオケでも歌ってるかな」 ○(想像)天国 白装束姿でカラオケを歌う宮下とスナック『漁り火』のママ。 宮下「(歌詞)今では指輪も回るほど、痩せてやつれたお前の噂~」 歌っているのは『くちなしの花』。 (想像終わり) ○小野寺家・内(夜・雨) 楽しそうに笑う冬彦と昌美。 冬彦「そうだ、大事なこと思い出した」 昌美「?」 冬彦「何か欲しい物とか、ないか?」 昌美「欲しい物?」 冬彦「うん」 昌美「特に何もないです」 冬彦「じゃあ行きたい所は?」 昌美「ないです」 冬彦「それは困ったな」 昌美「どうかしたんですか?」 冬彦「うん、宝くじに当たってな」 昌美「宝くじなんか買ってたんですか?」 冬彦「買ってない。買ってないんだが、当たった」 昌美「幾ら?」 冬彦「二千万らしい」 昌美「?」 と、合点がいかない。 冬彦「だから何か欲しい物ないか?」 昌美「今更、そんなもん、ある訳ないじゃないですか」 冬彦「そうか」 昌美「あなたは? 何か欲しい物とか、ないんですか?」 冬彦「うん……わからん」 昌美「わからないんですか?」 冬彦「忘れた。何が欲しいかなんて」 再び笑う冬彦と昌美。 × × × 携帯の画面を見ている冬彦と昌美。 昌美「あら、本当ねぇ」 冬彦「だがどうやったら良いのかがわからない。お前、わかるか?」 昌美「こういうのはちょっと……明日にでも佳代に電話で聞いてみたらどうです?」 冬彦「う~ん」 困ってしまい携帯の画面を睨む冬彦。 携帯の画面には「おめでとうございます! あなたが当選者です!」とある。 ○同・寝室(夜・雨) 布団の中の冬彦。 眠れずに天井を見つめている。 冬彦「……」 ○(回想)海・船上 釣り船に乗り、海上で釣りをする小野寺佳代(5)と冬彦(45)。 すると佳代が釣れる。 佳代「釣れた! 釣れた!」 冬彦「凄い凄い。名人だな、佳代は」 (回想終わり) ○小野寺家・寝室(夜・雨) 布団の中で天井を見つめている冬彦。 冬彦「あいつはカワハギ釣りの名人だったな」 昌美「……」 しかし昌美から返事はない。 冬彦「もう寝たのか?」 昌美「……」 冬彦「……」 ○佳代のアパート・内(夜・雨) 着替えることもせずに、テーブルに突っ伏して酔い潰れて眠ってしまっている佳代(35) ○小野寺家・全景(夜~早朝・雨~晴) 雨が降っている。 × × × やがて雨が上がり、朝日が昇る。 家の前のベンチに座り、タバコを吸っている冬彦。 海の方を見ると、水平線の彼方に綺麗な虹が架かっている。 冬彦「……」 すると宮下が歩いてやって来る。 宮下「よお」 冬彦「……こうちゃん!」 宮下「どうした? こんな朝から」 冬彦「うん、こんな時間に虹がな、出てる」 宮下は虹を見つめて、 宮下「あぁ、そうだな」 冬彦「昨日こうちゃんの葬式に行ったんだぞ、俺」 宮下「うん、楽しませて貰った」 と、笑う。 冬彦「気楽なもんだな」 宮下「何だ、何か悩みでもあんのか?」 冬彦「あるさ」 宮下「どんな?」 冬彦「……う~ん、何かあれだ、悩みがあるような気がする、という悩みだ」 宮下「ふざけてやがんな?」 冬彦「ふざけるもんか」 宮下「考えるだけ時間の無駄だよ」 冬彦「時間の無駄か……かもしれないな」 二人並んで虹を見つめながら、 冬彦「結局のところ、何にもない」 宮下「ほう」 冬彦「欲しい物も、行きたい所も、きっと悩みも、何もない」 宮下は笑って、 宮下「ほれ見ろ。悩みなんかねえじゃねえか」 冬彦「それが悩みだよ」 宮下「やっぱふざけてやがる」 と、ケタケタと笑う。 冬彦も笑う。 やがて冬彦は大きなため息をついて、 冬彦「……時の流れは残酷だな、こうちゃん」 宮下「仕様がねえ」 冬彦「あぁ、そうだな」 ○同・内(朝) ニュースを観ながら朝食を食べている冬彦と昌美。 冬彦「今朝、こうちゃんに会ったよ」 昌美「あら。何か言ってました?」 冬彦「うん……何か言ってたな」 昌美「そうですか」 冬彦「綺麗な虹が出てて、その虹に向かって歩いて行っちまったよ」 昌美「きっと最後のお別れを言いに来たんですよ」 冬彦「……うん」 と、時計を見て、 冬彦「まだ朝か。一日が長いな」 昌美「そうだ。佳代に電話して聞いてみたらどうです?」 冬彦「何を?」 昌美「宝くじ」 冬彦「あぁ、そうだったな……いや、でもやめとこう」 昌美「諦めるんですか?」 冬彦「そうじゃない。もう随分と会ってないからな。こっちから聞きに行こう」 昌美「聞きに?」 冬彦「うん」 昌美「東京に?」 冬彦「そうだ」 昌美「東京ですよ?」 冬彦「わかってるよ」 昌美「大丈夫なんですか?」 冬彦「当たり前だろ」 昌美「……私も大丈夫ですけど」 冬彦「なら良いじゃないか」 昌美「良いですよ」 ○駅・正面 自動改札を前に立ち尽くす冬彦。 昌美は既に構内に入っている。 冬彦「お前、どうやってそっち行った?」 昌美「普通に入りましたよ」 冬彦「……何か、凄く……機械だな」 昌美「最近はそうみたいですね」 冬彦「いつからこれになった?」 昌美「いつの間にか、です」 冬彦「そうか」 スタスタと自動改札を抜けようとするが、扉が閉まってしまう。 冬彦「うわぁ!」 昌美はくすりと笑って、 昌美「切符を入れるんですよ」 冬彦「まるで犯罪者扱いだな、これじゃ」 笑ってしまう昌美。 冬彦「何がおかしい?」 ○新宿・全景 繁華街の風景。 ○雑居ビル・内 オフィスとは言えないような、雑然とした室内。 簡易テーブルにパイプ椅子。 そのテーブルを囲むように男たちが座っていて、それぞれがスマホで話している。 その中の一人、名簿を前に広げながらスマホで話している高橋雅也(25)。 スーツを着てはいるが、茶髪で見るからにサラリーマンではない感じ。 どちらかというと、ホストに近い。 高橋はタバコを吸いながら、 高橋「(電話)ご子息の上司の者ですが……はい、実は息子さんが会社の金に手を出してしまったようでして……はい。部下の責任は上司である私の責任でもあります。何とか二人で金を集めたのですが、まだ足らなくて。このことが会社に知れたらまずいことになるんです」 と、ニヤリと笑う。 その様子を少し離れた所から久保将人(40)が見ている。 久保は電話の相手に聞こえないように小声で、 久保「相手に時間を与えるな」 高橋は「大丈夫」といった態で頷く。 高橋「(電話)本日中に何とかなりませんかね? ……(と、相手の言葉を聞き)」 高橋は久保に向かって首を横に振って見せる。 久保「(舌打ち)」 高橋「……では明日の正午までに、何とかお金を作って頂いて……はい、そうですね。もちろんお金は必ずお返し致します」 ○電車・車内 大人しく座っている冬彦と昌美。 昌美「本当にこの電車で大丈夫ですか?」 冬彦「大丈夫も何も、この電車しかないじゃないか」 昌美「そうですけど、走る方向とか」 冬彦「方向はあれだ……、東京だから、どれに乗っても多分大丈夫だろ」 昌美「お金あんまりないでしょ?」 冬彦「年金がある」 昌美「無駄遣い出来ませんよ」 冬彦「大丈夫。宝くじがあるんだ」 昌美「そうですけど……」 冬彦「ビール売ってないかな?」 昌美「売ってませんよ」 冬彦「……そうか」 と、少しガッカリする。 ○終着駅・ホーム 閑散としている。 ベンチに座っている冬彦と昌美。 昌美「ここが終着駅みたいですね」 冬彦「うん。東京までは行かないみたいだな」 ――沈黙。 昌美「どうします?」 冬彦「リニアモーターカーって知ってるか?」 昌美「聞いたことあります。何です、それ?」 冬彦「凄い速いんだ。東京から大阪まで……えっと、どれくらいだっけ?」 昌美「知りませんよ」 冬彦「とにかく速い。あっという間だ」 昌美「でも東京に行くのに、こうやって何時間も掛かってたら同じじゃないですか」 冬彦「同じなもんか」 昌美「で、どうするんですか?」 冬彦「ん?」 昌美「駅員さんに聞いてみたらどうです?」 冬彦「リニアモーターカーのことか?」 昌美「そうじゃなくて、東京にどうやって行くかです」 冬彦「あぁ、そうだな。聞いてきてくれよ」 昌美「私じゃ無理ですよ」 冬彦「……そうか」 と、立ち上がり、 冬彦「じゃあ聞いてくる」 昌美「お願いします」 冬彦「一度乗ってみたいよな、リニアモーターカー」 昌美「私は別に良いです」 冬彦は聞きに行く。 が、立ち止まり、昌美に、 冬彦「ビール売ってたら買っても良いか?」 昌美「売ってませんよ」 ○電車・車内 二人並んで座っている冬彦と昌美。 冬彦はビールをちびちびと飲んでいる。 売っていたのである。 ○雑居ビル・内 ソファに座り、テーブルを挟んで話している高橋と久保。 高橋「儲かりますよねぇ、この商売」 久保「……何が言いたい?」 高橋「俺がこんな言うのもあれですけど、世の中どうしようもねえなって」 久保「……」 高橋「もう少し、貰えないですかね、分け前」 久保「あ?」 高橋「結局、逮捕されるのって、俺らみたいな下っ端でしょ? リスクに見合わないっていうか」 久保「随分と偉くなったじゃねえか」 高橋「いや、そんなんじゃないっすよ。ただこの商売、そんな長く続けるって訳にもいかないし、少し貯めときたいなって」 久保「なるほどな」 高橋「はい」 ――沈黙。 部屋にいる他の連中が二人の動向に注目している。 高橋・久保「……」 二人の間に緊張が走る。 すると、次の瞬間――、突然久保は高橋を殴り飛ばすのである。 ○風景・俯瞰 冬彦たちの乗る電車が走っているのが遠くに見える。 風景は田舎から郊外へ――。 ○電車・車内 無言のまま座っている冬彦と昌美。 冬彦・昌美「……」 ○小野寺家・内 薄暗い室内。 そこへやって来るヘルパー(50)。 キョロキョロと室内を見回して、 ヘルパー「小野寺さん?」 と、呼びかけるが返事はない。 ヘルパー「……」 人の気配がないのである。 ヘルパー「(ため息)」 ○東京駅・内 ウロウロしている冬彦と昌美。 広すぎて訳が分からない様子。 昌美「随分と大きな駅ですね」 冬彦「うん」 昌美「これじゃどこに何があるんだか、分からないじゃないですか」 冬彦「東京だからな」 昌美「どうするんですか?」 冬彦「ちょっとあれだ、あの、新宿に行くか」 昌美「新宿?」 冬彦「うん。ちょっとあれだから」 昌美「また電車に乗るんですか?」 冬彦「まぁ、そういうことになるな」 昌美「どの電車に乗るんですか?」 冬彦「……」 すると冬彦の携帯が鳴る。 見ると「ヘルパー」とある。 冬彦「……」 出ないのである。 ○小野寺家・内 携帯を諦めるヘルパー。 ヘルパー「……まったく」 と、外へ冬彦を探しに出る。 ○雑居ビル・内 高橋に馬乗りになっている久保。 高橋は鼻や口から血を出している。 久保「そんなに金が欲しけりゃ、全部一人でやってみろよ」 高橋「……そんな、無理っすよ」 久保「当たり前だ、馬鹿。受け子に出し子、掛け子に見張り役、名簿屋、番頭。お前が考えてる以上に組織化されていて、規模もでかい。プロが集まってやってんだ」 久保は立ち上がり、 久保「てめえ一人じゃ何も出来ない癖して、偉そうなこと抜かすんじゃねえよ」 高橋「……」 久保「さっき引っ掛かったカモ、きっちり型に嵌めて、金盗ることだけ考えてりゃ良いんだよ」 久保は倒れている高橋の腹部に蹴りを入れて、 久保「てめえの代わりなんざ、幾らでもいるんだよ」 と、部屋にいる他の連中に向かって、 久保「お前らも余計なこと考えるんじゃねえぞ」 と、睨みを利かすと、部屋を出て行ってしまう。 高橋「……」 ○新宿・全景(夕) 新宿の繁華街の風景。 ○家電量販店・カメラ売り場(夕) 熱心にカメラを見ている冬彦。 冬彦「……」 昌美はそれを横で見ている。 店員(30)が通り掛かり、 冬彦「ちょっと」 店員「はい。何かお探しでしょうか?」 冬彦「ハッセルブラッドはある?」 店員「ハッセル……ブラッドでございますか?」 冬彦「うん。ハッセルブラッド」 店員「えっと……それはどういう?」 冬彦「こう、上から覗いてあれする、カメラなんだが」 店員「はあ」 冬彦「少し特殊なフィルムでね。綺麗に撮れる。というか、こう味がある」 店員「……フィルムですか」 冬彦「フィルムだ」 店員「もう一度、カメラの名前を頂いても宜しいでしょうか?」 冬彦「ハッセルブラッド」 店員「少々お待ちください」 と、行ってしまう。 昌美「カメラが欲しいんですか?」 冬彦「いや、うん……まぁ、別に欲しい訳じゃないが」 昌美「欲しくないのに聞いたりしたら、悪いじゃないですか」 冬彦「欲しくない訳ではないが、別に欲しい訳でもない」 昌美「またふざけて」 冬彦「知らないんだな、ハッセルブラッド」 昌美「そんな趣味があったんですね」 冬彦「いや、そういう訳でもないが」 昌美「……」 冬彦「ハッセルブラッド知らないで、よく店員が務まるもんだ」 すると店員が戻ってきて、 店員「申し訳ありません。当店ではお取り扱いがございません」 冬彦「そうか。となると……どこに行けば良い?」 店員「はあ……まぁ、中古カメラ店などではないでしょうか」 冬彦「……」 ○海辺の街(夕) 冬彦を探して歩く、ヘルパー。 ○新宿・路上~中古カメラ店(夕) 歩いている冬彦と昌美。 高橋とすれ違う。 ただすれ違うだけである。 冬彦「本当に何か欲しいものはないか?」 昌美「ありません」 冬彦「そうか」 すると二人は中古カメラ店の前を通り過ぎる。 が、すぐに戻って来る。 冬彦は店先のショッピングウインドウに陳列されている中古カメラを眺め始める。 ハッセルブラッド500Cの中古もあり、値段は16万である。 冬彦「……あった」 昌美も一緒に見て、 昌美「これがその、何とかっていうカメラなんですか?」 冬彦「うん……買っても良いか?」 昌美「そんなお金ないですよ」 冬彦「宝くじがある」 昌美「だからって今すぐにお金が貰える訳じゃないですから」 冬彦「そうか。じゃあ、まけて貰うか?」 昌美「全然足りません」 冬彦「……そうか。無理か」 昌美「古いのに、随分と高いんですね」 冬彦「古いから、高いんだ、きっと」 昌美「宝くじのお金貰ったらまた買えば良いじゃないですか」 冬彦は名残惜しそうに、 冬彦「……うん。その時までにお前も何か欲しいものを見つけとけよ」 昌美「私は何もいりませんよ」 冬彦「それでも何か見つけとけ」 と、未練がましく、再びカメラを見つめるのである。 冬彦「……」 ○同・路上(夜) 歩いている冬彦と昌美。 昌美「何も歩いて行くことないじゃないですか」 冬彦「心の準備が必要なんだ」 昌美「娘に会うのに、一体何の心の準備なんですか?」 冬彦「……」 ○海辺の街(夜) 警官(30)と話をするヘルパー。 ヘルパー「いなくなることは今までにも何度かあったんですけど、その時にはすぐに見つかって」 警官「ご家族は? お子さんとかは」 ヘルパー「いるみたいなんですけどね」 警官「連絡は?」 ヘルパー「それが何かあったらしくて、もう何年も会ってもいないとかで……だから私も会ったことなくて、連絡先とかもちょっと(分かりません)」 と、首を振る。 警官「……なるほど。じゃあそれはこちらで調べてみるとします」 ヘルパー「お願いします」 何ごとかと、近所の人が集まってくる。 ヘルパー「……(ため息)」 ○中野区・路上(夜) 歩き続けている冬彦と昌美。 昌美「いつまで歩くんですか。もう一時間くらい歩いてますよ」 冬彦「うん、どうりで疲れた。お前、よく大丈夫だな」 昌美「私は平気ですよ。だって」 と、笑う。 冬彦「何だ?」 昌美「何でもありません」 冬彦は突然立ち止まり、 冬彦「何ていう所だっけ? あいつの所は?」 昌美「国分寺です」 冬彦「お寺があるのか?」 昌美「お寺なんて、どこにだってありますよ」 冬彦「そうか」 昌美「いつまで歩くつもりですか?」 冬彦「うん……少し休むか」 昌美「休むって言ったって、どこで?」 冬彦「……」 ○アパート・正面(夜) ボロアパート。 他人の部屋の前に置かれた洗濯機の中を覗いている冬彦。 呆れ顔でそれを見ている昌美。 冬彦「あったあった」 と、洗濯機の中から鍵を取って見せる。 冬彦「やっぱり皆考えることは同じだな」 と、笑う。 昌美「……」 呆れる昌美をよそに、冬彦は鍵でドアを開けて勝手に入っていってしまう。 ○同・内(夜) 部屋の隅で三点倒立をしている冬彦。 それを見ている昌美。 部屋は男の一人暮らしらしく、相当汚れている。 冬彦「おい、見ろ」 昌美「見てます」 冬彦「あんなに歩いた後だぞ。凄いだろ」 そんな冬彦を無視して部屋を見渡す昌美。 昌美「少し片付けましょうかね」 冬彦は三点倒立をやめて、 冬彦「バカ。よせ」 昌美「何でですか?」 冬彦「勝手に入ったんだぞ」 昌美「だから悪いからせめて掃除をするんですよ」 冬彦「……」 昌美「あなたも手伝って下さいね」 と、せっせと片付け始めるのである。 × × × 部屋はすっかり片付き、TVを観ながらお茶を飲んでいる冬彦。 昌美は洗い物をしている。 冬彦「(TVを観ながら)最近は皆同じ顔をしていて、誰が誰だかわからん」 昌美「(聞こえない)」 冬彦は再びTVを少し観てから、 冬彦「ビールとか、ないか?」 昌美「……」 洗い物の水の音で聞こえないのだ。 冬彦「おい!」 昌美は水を止めて、 昌美「何か言いました?」 冬彦「ビールないか?」 昌美「何言ってるんですか。人の家ですよ、ここ。図々しい」 冬彦「……」 冬彦は立ち上がり、自分で冷蔵庫を開けてしまう。 缶ビールが数本入っている。 冬彦「あるじゃないか」 昌美「そうじゃなくて、ここは人の家ですって言ったんですよ」 冬彦「そんなの当たり前だろ」 昌美「当たり前じゃないです」 冬彦「金を払えば問題ないだろ」 昌美「あります」 冬彦「宝くじがあるんだ。大丈夫」 と、ビールを開けてしまう。 昌美「……」 呆れる昌美。 冬彦は席に戻り、ビールを飲みながら、 冬彦「昔は良かったなぁ」 昌美「そうですね」 冬彦「つまらん。TVだって観たいものなんか何もない」 昌美「TVだけじゃないでしょ。欲しいものも行きたい所もみ~んな、何もない。歳を取ったんですよ」 冬彦「欲しいものは、ある」 昌美「カメラですか?」 冬彦「うん」 昌美「別に欲しい訳じゃないってさっき言ってたじゃないですか」 冬彦「欲しくない訳じゃないと言ったんだ」 笑う昌美。 冬彦「何がおかしい?」 昌美「お風呂入ります?」 冬彦「お前も図々しいぞ」 昌美「だって汗かいたでしょ?」 冬彦「俺はいい」 昌美「そうですか」 冬彦「……」 再びTVを観ながらビールを飲み始める冬彦。 やがてウトウトと目蓋が重くなり、眠ってしまうのである。 ○小野寺家・全景(夜) ――電話のベルが鳴る音。 ○同・内(夜) 電話のベルが鳴り続けている。 仏壇に飾られた昌美の遺影。 ○スナック「どれみ」・全景 国分寺の繁華街から外れた場所にある寂れたカラオケスナック。 その店の前で、いかにもホステスといった感じの佳代が携帯で電話している。 佳代「(携帯)」 が、誰も出ない。 佳代は諦めて、 佳代「(ため息)ったく、もう……携帯は電源切れてるし……」 と、心配そうな表情。 やがて店に戻って行く。 ○アパート・内(夜) 眠ってしまっている冬彦。 携帯がテーブルの上に置いてあるが、バッテリーが切れている。 時計は既に夜中の2時を指している。 ○同・正面(夜) 顔を痣で腫らして、酒に酔った高橋が歩いて帰ってくる。 洗濯機の中を覗くが鍵がない。 高橋「?」 すると部屋の中からTVの音が聞こえて来るのである。 高橋「……」 ドアを開け、警戒しながら中に入って行く高橋。 高橋は寝ている冬彦に気付く。 高橋「……」 冬彦は目を覚まさないのである。 高橋「……親父?」 冬彦「……」 高橋「……な訳ないか」 高橋は部屋を見渡す。 綺麗に片付いているのである。 TVの音だけが部屋に響き渡る。 ○中野区・全景(朝) ――午前9時頃である。 街は既に動き出している。 ○アパート・内(朝) 目を覚ます冬彦。 布団が掛けてある。 そんな冬彦を見つめている昌美。 昌美「おはようございます」 すぐ側では高橋がスーツ姿のまま眠っている。 冬彦「……こりゃ、まずいな。逃げよう」 冬彦は起きて、こっそりと出て行こうとする。 高橋「帰るんですか?」 突然高橋から声を掛けられる。 冬彦「!」 高橋も起きて、 高橋「泥棒?」 冬彦「いや、そうじゃない。ビールは飲んだが、何も盗ってない」 高橋「盗られるようなもんもないけど」 冬彦「ちょっと休ませて貰っていたら、その、つい、眠ってしまった」 高橋は呆れ気味に、 高橋「普通だったら警察ですよ」 冬彦「うん」 高橋「俺も警察はちょっとまずいからあれだったけど」 冬彦「かたじけない」 高橋「(ため息をついて)家族は?」 冬彦「うん……娘に会いに行く途中だ」 高橋「どこ?」 冬彦「え?」 高橋「いや、だから娘さん。どこ?」 冬彦「……どこだったかな……忘れた」 高橋「……(と、唖然)」 冬彦「何か、寺だな」 高橋「寺?」 冬彦「うん……というか、まぁ、うん」 高橋「……」 呆れて言葉が出ないのである。 高橋は立ち上がると、冷蔵庫から缶ビールを2本出して、1本を冬彦に。 高橋はビールを飲む。 冬彦も飲む。 高橋「困ったなぁ。警察はあれだしなぁ」 冬彦「申し訳ない」 高橋「……」 冬彦「三点倒立でも見るか?」 高橋「……」 ○ファミレス・全景(朝) 高橋のアパートの近く。 ○同・内(朝) ボックス席で向き合って朝食を食べている冬彦と高橋。 高橋「欲しいもの?」 冬彦「うん。何かないか?」 高橋「そりゃ幾らでもあるけど」 冬彦「幾らでも、か……」 高橋「金があればの話ですけどね」 冬彦「金はある」 高橋「……」 冬彦「が、欲しいものは特にない。が、ないこともない。多分そんなに欲しい訳じゃないが、欲しくない訳でもない」 高橋「……」 と、何を言っているのか理解できない。 冬彦「実は宝くじに当たった」 高橋「マジ?」 冬彦「うん」 高橋「いや、嘘でしょ? おじいさん、ボケちゃってんじゃん」 冬彦「いや、それが本当なんだ」 高橋「……」 冬彦「で、娘に会いに行こうとしてる」 高橋「おじいさんさ、しばらくウチに居なよ」 冬彦「いや、それも悪い」 高橋「大丈夫大丈夫。で、そのお金って今どこにあるの?」 冬彦「実はまだ受け取ってない」 高橋「ねぇ、その話って本当? 本当に本当に本当に、本当?」 冬彦「もちろんだ」 冬彦は携帯を高橋に渡す。 高橋は携帯を受け取るが、 高橋「え、これが何?」 冬彦「……何って言われても、見てみろ」 しかしバッテリーが切れているのである。 高橋「いや、でもこれ、バッテリー切れてるから」 冬彦「金持ってるか?」 高橋「まぁ、少しだけど」 冬彦「貸してくれないか?」 高橋「はあ? 何でだよ?」 冬彦「うん、新宿でな、カメラを買う」 高橋「んなもん、宝くじの金で買えよ」 冬彦「だから、後でちゃんと返す」 高橋「っていうか、その前に宝くじ、ちゃんと金に換えないと」 冬彦「あぁ、まぁ……うん、そうだな。どうしたら良いのか、わかるか?」 高橋「そりゃ、銀行だろ」 冬彦「そうか」 高橋「で、その宝くじはどこにあんの?」 冬彦「携帯を見ないと分からないんだ」 高橋は手にしている冬彦の携帯をじっと見つめる。 冬彦「お礼に何か買ってやろう」 高橋「……」 ○アパート・内 コンビニで買ってきたガラケーの充電器を出して、さっそく携帯の充電を始める高橋。 高橋「よし。ほら、これでもう大丈夫」 と、充電したまま携帯を冬彦に渡す。 冬彦は携帯を受け取り、 冬彦「うん、ありがとう」 と、特に何もしない。 それをじっと見つめている高橋。 何もしない冬彦。 冬彦・高橋「……」 ――沈黙。 高橋「え?」 冬彦「ん?」 高橋「いや、ん? じゃなくて」 冬彦「?」 高橋「いや、ほら、携帯」 冬彦「携帯が、何だ?」 高橋「宝くじ!」 冬彦「あぁ、そうか」 と、携帯を操作する。 それをじっと見つめている高橋。 冬彦「……あぁ、これだ」 と、高橋に携帯を渡す。 高橋は携帯を受け取って、画面を見て、 高橋「……え、これ?」 冬彦「うん。どうしたら良い?」 高橋「……いや、どうしたら良いっていうか、これって、あれじゃん」 冬彦「何だ?」 と、その瞬間、冬彦の携帯に着信。 画面には「娘」と表示されている。 高橋「……娘から電話」 ○海辺の街・全景 長閑な街並み。 ○小野寺家・玄関 玄関先で警官と話しているヘルパー。 警官「先程娘さんから連絡ありまして。どうやらお父さんと連絡がついたようで」 ヘルパー「まったく……。で、どこに?」 警官「それが東京にいるみたいでして」 ヘルパー「東京?」 警官「はい」 ヘルパー「大体ね、その娘ってのが悪いのよね。認知症の父親放っておいて、自分は東京で勝手に暮らしてんだから」 警官「まぁ、そうですけどね……独居老人、過疎化に高齢化……他人事じゃないですよ」 ヘルパー「……本当にねぇ」 警官「良い街なんですけどねぇ」 ○アパート・内 何となく、だらだらと過ごしている冬彦と高橋。 冬彦「三点倒立、見るか?」 高橋「え?」 冬彦「三点倒立」 高橋「……」 冬彦「見るか?」 高橋「あぁ、うん。いいよ。見せて」 張り切って三点倒立する冬彦。 高橋「……」 冬彦「どうだ。凄いだろ」 高橋「……うん」 冬彦は三点倒立をやめて、 冬彦「ところで、仕事に行かなくても良いのか?」 高橋「……別に」 冬彦「顔に痣がある。仕事は何をしてる?」 高橋「まぁ、特殊詐欺って言うの? おじいさんみたいな人騙して、お金盗ってる」 冬彦「騙すのか?」 高橋「まあな」 冬彦「で、それは儲かるのか?」 高橋「まぁ、それなりに」 冬彦「儲かったら、何でも良いか?」 高橋「何? 説教?」 冬彦「いや、そういう訳じゃない」 高橋「じゃあ何だよ?」 冬彦「正直者が損をして、嘘をついた者が得をしたら、ダメだ。じゃないと、世の中、嘘だらけになっちまう」 高橋「もうなってるよ」 冬彦「そうか」 と、高橋を見つめる。 高橋「何だよ?」 冬彦「人を騙すようには見えないがな」 高橋はそんな冬彦の発言を鼻で笑い、 高橋「実は……親父だと思った」 冬彦「ん?」 高橋「部屋に戻って来て、いきなり寝てて、ちょっとパニクって、それで一瞬、親父が来たのかと思った」 冬彦「……うん」 高橋「な訳ないんだけどね。もうとっくに死んでるから」 冬彦「……」 高橋「でもその時は、親父が俺を……」 冬彦「何だ?」 高橋「……いや、何でもない」 高橋は時計を見て、 高橋「そろそろ娘さんが駅に来る頃だな」 冬彦「そうか」 高橋は立ち上がり、 高橋「でも何か、面白かったよ」 冬彦「うん」 高橋「行こうぜ」 冬彦も立ち上がり、 冬彦「その前に欲しいものを買ってやろう」 高橋「ふふっ……またで良いよ」 冬彦「遠慮するな」 高橋「してねえし」 と、笑う。 つられて冬彦も何となく、笑う。 ○中野駅・全景 佳代が高橋に菓子折を渡して何度も何度も頭を下げている姿が見える。 ○同・正面 高橋に礼を言っている佳代と、そんな二人を傍らで見ている冬彦。 佳代「本当にどうもすいませんでした」 高橋「いいっすよ、別に」 と、冬彦に向かって、 高橋「元気でな」 冬彦「うん。欲しいもの買ってやるからな」 高橋「ふふっ(と、笑って)じゃあ」 と、立ち去る。 その後ろ姿に、 佳代「ありがとうございました!」 と、頭を下げる佳代。 やがて高橋が完全に去ると、佳代は冬彦に向き直り、 佳代「何してんのよ!」 と、怒る。 冬彦「何だ? 怒ってるのか?」 佳代「当たり前でしょ!」 冬子「元気にしてたか?」 佳代「……」 と、拍子抜け。 冬彦「どうした? 元気にしてたのか?」 佳代「してたけど……」 冬彦「うん。なら良かった」 佳代「……」 冬彦「ちょっと行きたい所があるんだが」 佳代「行きたい所?」 冬彦「うん……ちょっとな」 佳代「……」 ○同・繁華街 路上に立ち、缶コーヒーを飲みながら道ゆく人たちを見つめている高橋。 高橋「……」 やたらと高齢者が目に付くのである。 高橋「……」 と、何やら想う。 すると高橋の携帯が鳴る。 高橋「(電話)もしもし」 と、出る。 高橋「(電話)……はい、用意出来たんですね。こちらからそっちまで伺いますので、……はい。では一時間後に立川で」 と、電話を切る。 高橋「……」 そして高橋は駅に向かって歩き出しながら、携帯でどこかへ掛けて、 高橋「(電話)もしもし、高橋です。金を用意出来たと連絡が来たので、今から僕が受け取りに行きます……いえ、一人で大丈夫です……分かってます。気を付けるんで」 ○新宿・全景 繁華街の風景。 ○中古カメラ店・正面 ショッピングウインドウを見ている冬彦と佳代。 佳代「カメラが欲しいの?」 冬彦「カメラというか、ハッセルブラッドだ」 佳代は値段を見て、 佳代「16万! そんなお金あるの?」 冬彦「うん、ある。もっとある」 佳代「幾ら?」 冬彦「二千万」 佳代「……」 と、驚く。 冬彦「不思議なもんだな」 佳代「何が?」 冬彦「俳優の名前とかは忘れても、こういうのだけはちゃんと覚えてる」 佳代「カメラのこと?」 冬彦「あぁ」 佳代「こんな趣味があったの、お父さん?」 冬彦は笑って、 冬彦「同じこと言うんだな」 佳代「……同じこと?」 冬彦「金貸してくれないか? 16万」 佳代「二千万あるんじゃないの?」 冬彦「ある。だがまだないんだ。でもすぐに返す。お前にも欲しいものを買ってやる。実は宝くじに当たってな」 佳代「はあ? 宝くじ? 当たったの?」 冬彦「うん」 佳代「それで二千万?」 冬彦「そうだ」 佳代「……」 ○喫茶店・内 カメラを色々といじっている冬彦とそれを見ている佳代。 買ったのである。 冬彦は嬉しそう。 冬彦はカメラをいじりながら、 冬彦「若い頃に憧れてな。自分で稼げるようになったら、いつか買おうと思ってた」 佳代「全然知らなかった」 冬彦「言わなかったからな。でも結婚して、お前が産まれて、必死になって生きてたら……あっという間だった。気付いたら、あっという間に何十年も過ぎてたよ」 佳代「……」 年老いた父を見つめる佳代。 冬彦「カメラのことなんか、すっかり忘れてたよ」 と、笑って、 冬彦「が、そんなもんなんだろう、きっと」 佳代「うん」 冬彦「この前、こうちゃんも死んだよ」 佳代「ねぇ、お父さん」 冬彦「何だ?」 佳代「実はね」 冬彦「あ!」 佳代「?」 冬彦「しまった」 佳代「どうかした?」 冬彦「フィルム買うの忘れた」 佳代「フィルム?」 冬彦「うん。フィルム買ってくれ」 佳代「そんなの、どこかそこら辺で」 冬彦「ダメなんだ。ちょっと特殊なフィルムでな」 佳代「……どんな?」 冬彦「ブローニーフィルムっていうんだ」 佳代「ブローニーフィルム?」 冬彦「うん。フィルムがなきゃ意味がない」 佳代「……」 ○立川駅・全景 ――駅前の風景。 高橋の声「(電話)北口ロータリー横の宝くじ売り場の前に来たら、電話貰えますか。お金はA4の茶封筒に入れて持って来て下さい」 ○同・北口宝くじ売り場前 道ゆく人の波。 離れた場所から見ている高橋。 高橋「……」 辺りを警戒する。 宝くじ売り場前に、それらしい人はまだ現れない。 すると一人の初老の女性、宮下芳子(60)が茶封筒を持って現れる。 高橋「……」 芳子をじっと見つめる高橋。 携帯が鳴る。 芳子からである。 高橋「(電話)もしもし」 芳子の声「(電話)宝くじ売り場の前にいます」 電話で話しながら辺りを伺う高橋。 周囲にいる人、全てが刑事に見えてしまうが、真偽は分からない。 高橋「(電話)すいません。やっぱり南口の方にお願いしても良いですか?」 芳子の声「(電話)南口……ですか?」 高橋「(電話)はい。ちょっと土地勘がないもので。すいません」 芳子の声「(電話)分かりました」 高橋「(電話)南口に来たら、また電話して下さい」 と、電話を切り、芳子を観察する。 高橋「……」 芳子は宝くじ売り場の前を離れ、南口へと向かう。 芳子の後を追う、刑事らしき人間はとりあえず見当たらない。 高橋「……」 辺りを警戒しながら、高橋も南口へと向かう。 ○井の頭公園・内 池の写真をハッセルブラッドで撮ろうとして、上からファインダーをのぞき込んでいる冬彦。 それを横で見ている佳代。 ハッセルブラッドは上から覗きこんで撮影する一眼レフカメラである。 × × × (インサート) カメラのファインダー越しに冬彦に見えている映像である。 昔のカメラ特有の味のある色調で、池をバックに昌美が笑顔で立っている姿。 (インサート終わり) × × × 冬彦はカメラを覗きながら、 冬彦「どこにも連れて行ってやれなかった」 と、呟いてシャッターを押す。 そんな冬彦をどこか影のある目で見つめる佳代。 佳代「……」 冬彦「お前も一緒に撮ってやろう」 佳代「一緒に?」 冬彦「あぁ、そこに立て」 佳代「ふふっ、私はいい。ロクに化粧もしてないし」 冬彦「つまらないこと言うな。せっかくカメラ買ったんだ」 佳代「……そうね」 と、池の前に立つ。 すると佳代の横に現れる昌美。 もちろん昌美は冬彦にしか見えていない。 冬彦「はい、笑って」 笑う昌美と佳代。 冬彦はシャッターを押す。 ○立川駅・南口 ファストフード店前に立っている芳子。 するとそこへ現れる高橋。 高橋「すいません、あっちこっち引きずり回して」 芳子「いえ、大丈夫です」 ――沈黙。 高橋「で、お金なんですけど」 芳子「はい。用意して来ました」 と、茶封筒を差し出す。 受け取る高橋。 高橋「……」 だが、その茶封筒を返して。 高橋「……すいません」 芳子「え?」 高橋「これ、やっぱいいです」 芳子「……」 茶封筒を返して貰う芳子。 芳子「……何でですか?」 高橋「嘘なんです、全部」 芳子「……」 高橋「嘘ついてたんです。すいません」 と、頭を下げる。 芳子「……」 高橋は頭を上げて、 高橋「騙そうとしました。あなたを騙して、お金を盗ろうとしました」 芳子「……」 芳子は周囲を見る。 高橋「?」 すると数人の刑事が飛び出して来て、 高橋「!」 高橋は取り押さえられてしまうのである。 見つめ合う高橋と芳子。 高橋・芳子「……」 高橋の手に手錠が掛けられる。 芳子「……」 高橋「……」 芳子「私の勘違いでした」 高橋「!」 刑事「え?」 芳子「知り合いです、この人」 刑事「知り合い?」 芳子「すいません。私の勘違いでした」 高橋「……」 唖然とする高橋と刑事たち。 一同「……」 ○井の頭公園・全景(夕) 夕日に赤く染まる公園。 ○同・内(夕) 池を見つめる佳代。 佳代「……」 その視線の先には、一人ボートに乗り、湖面に浮かんでいる冬彦の姿。 ○(回想)港(夕) 港に立ち、父の帰りを母と待っている幼少の頃の佳代。 夕日に赤く染まる海に、父の釣り船を見つけ、嬉しそうに手を振るのである。 (回想終わり) ○井の頭公園・内 池でボートに乗っている冬彦と昌美。 冬彦はカメラで正面に座っている昌美を撮影している。 昌美「カメラが欲しいなんて、何十年もずっと一緒にいてひと言も言わなかった癖に」 冬彦「うん……何て言うか、その、忘れてた」 昌美「ふふっ」 と、笑う。 冬彦「というか、別にどうでも良かった」 昌美「?」 冬彦「お前と一緒なら、カメラなんてどうでも良かった」 昌美「よして下さいよ。照れくさい」 冬彦「うん、でもそうなんだ」 昌美「私もです」 冬彦「ん、そうか?」 昌美「どうでも良かったです、私も。欲しいものなんて、きっと何かあったのかもしれませんけど」 冬彦「何が欲しかったんだ?」 昌美「覚えてません」 冬彦「そうか」 二人、池を見つめる冬彦と昌美。 冬彦「さっき佳代から聞いたんだが……」 昌美「何です?」 冬彦「この池でボートに乗ると、そのカップルは別れるらしい」 昌美「ふふふっ」 と、笑う。 冬彦「何がおかしい?」 昌美「だって……」 と、更に笑う。 冬彦「何だ?」 昌美「別に乗らなくても別れますよ。そう思いません?」 冬彦「……まぁ、そうかもしれんが」 昌美「ずっと一緒にいたって、いずれはどちらかが先にいなくなるんですから」 冬彦「……うん」 昌美「それにそんなこと信じる人ですか?」 と、また笑う。 冬彦もつられて笑って、 冬彦「そういう訳じゃないが」 昌美「(笑っている)」 冬彦「正直……寂しいよ」 昌美はそのひと言で笑うのをやめて。 昌美「……」 と、冬彦を見つめる。 冬彦は照れ臭いのか、水面を見つめ、 冬彦「お前が……お前がいなくなってからは、毎日が不安で仕方がない」 と、涙を流す。 昌美「……」 冬彦「時の流れは残酷だな」 涙を隠す為に、カメラのファインダーを覗き込む冬彦。 冬彦「待ってくれやしない。いとも簡単に奪う。老人を……私を、愚かに見せる」 × × × (インサート) ファインダー越しに冬彦が見ている映像。 まだ20代で、若く美しい頃の昌美が映っている。 冬彦の声「こうやってカメラを覗き込むと、もう過ぎ去ってしまった、もう二度と取り戻すことの出来ない、人生の破片を垣間見ているようだ」 シャッターが切られる。 (インサート終わり) × × × カメラから顔を上げる冬彦。 昌美の姿は消えてなくなっている。 冬彦「……」 辺りを見回し、昌美の姿をさがすが、見つからない。 すると岸の方から、 佳代の声「お父さ~ん!」 と、冬彦を呼ぶ声が聞こえる。 見ると佳代が手を振っている。 佳代の横には昌美の姿も。 佳代「もう帰ろ~!」 冬彦は手を振って、それに応える。 ○立川・繁華街(夕) ――駅前の風景。 ○喫茶店・内(夕) テーブルを挟んで座っている高橋と芳子。 二人とも無言である。 高橋「……」 芳子「……」 高橋「あのぉ……」 芳子「はい?」 高橋「本当にすいませんでした」 と、頭を下げる。 芳子「……もう行きます」 高橋は頭を上げて、 高橋「え?」 芳子「帰ります」 高橋「……はい」 芳子は立ち上がると、小さく会釈して店を出て行ってしまうのである。 高橋「……」 ○郊外・風景(夜) 国分寺の住宅街。 ○佳代のアパート・内(夜) 料理をしている佳代。 冬彦はリビングで三点倒立をしている。 冬彦「おい」 佳代「……」 佳代は気付かない。 冬彦「おい!」 佳代、気付いて、 佳代「何してんの?」 冬彦「凄いだろ」 佳代「……」 冬彦「写真撮ってくれ」 佳代「え?」 冬彦「ほら、早く!」 佳代は慌ててカメラを手にするのだが、どうやって撮影して良いのかわからない。 冬彦「早く!」 佳代「ちょっと待って。全然わかんない」 こらえきれずにバランスを崩し、倒れてしまう冬彦。 冬彦「何してんだ、まったく……」 佳代「だってこんなカメラ初めてだし」 冬彦「貸せ。教えてやる」 佳代「こんな写真撮ってどうするの? 普通に撮ったら良いじゃない」 冬彦「俺の遺影にするんだよ」 佳代「はあ? 何それ?」 冬彦「別に良いだろ」 佳代「……ねぇ、お父さん」 冬彦「何だ?」 佳代「もう気付いてるでしょ?」 冬彦「ん?」 佳代「離婚したの、私。もう一人なの」 冬彦「……何となく……何となくだが、わかってた」 佳代「!」 冬彦「いちおう親だからな」 佳代「今までずっと黙ってて、ごめんなさい」 と、頭を下げる。 冬彦「別に良い」 佳代「良くないよ。勝手に家飛び出して、言うことなんか何も聞かないで、挙げ句離婚して……全然良くないよ」 冬彦「……ビールないか?」 佳代「ビール?」 冬彦「うん、ビール」 立ち上がり、冷蔵庫にビールを取りに行く佳代。 佳代は冷蔵庫からビールを取り出しながら、 佳代「もし私が実家に戻りたいって言ったら、どうする?」 冬彦はリビングでカメラをいじりながら、 冬彦「俺のことなら心配するな。まだボケてない」 佳代「わかってる。そういうことじゃなくて」 冬彦「好きにしろ。お前の家だ」 佳代「……うん」 と、泣きそうになる。 冬彦は再び三点倒立をして、 冬彦「ほら、早くしろ!」 ビールを持ってリビングにやって来る佳代。 冬彦「早く撮れ」 佳代「まだ何も教わってない」 冬彦「上から覗いてシャッター押すだけになってる」 慌ててカメラを構える佳代。 ファインダー越しの、必死の形相で三点倒立をする冬彦の顔。 思わず笑ってしまう佳代。 やがてその笑いは、涙が混じり、泣き笑いになる。 冬彦「早くしろ!」 佳代はシャッターを切る。 冬彦は三点倒立をやめて、 冬彦「撮れたか?」 佳代「多分」 冬彦「そうか……何でもお前の好きなようにしろ。宝くじもお前にやる」 佳代「その宝くじなんだけどね」 冬彦「うん」 佳代「……」 冬彦「何だ?」 佳代「何でもない。ありがとう」 冬彦「あの若者にも何か買ってやってくれ」 佳代「……わかった」 ○海辺の街・全景 長閑な風景。 ○港 釣り船が数隻停泊している。 その中の一隻の船。 「釣り船おの寺」と書かれたおんぼろの船を掃除している佳代。 それを見ている冬彦。 冬彦「本当に動かすのか?」 佳代「当たり前でしょ。ほら、早く乗って」 冬彦「俺もか?」 佳代「まだ免許ないんだから、私」 冬彦「宝くじのお金で新しく買ったらどうだ?」 佳代「これが良いの」 冬彦「こんなおんぼろのどこが良いんだ?」 佳代「良いから、早く乗って」 船に乗る冬彦。 × × × 船は港を出るのである。 冬彦が操舵しながら港を振り返ると、そこには昌美の姿があり、冬彦たちを優しい眼差しで見つめている。 冬彦「……」 ○海上・船の上 釣り糸を垂れている冬彦と佳代。 佳代「子供の頃はよくこうして一緒に釣りをしたよね」 冬彦「そうだな。カワハギ釣りの名人だったっけな、お前は」 佳代「釣って帰るとお母さんが港で待っててくれて」 冬彦「待ってるさ、今日も」 佳代「……うん、そうだね」 すると佳代の竿を動く。 素早く合わせる佳代。 佳代「釣れた!」 冬彦「そうか」 佳代「そうかって……何でそんな冷静なのよ?」 冬彦「うん、いや、さすが名人だ」 と、笑う。 佳代も笑う。 ○中野区・繁華街・全景 ――駅前の風景。 ○喫茶店・店内 テーブルを挟んで高橋と会って話している佳代。 佳代は高橋に封筒を差し出す。 佳代「これ」 高橋「……何すか、これ?」 佳代は小さく笑って、 佳代「父の遺言なんです」 高橋「遺言?」 佳代「はい。当たった宝くじであの若者にも何か買ってやってくれって」 高橋「あ、いや……でも宝くじって、あの携帯メールのことですよね?」 佳代「はい」 高橋「あれ、嘘ですよ。詐欺です」 佳代「はい」 高橋「はいって……え? どういうことですか? 受け取れませんって、これ」 佳代は笑い出して、 佳代「良いんです」 高橋「?」 佳代「開けてみてください」 高橋「……」 高橋が封筒を開けると、中から10枚の宝くじが出てくる。 高橋「……宝くじ?」 佳代「それで何でも好きなもの買って下さい」 高橋「(笑って)ありがとうございます」 佳代「それ、本当に当たるような気がしません?」 高橋「当たったら、半分あげます」 佳代「期待しないで待ってます」 と、二人で笑う。 佳代「一つだけ、聞いても良いですか?」 高橋「はい」 佳代「何で警察呼ばなかったんですか?」 高橋「……一つには、もうやってませんが、あの頃は悪いことしてたんです」 佳代「?」 高橋「聞いてません?」 佳代「いえ、何も」 高橋「特殊詐欺っっていうんですか? そんなことやってました。下っ端でしたけど」 佳代「そうだったんですか」 高橋「はい。で……嘘をついた奴が得をして、正直な者が損をしてはいけない。じゃないと、この世の中嘘ばっかりになってしまう」 佳代「……」 高橋「そうお父さんに言われました」 佳代「はい」 高橋「もうなってると、僕は言いました。もう既に嘘ばっかりの世の中だ、と」 佳代「……」 高橋「でも、そうでもないですね。嘘は確かにあるけれども、嘘ばっかりじゃない」 佳代「……」 高橋は腕時計を見る。 佳代「あ、時間、大丈夫ですか?」 高橋「少し歩きませんか?」 佳代「え?」 高橋「駅まで、少し歩きながら話しませんか?」 佳代「はい」 ○中野・繁華街~駅 肩を並べて歩きながら話す高橋と佳代。 高橋「今は工作機械の営業をやってます」 佳代「そうなんですか」 高橋「成績なんか全然良くないし、常に結果を求められてて、いつも怒られてます」 と、笑う。 佳代「大変ですよね、生きるって」 高橋「ふふっ」 佳代「……」 ――少しの間無言のまま歩き、 高橋「でも残念です。一度、一緒に酒を飲みたいなって思ってましたから」 佳代「ふふっ」 と、笑う。 高橋「?」 佳代「すいません。何か可笑しいなって思って」 高橋「そうですか?」 佳代「何でウチの父なんかに、そんな思い入れがあるのか、正直不思議です」 高橋「思い入れって訳じゃないけど」 佳代「……けど?」 高橋「何て言うか、あの時、一瞬……親父が来たのかと思ったんです」 佳代「……」 高橋「もうとっくにいないんですけどね」 佳代「いない?」 高橋「僕が小さい頃に死にました。だから親父のこと殆ど何も覚えてないんですけど、何となく親父が俺を叱りに来たような、馬鹿みたいな話だけど、そんなような気がしたんです。何やってんだって」 二人は駅の改札に到着して。 高橋「じゃあ、すいませんけど、僕はこれで」 佳代は頭を下げて、 佳代「本当にお世話になりました」 と、礼を言う。 高橋「いえ、とんでもない。じゃあ」 高橋は改札を入って行く。 佳代「……」 ○海辺の街・全景 ――正月の風景。 ○海上・船の上 船長として操舵している佳代。 助手としてヘルパーも働いている。 その顔は晴々としている。 釣り船は釣り客が何人もいて、盛況しているのが伺える。 すると海の彼方に虹が出ているのを佳代は見つけるのである。 佳代「……虹」 ○小野寺家・正面(夕) 「釣り船おの寺」の看板が新しくなっている。 帰宅して来る佳代。 家に入ろうとするが、 佳代「!」 と、足を止める。 高橋が来ているのに気付いたのである。 佳代「高橋さん?」 お辞儀をする高橋。 高橋「どうも」 佳代「どうしたんですか?」 高橋「田舎に帰ろうと思いまして」 佳代「田舎に?」 高橋「母がいるんで」 佳代「そう……それで遠いところわざわざ?」 高橋「約束ですから」 佳代「?」 高橋「宝くじ」 佳代「当たったんですか?」 高橋「はい。300円ですけど」 佳代「……」 高橋「約束なんで、半分渡しに来ました」 唖然とする佳代。 高橋は佳代に150円を差し出して、 高橋「はい」 佳代「……」 しばし見つめ合う高橋と佳代。 やがて笑いだす。 佳代「どうぞ中に入ってください。釣れたての美味しい魚出しますから」 高橋「すいません」 中に入る高橋と佳代。 ○同・内(夕) 仏壇に線香をあげる高橋。 冬彦と昌美の遺影が並んでいる。 カメラが供えてあり、冬彦の遺影は三点倒立をした時のものである。 高橋はその遺影を見て、思わず吹き出してしまう。 佳代「変な人でしょ」 と、クスクスと笑う。 高橋「いや、味のある人でしたよ」 と、他にも飾ってある数点の写真を眺める。 井の頭公園で撮った写真である。 佳代「不思議なんですよ、その写真」 高橋「不思議?」 佳代「ちょっと待ってね。今ビール持って来てから話してあげる」 高橋「はい」 佳代「でも怖がらないでね」 と、笑って、ビールを取りに席を立つ。 高橋「……」 ○港(夕) 二人並んで、海を見つめている冬彦と昌美。 海の彼方に虹が出ている。 昌美「きれいですね」 冬彦「うん」 昌美「そろそろ行きましょうか?」 冬彦「そうだな。ところで欲しいものは見つかったか?」 昌美「何もありません」 冬彦「ふふっ……そうだな。何もない」 昌美「はい」 冬彦「うん。何も、ない」 と、笑う。 手をつなぐ冬彦と昌美。 ○小野寺家・全景(夕) 西日が家を赤く染めている。 了 準入賞プロフィール 町田一則(まちだ・かずのり) 2009年に旗揚げをした演劇ユニット集団、劇団マニンゲンプロジェクトを主宰。下北沢を中心に行われたすべての公演の脚本と演出を担当する。今後は映像へと活動の場を広げようとしている。日本シナリオ作家協会シナリオ講座・第68期(2017年)研修科修了。 第45回 城戸賞準入賞作品 受賞作品選評はこちらから -
第45回 城戸賞準入賞作品シナリオ全掲載&受賞作品選評
2020年1月21日1974年12月1日、「映画の日」に制定された城戸賞が45回目を迎えた。本賞は映画製作者として永年にわたり日本映画界の興隆に寄与し、数多くの映画芸術家、技術家などの育成に努めた故・城戸四郎氏の「これからの日本映画の振興には、脚本の受けもつ責任が極めて大きい」との持論に基づいたもので、新しい人材を発掘し、その創作活動を奨励することを目的としている。これまでも「のぼうの城」(11)、「超高速!参勤交代」(14)など受賞作が映画化され大ヒットした例もあることから本賞の注目度は高く、今回は史上最多の421篇の応募があった。その中から10篇が最終審査に進み、町田一則氏の「黄昏の虹」が準入賞を受賞した。その全編をご紹介するとともに、最終審査に残った10篇の総評と受賞作品の各選評を掲載する。 ■応募脚本 421篇 最終選考審査10篇に残り、表彰式に招待された皆さん 映連会員会社選考委員の審査による第一次・第二次・予備審査を経て、以下10篇が候補作品として最終審査に残った。 「神さま、このロリコンたちを殺してください!!」土谷洋平 「上辺だけの人」三嶋龍朗 「最果ての景色」遠山絵梨香 「黄昏の虹」町田一則 「まつり」春海戒 「ブンさんの骨」仲村ゆうな 「不眠夜行」前田志門 「PINKちゃん」菊池翔太 「母と息子の13階段」林田麻美 「邪魔者は、去れ」弥重早希子 受賞作品 入選 該当作なし 準入賞「黄昏の虹」町田一則 佳作「上辺だけの人」三嶋龍朗 「母と息子の13階段」林田麻美 「邪魔者は、去れ」弥重早希子 審査委員(順不同、敬称略) 岡田裕介(城戸賞運営委員会委員長)、岡田惠和、井上由美子、手塚昌明、朝原雄三、野村正昭、富山省吾、椿宜和、会員会社選考委員 準入賞者のプロフィール&コメント 「黄昏の虹」(受賞作品全文はこちらからお読みいただけます) 町田一則(まちだ・かずのり) 2009年に旗揚げをした演劇ユニット集団、劇団マニンゲンプロジェクトを主宰。下北沢を中心に行われたすべての公演の脚本と演出を担当する。今後は映像へと活動の場を広げようとしている。日本シナリオ作家協会シナリオ講座・第68期(2017年)研修科修了。 コメント もちろん受賞したい一心で書きます。ネットで過去の傾向を調べてみたり、受賞作を読んで勝手に傾向らしき何かを想定してみたり。でもそんなことしているうちに、自分らしさなんてどんどん消えてしまいます。自分が、審査員が求めている『新鮮で斬新』な才能の持ち主どうかなんて神のみぞ知るで、受賞のためのみに書いていたら、くだらない、誰が書いてても良さそうなものしか書けなくなりました。登場人物は物語の展開のために存在し、どうでも良い台詞を言い、どこかで観たことある脚本を量産しました。もうそういうのはやめにしよう。そう思って書いたのが今回の作品です。それで落ちるならそれでも良い、その現実と向き合えば良いじゃないか、そう思って書きました。自分らしさを出そう、と。なので受賞は驚きました。落ちるものと思っていたので。これからは求められた題材で、どう自分を出していくのか、そしてどう自分を殺すべきところで殺すのか、その闘いだと思っています。 素晴らしい歴史ある賞をいただき、ありがとうございました。城戸賞の名に恥じないよう、これからより一層の努力に励みたいと思います。 選者 富山省吾(日本映画大学理事長) 椿宜和(株式会社KADOKAWA 映像事業局 映画企画部 チーフプロデューサー) 総評 今年も入選作のない年となりました。 岡田選考委員長の総評「今回はシナリオとして読ませる作品と、企画・発想で勝負する作品に分かれた。娯楽映画を目指す方法として良いこととは思う。残念ながらアイデアで勝負する作品には内容への知識と調査が不足していて物足りず、シナリオとして良く書けている作品は娯楽要素が乏しく入選に届かなかった」。 詰まるところ、着想の良さと良質な脚本内容の両方を満たす作品こそが城戸賞入選作となる、と言うことです。 選外の6作品には企画・発想に止まった作品が並んだように思います。人物・事件・ストーリー構成・最終テーマが不十分でこのままでは評価を得ることは困難。とは言え、それでも6作品が最終選考に残ったのは、評価に値する発想を提示した書き手への一次二次選考委員からの期待が大きい故と受け止めました。6人には改めて岡田会長の「知識と調査の不足」という言葉を噛みしめ、次回作へ向けた精進を期待します。(富山) 過去最高の応募総数421篇の中から各社映画プロデューサーが10篇を選びました。準入賞1篇、佳作3篇で今年も入選作品がなく残念でした。 今年度の傾向としては、企画(アイデア)勝負の作品が多く、一次二次選考では各社のカラーによって評価が大きく分かれた結果になりました。最終選考では特に劇場公開用の脚本というところに重きを置き、映画化できる構成・台詞の脚本という点を重視しました。しかし、パンチの効いた脚本は見つけられませんでした。全体的に企画や発想は面白いが、ストーリー構成や台詞が不十分であり、かつ誤字が多かった脚本があったように思えました。しかし、20代の若手ライターが最終選考に残ったことは喜ばしく、来年こそは入選作品が生まれることに期待したいと思います。(椿) ■受賞作品選評 「黄昏の虹」(受賞作品全文はこちらからお読みいただけます) 認知症の兆候が出始めた75才の冬彦が東京の娘に会いに行く。ユーモラスな語り口で旅の中で起きるささやかな驚きをドラマに仕立てて行く。心に残る場面やセリフが多く、「老人を、私を、愚かに見せる」という冬彦の独白に老齢に向かうこれからの世代の共感が宿り、今日の映画としての存在感が示せると感じました。冬彦に相応しいキャステイングを得て「シニア層の人生肯定映画」として映画化に向かって欲しいと願っています。(富山) 認知症、オレオレ詐欺、死といった現代的な題材を扱いながらも、台詞の応酬と練られた構成で、深みがあるドラマに仕上がっている。(椿) 「上辺だけの人」 夫の昔の恩人の看病をする中で、夫婦が互いを見つめ直す。選考委員「展開がありふれている」「夫婦の協力が都合良過ぎる」。(富山) 地味になりそうなストーリーのところ会話が軽やかであたたかく、好感を持てるように描かれていた。「劇中脚本」が、もう少しストーリーと絡んでいたらエンタメ性の高い作品になったと思う。(椿) 「母と息子の13階段」 母の息子への妄愛というモチーフ。選考委員「信じている世界を描き切ろうとするのは良いが、読んで疑問がたくさん生まれた」「こだわりは良いがリアリティーに欠ける」。(富山) 息子を溺愛する母親が、自らの自立欲求との矛盾に悩む姿がよく描かれている。一方、父親の人物造形が薄く、リアリティーに欠ける。(椿) 「邪魔者は、去れ」 長男がシリアで過激派に拘束された麻生家の長女と母。選考委員「登場人物の感情、理解できた」「入り口は感じるものがあったたが展開しなかった」。(富山) 実弟のシリア拘束、世間からのバッシングという現代的な事件による巻き込まれ型のストーリーありながら、家族の自発的行動よる展開が面白い。現代人の心に潜む空虚さを人物で描き分けながら炙り出した部分を評価する。(椿) (左より)準入賞を果たした町田一則氏、佳作の三嶋龍朗氏、弥重早希子氏、林田麻美氏 -
世界のアニエス・ベーも絶賛! 20年を経ても色褪せることのない鮮烈な青春映画 映画「19(ナインティーン)」 アニエス・ベー氏との運命的な出会い 渡辺:「アニエス・ベーさんと出会ったのは、サラエヴォ映画祭に出品した時です。上映後、僕に声を掛けてきた女性がいました。褒められているのは分かりましたが、通訳の方がいなかったので、その時はなんとなく話が終わって。後で聞いたら、それが審査員を務めるアニエスさんでした」 ―こう語るのは、製作20周年記念でブルーレイがリリースされる「19(ナインティーン)」の渡辺一志監督。商業映画デビューとなった本作が海外の映画祭で注目を集めた後、「キャプテントキオ」(07)「サムライせんせい」(17)などを手掛け、俳優としても活動中。その発端を振り返ったのが、冒頭の言葉だ。「アニエス・ベーさん」とは、言うまでもなく、かの世界的ファッションデザイナー。映画に対する造詣は深く、今では監督作もある。その絶賛を受け、サラエヴォ映画祭では新人監督特別賞に輝く。だが、この運命の出会いはここで終わらなかった。 渡辺:「帰国後、アニエスさんから改めて連絡があり、フランスに招待されました。行ってみたら、とても温かいもてなしを受けた上に、映画も有名なポンピドゥー・センターで上映してくれて。さらに公開権まで買って、色々な国でも上映してくれました。今でもアニエスさんが来日する時は連絡が来て、食事に招かれます」 ―アニエス・ベーが惚れ込んだ本作は、三人の若者と彼らに拉致された大学生の奇妙な旅の行方と衝撃の結末を描いた物語。色調を寒色系に統一した映像と乾いたタッチの演出が醸し出す緊張感は、今見ても鮮烈だ。その誕生の経緯を、渡辺監督は次のように語る。 渡辺:「この映画の元になったのは、僕が大学生の時に撮った短篇(映像特典として収録)です。高校の同級生から聞いた『スクーターに乗っていたら、三人組の男に声を掛けられ、車に引きずり込まれて半日連れまわされた挙句、一人で置き去りにされた』という体験談をヒントに物語を創作。それを、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)に応募したところ、準グランプリを受賞しました」 ―PFFと言えば、第一線で活躍する映画監督を多数送り出してきたインディーズ映画の登竜門。そこでの受賞は順調な滑り出しに見えるが、これが即、長篇化につながったわけではなかった。 渡辺:「最初は、PFFの入選者を対象に脚本を募集するスカラシップに挑戦しました。でも、自信があったにもかかわらず、面接で酷評され……(苦笑)。そこで、別のアプローチ方法を探そうと、名古屋の大学を休学して上京しました。東京では、脚本を書きながらレンタルビデオ店で自分の映画の方向性に近い作品を探し、そのメーカーに『脚本を見てほしい』と片っ端から電話しました。大半は断られる中で、会ってくれたのがギャガさんです。そのギャガのプロデューサーから紹介された制作会社と準備を進め、半年ほどで撮影に入ることができました」 ―こうして映画は完成するが、無名の新人監督の作品をいきなり公開するのではなく、まずは箔を付けようと、海外の映画祭に出品することに。アニエス・ベーと出会ったのも、この時だった。 野沢那智さんとの思い出と、貴重な出演となった経緯 ―なお本作には、アニメや洋画の日本語吹替えなどで有名な野沢那智が警察官役で出演している。 渡辺:「野沢さんの出演は、演出の狙いで『声で印象に残る人』を探した結果です。一度オファーを断られましたが、その後ご本人から直々に電話があり、『顔出しの芝居は自信がない……』とのことでした。僕の初監督作品で出演も兼ねると話したところ、翻意してくれて、出演してくれることになりました」 ―さらに渡辺監督は、野沢の人柄が伝わるこんなエピソードも明かしてくれた。 渡辺:「撮影中、色々と質問していたら、ブルース・ウィリスやアラン・ドロンの吹替えを、目の前で実演してくれたんです。公開時には舞台挨拶に登壇、公開後も長いお手紙をいただくなど、ものすごくよくしていただきました。その後、改めて野沢さんをメインキャストに据えた映画を企画したことがあります。野沢さんからも出演を快諾いただいていたのですが、結局実現せず、その翌年、野沢さんは亡くなりました。今振り返っても残念ですね」 ―結果的に本作は、顔出しの出演が極めて少ない野沢の生前の姿を記録した貴重な作品となった。以後、SFやゾンビものといったジャンル映画を数多く手掛けてきた渡辺監督。そのフィルモグラフィーの中で、ストレートなドラマである本作は、やや異色にも思える。だが、本人は自信を持ってこう語る。 渡辺:「この作品は『雰囲気が違う』とよく言われます。でも、23歳の自分だったからできた尖った映画だと思っています。万人向けではないかもしれませんが、刺さる人には強烈に刺さるものがある。最近も、『この映画が好き』というドイツの若い監督からオファーを受け、役者として映画に出演しました。20年経ってもそんな風に受け入れられていることは、とても嬉しいですね」 ―その魅力は、目の肥えた映画ファンにも必ず届くはず。ぜひ一度、プレーヤーにディスクをセットし、再生ボタンを押してみて欲しい。 渡辺一志 わたなべ かずし:1976年生まれ。愛知県出身。1996年ぴあフィルムフェスティバルでPFFアワード準グランプリを受賞した中篇を基に、23歳の時に脚本・編集・出演を兼ねて制作した本作で、商業映画デビュー。サラエヴォ国際映画祭では新人監督特別賞を受賞するなど海外の映画祭でも高い評価を得た。監督作に「キャプテントキオ」(07)、「サムライせんせい」(17)など。俳優としても三池崇史、林海象らの作品に出演する。 文=井上健一/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報1月上・下旬合併号より転載) 「19(ナインティーン)」 ●2020年1月9日発売 ●BD 4800円+税 ●監督・脚本・編集・出演/渡辺一志 ●出演/川岡大次郎、野呂武夫、新名涼、遠藤雅、野沢那智 ●2000年・日本・カラー・16:9(ビスタサイズ)1080p High Definition・音声1・日本語(ドルビーTrueHD 2.0chステレオ)・音声2・オーディオ・コメンタリー(ドルビーTrueHD 2.0chステレオ)・本篇82分 ●音声&映像特典(76分)/【音声特典】製作20周年記念 川岡大次郎、渡辺一志によるオーディオ・コメンタリー【映像特典】「19」(ナインティーン)1996年作品 第19回 PFFアワード 準グランプリ(本篇50分)/メイキング/スライドショウ/予告篇 ●発売・販売元/ギャガ (C) 2000 GAGA Communications, Inc.
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キネマ旬報ベスト・テン
2020年1月9日 -
第93回キネマ旬報ベスト・テン 第1位映画鑑賞と表彰式ご招待
2020年1月9日アメリカのアカデミー賞よりも一回多く、世界的にみても非常に長い歴史を持つ映画賞「キネマ旬報ベスト・テン」。 日頃のご愛顧に感謝して、抽選で100名様を、「2019年 第93回キネマ旬報ベスト・テン 第1位映画鑑賞会と表彰式」(2020年2月11日(火・祝)文京シビックホール:東京都文京区春日1-16-21)にご招待いたします。当日は第1位を獲得した作品の上映及び、各賞を受賞された監督・スタッフ・俳優の皆様が登壇する表彰式をとり行います。(※代理の方が出席される場合があります。)歴史ある映画賞の表彰式へ出席できる貴重な機会。奮ってご応募ください。 【第93回キネマ旬報ベスト・テン開催概要】 ◉開催日時:2020年2月11日(火・祝) ◉開催場所:文京シビックホール (東京都文京区春日1-16-21) ◉開催概要:外国映画、日本映画、文化映画の第1位受賞映画の鑑賞会(予定)と表彰式 【第93回キネマ旬報ベスト・テン第1位映画鑑賞と表彰式ご招待 応募概要】 ◉応募受付期間:2019年1月8日(水)〜2019年1月20日(月)23:59 ※応募は締め切りました。沢山のご応募ありがとうございました。 ◉ご当選者数:100名 ※招待状の発送をもって、当選の発表とさせていただきます。 ◉招待状の発送:2020年2月初旬ごろより随時 ◉注意事項: (※1)会場までの交通費などは当選されたお客様のご負担となります。 (※2)招待状の発送をもって、当選の発表とさせていただきます。 (※3)ご応募いただいた方の個人情報は、本キャンペーンについてのみ使用致します。 (※4)当日は、招待状をご持参ください。 (※5)招待状の転売行為は固くお断りいたします。 (※6)ロビー以外での飲食はできません。 (※7)会場内は全面禁煙になります。 (※8)エントリー後「完了画面」が表示されれば応募完了です。自動返信メールは送信されませんので予めご了承ください。 ※各受賞の発表は、2020年2月4日(火)を予定しております。 【キネマ旬報ベスト・テンとは】 『キネマ旬報』は、1919(大正8)年に創刊され、2019年7月に創刊100年を迎えた、現在まで続いている映画雑誌として、日本では最も古い歴史を誇ります。キネマ旬報賞の始まりは、当時の編集同人の投票集計により、まず1924年度(大正13年)のベスト・テンを選定したのが、その最初。当初は<芸術的に最も優れた映画><娯楽的に最も優れた映画>の2部門(外国映画のみ)でしたが、1926(大正15)年、日本映画の水準が上がったのを機に、現行と同様の<日本映画><外国映画>の2部門に分けたベスト・テンに変わりました。戦争による中断があったものの、大正時代から現在まで、継続的にベスト・テンは選出され続けています。 【キネマ旬報ベスト・テンの特徴】 長い歴史を持つ映画賞 世界的にみても、非常に長い歴史を持つ映画賞。ちなみにアメリカのアカデミー賞よりもキネマ旬報ベスト・テンの方が1回多いのです! 多面的な選出 その年を代表する「日本映画」「外国映画」「文化映画」をベスト・テンとして10本挙げるほか、「日本映画監督賞」「外国映画監督賞」「日本映画脚本賞」「日本映画主演男優賞」「日本映画主演女優賞」「日本映画助演男優賞」「日本映画助演女優賞」「日本映画新人男優賞」「日本映画新人女優賞」「読者選出日本映画監督賞」「読者選出外国映画監督賞」「キネマ旬報読者賞」と、その年の称賛すべき作品・映画人を多面的に選び出しています。 厳選された公正な審査 ベスト・テン及び各賞の選出者は、映画を多く見ている者に厳しく限定され、しかも選出者数が多く、更にその年齢・所属の幅(映画評論家、日本映画記者クラブ員など)も広いことから、当年の映画界の実勢を反映する最も中立的で信頼に足る映画賞という評価を業界内外からいただいています。 トロフィーについて トロフィーのデザインは、黒澤明監督「乱」で受賞したアカデミー賞衣裳デザイン賞をはじめとして、受賞経験豊富なワダエミさんにお願いしました。受賞の喜び、重みを知る方の作られたトロフィーには、こんな思いが込められています。 【ワダエミさんコメント(97年2月下旬号より)】 「頭の部分をコンセプト(発想力)、手の部分を技術力、表現力と考えますと、このトロフィーには、それらが欠けています。それは、これを受け取られた受賞者の方々の、発想力、技術力、表現力を以て、完全にしていただきたい、という気持ちからです。 また、少女でも、少年でもなく、あるいはその両方を備える若い精神と肉体を持った彫像であるのは、いつまでも役や作品に対し、真摯であり続ける映画人の取り組みを表現したためです。 細かなディテールで言いますと、一歩踏み出した足には、現状に満足せず、常に前に歩んでいく映画人の思いを、胸に付けられたフィルムの形には未来へ続くイメージをデザインしています。 アカデミー賞で、私は『オスカーには、私の衣裳は必要ありませんね』とスピーチさせていただきました。その通り、衣裳を着けたら、オスカーの良さは失われてしまうでしょう。 このキネマ旬報のトロフィーには、もともと人類が最初に衣とした素材―――、麻を纏せています。私は、この麻の衣を纏ったキネ旬のトロフィーと、衣を受け付けないくらい隙の無いデザインのオスカーは、ある意味で同じ重みを持つと思っています。賞を贈るということは、百年の映画の歴史に、何か新たなるものを加えることだと思います。 キネマ旬報賞は、文化勲章のように授けられるのではなく、偉業である映画作りを、より良い形で成し遂げられた方々に敬意を表すものだと思っています。このトロフィーが、映画の未来に貢献される映画人の、希望の“象徴”となってくれることを期待しています」 ※ちなみにこのトロフィー、約4kgあります。オスカー像は約3kg。オスカー像よりも重いものをつくりましょうとワダエミさんに助言を頂きました。受賞された皆さんが手渡された時に、第一声として「重い...」と呟かれるのも頷けます。