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「堀潤之」の検索結果
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ポルトガルが世界に誇る巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ。2015年に106歳で亡くなる直前まで活動し、「現役最年長監督」として知られた映画界の至宝ともいえる存在だ。没後10年となる今年、その多彩な作品群から国内劇場初公開となる3本を含む5作品が「オリヴェイラ2025」として特集上映される。 [caption id="attachment_49152" align="aligncenter" width="1024"] 「アブラハム渓谷」© Madragoa Filmes, Gemini Films, Light Night[/caption] 特集上映にあわせ、4月18日発売の映画雑誌『キネマ旬報』5月号では、オリヴェイラ監督の特集記事を掲載。「映画監督の世界」と銘打ったシリーズ企画で、世界的な巨匠の魅力に新たな光を当てている。 記事では、映画評論家の堀潤之、映画監督の筒井武文がエッセイを寄稿。仏ヌーヴェル・ヴァーグの旗手、ジャン=リュック・ゴダール監督の専門家として知られる堀は、オリヴェイラが生み出した作品について、持ち前の鋭利な筆致で「いずれも人間精神と芸術をめぐる深い省察を伴い、映画的な快楽と驚異にも満ちた珠玉の作品群だ」と綴る。 一方、映画評論家でもある筒井は、オリヴェイラが日本に最初に紹介された頃から魅了され、その作品群について語ってきた人物のひとり。エッセイの中でオリヴェイラの作家性を総括し、「一言でいえば、映画史の全過程を一作に封じ込められる監督である」と、その圧倒的な才能を評している。 そんな二人の筆者が、今回の特集上映の中でとりわけ重要だと口を揃えるのが、オリヴェイラの自伝的なドキュメンタリー「訪問、あるいは記憶、そして告白」だ。これは1982年に撮られたが、監督自身によって「死後公開するように」と言い付けられ、実際2015年に没するまで33年もの間封印されてきた、いわば幻の作品なのだ。もちろん日本での劇場公開は今回が初である。 [caption id="attachment_49153" align="aligncenter" width="1024"] 「訪問、あるいは記憶、そして告白」よりオリヴェイラ監督 © Cineastas Associados, Instituto Portuges de Cinema[/caption] 長年暮らした自宅を手放すことになったオリヴェイラが、それを機に自らの半生を語り出す「訪問、あるいは記憶、そして告白」。堀はエッセイで、その細部を分析したうえで、「彼の豊穣な映画的宇宙への導入にもなりうるし、彼の映画をひととおり見た後に再訪しても得るものは大きいはず」と結論づける。また筒井は、今回の上映を「貴重すぎる」と断じ、「これ以降に映画史上真の意味で驚異的な作品歴が綴られることに、どこまで自覚的だったのか。ここでの女性論、映画論は、オリヴェイラ作品を解き明かす鍵にもなっている」と興奮ぎみに綴る。 オリヴェイラと言えば、映画ファンのみならず多くの批評家や作り手たちからも愛され、すでに多くのことが語られてきた存在でもある。だが、まだまだ語り切れていないことはある──そんな期待を抱かせてくれる上映に立ち会い、その唯一無二の作品世界をぜひ堪能してほしい。 なお、今回の上映作品を中心にオリヴェイラの世界観を論じた堀、筒井ふたりのエッセイ全文は、『キネマ旬報』電子版および4月18日発売の『キネマ旬報』5月号で読むことができる。 文=キネマ旬報編集部 https://www.youtube.com/watch?v=HcLIkUKumoA キネマ旬報 2025年5月号 No.1962 2025年4月18日(金)発売 (雑誌コード:02991-05) 定価1320円(税込) 【詳細・購入はコチラ】 ・Amazon ・KINEJUN ONLINE SHOP
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“日本の偉大な監督たちに影響を受けた”。特集迫るベット・ゴードンよりメッセージ動画到着
2024年11月12日アメリカのインディペンデント映画の先駆者の一人であり、《セクシュアリティ》《欲望》《権力》をテーマに大胆な探求と創作を行なってきたベット・ゴードン。その初長編「ヴァラエティ」(1983)、中編「エンプティ・スーツケース」(1980)、短編「エニバディズ・ウーマン」(1981)を上映する特集〈ベット・ゴードン エンプティ ニューヨーク〉が、11月16日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム、12月7日(土)より大阪シネ・ヌーヴォほか全国で順次開催される(3作とも日本劇場初公開)。日本の観客に向けたベット・ゴードンのメッセージ動画と、著名人のコメントが到着した。 https://youtu.be/6Oy2lz-ooD0 「作品を日本の皆さんにご覧いただけるのは、とても特別で意義深いこと」と切り出すゴードン監督。学生時代に影響を受けたという小津安二郎や溝口健二から、現代の是枝裕和や濱口竜介まで日本の映画作家を称え、さらに「ヴァラエティ」に触れながら映画を共有できる機会を祝福する。 〈コメント〉 制作クレジットに名を連ねているナン・ゴールディンやリジー・ボーデンは私も大好きなアーティストたちです。彼女らの作品に自伝的な要素があるように、ベット・ゴードンの映画も当時の社会が生々しく記録されているように感じました。 ままならない状況で、自分が破滅にむかっているかもしれないと予感しつつも欲望のままつき進んでしまう様子が孤独で痛々しくも、映画のまなざしは優しく見守るように温かかったです。 ──遠藤麻衣(俳優、美術家) 「エンプティ・スーツケース」と「エニバディズ・ウーマン」を経て作られた「ヴァラエティ」は、思いもよらない方向へ突き進み、クリスティーンは社会や恋人に愛想を尽かしたかのように自由に勝手にトランスフォームを遂げてゆく。常識も正解も、この作品のなかではまるで無益なのがひたすら嬉しい。ざらついた質感でみる夢のearly80sニューヨーク。わたしも今すぐSIN CITY(悪徳の都)という名の口紅を手に入れないと。 ──遠藤倫子(映画zine「ORGASM」発行人) 男たちの幻想が渦巻くポルノの世界。ベット・ゴードンは大胆に「もう一つ別の物語」を女の眼差しと欲望で切り込む。女たちが棲息するイースト・ヴィレッジは刺激的で、予想外の好奇心と快楽、そして危険に満ちあふれている。そこはまさにポスト・アケルマンのニューヨークだ。 ──斉藤綾子(映画研究者、明治学院大学文学部教授) 三作品とも、ずっと語られてこなかった第二波、第三波フェミニズムのなだらかな繋がりを証言していた。わたしの憧れたNYを体現するアーティストたちの若かりし姿、表現の荒っぽさ、生々しさの記録にとんでもなく興奮した! ──長島有里枝(アーティスト) やさぐれてるけど暖かい色調で映し出される、今では失われてしまったニューヨーク。これはパティ・スミスとかキム・ゴードンとかデヴィッド・バーンの本で読んだやつ! パンク/ニューウェイヴ/ポストパンク好きなひと必見。 ──野中モモ(翻訳者、ライター) ヒッチコック的な取り澄ましたブロンド女性を、『タクシードライバー』にでも出てきそうなポルノ映画館のチケット売り場に座らせ、暗黒街とつながりのあるらしい胡散臭い紳士を尾行させる──この心躍る設定によって、『ヴァラエティ』のベット・ゴードンは男女間の視線の政治学を鮮やかに反転してみせた。その遊戯的な秩序転覆ぶりは、『勝手にしやがれ』で映画に開眼したというだけあって、ゴダールにも通じる挑発に充ちている。 ──堀潤之(映画研究者、関西大学文学部教授) 『ヴァラエティ』──1980年代初頭、NY、女、という括りで言えば、アベル・フェラーラ『天使の復讐』に遭遇したとき以来の衝撃だった。制作から40年を超える時を経た今、日本でクリスティーンはどう語られるのか。 ──渡辺佐智江(翻訳家) [caption id="attachment_41132" align="aligncenter" width="850"] 「ヴァラエティ」©1983 Variety Motion Pictures. All Rights Reserved. ©Kino Lorber, Inc. All Rights Reserved.[/caption] 配給・宣伝:プンクテ ▶︎ 米国インディペンデントの先駆的映画作家、ベット・ゴードンの特集開催 ▶︎ 米国インディペンデントの先駆的映画作家、ベット・ゴードン特集。予告編公開 -
ジャン=リュック・ゴダール最後の作品であり、2023年カンヌ国際映画祭クラシック部門で上映された「ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争」が、2月23日(金・祝)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国公開。ゴダールの肉声入り予告編、著名人のコメントが到着した。 https://www.youtube.com/watch?v=qRJ4vmGOmbU ゴダールに最も近いスタッフだったファブリス・アラーニョは「『イメージの本』(2018)以降、ジャン=リュックはシャルル・プリニエの「偽旅券」(1937)という多くの章からなる小説の翻案を望んでいました。それぞれの章には、1917年の10月革命から1930年代の間に生きたさまざまな人物の存在が認められます。彼の考えは、そのなかの2人に焦点を当てて物語を発展させることで、そのうちの1人の名はカルロッタでした」と述懐する。 ゴダールの「ちょうどプリニエが政治と革命という昔の情熱に回帰したように、また映画が作れるだろうか」という呟きで幕引きとなる予告編。本編への期待を高める。 〈コメント〉 死後のゴダールは、存在しない作品の予告編とやらでまたしても見るものを驚かせる。ゴンクール賞受賞作家シャルル・プリニエの『偽旅券』の映画化が叶わず、その詳細なシナリオ構成をキャメラ担当のアラーニョに託し、これは自分の最高傑作だと呟いたというのだから。実際、作中に再現される『アワーミュージック』の一景を目にしただけで、誰もが涙せずにはいられまい。 ──蓮實重彦(映画評論家) 自作『アワーミュージック』(2004)をアップデートしつつ、スペイン内戦からアラブの春に至るあらゆる闘争をごった煮にした本作は、シモーヌ・ヴェイユやハンナ・アーレントに連なる新たな抵抗する女性の人物像「カルロッタ」が生まれようとする現場に我々を立ち会わせてくれる。 ──堀潤之(映画研究者) 21世紀 / 1人ジガ・ベルトフ集団 / 最後のヌーベル・ヴァーグ / 最新作 / 輝き / 20年後の素顔に驚かされる / サンローラン / 遺書 / 市場なきクール / 最短の最高傑作 / これこそがコラージュ / これこそが反資本主義 / ──菊地成孔(音楽家・文筆家・「ラディカルな意志のスタイルズ」主宰) 私は思春期に、まるで宇宙人が作ったかのようなゴダール映画に遭遇し、確実に何かを殺され(その代わりに何かを生かされ)、どこかを乗っ取られてしまった。この映画がゴダールの遺言なら、そのすべてを自分の戒めとしようなどと勝手に思い込んでしまうのも、そのために違いない。 ──万田邦敏(映画監督) © SAINT LAURENT - VIXENS - L'ATELIER – 2022 配給:ファインフィルムズ、コムストック・グループ ▶︎ 巨匠が最後に手掛けた《最高傑作》。「ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争」