大映の黄金期を支えたスター“勝 新太郎” 代表作となった「座頭市」「悪名」を振り返る

大映の黄金期を支えたスター“勝 新太郎” 代表作となった「座頭市」「悪名」を振り返る
盲目ながら居合いの達人である座頭市は、勝新太郎の代表キャラクターとなった(『座頭市物語』)

今年で創立80年を迎えた大映。その黄金期である1960年代を支えたスターが、「カツライス」と呼ばれた、勝新太郎と市川雷蔵である。勝新太郎は特に「座頭市」、「悪名」、「兵隊やくざ」の三大シリーズで人気を集めたが、その中から「座頭市」3作品、「悪名」6作品が放送される。

【映画サイト「スカパー!映画の空」とのコラボ記事】

シリーズ全26本、リメイクも行われた傑作「座頭市」

勝新太郎の映画デビュー作は、市川雷蔵と同じ『花の白虎隊』(1954年)。ただ雷蔵は主演だが、勝は脇役の一人だった。雷蔵が翌年、『新・平家物語』(1955年)の平清盛役で注目を集め、早くもスター街道を歩んでいくのに対し、勝は白塗りの二枚目役で時代劇に次々出演したものの、大映の大黒柱・長谷川一夫の真似と揶揄され、伸び悩む日々が続く。その彼が自らの個性を見出したのが『不知火検校』(1960年)で、金と権力のために容赦なく人を殺していく盲目の悪党を快演。その不気味でありながらエネルギッシュな演技で異彩を放った彼は、ここで研究した盲人の表現を「座頭市」シリーズで完成させていく。

市が、父の仇を探す若侍・佐川友之進と出会う、「座頭市」シリーズ第12作『座頭市地獄旅』

「座頭市」シリーズ第1作『座頭市物語』(1962年)は、子母澤寛の「ふところ手帖」に収められた歴史エッセイが原作。天保の頃、やくざの飯岡助五郎の子分に座頭市と呼ばれる、盲目だが抜刀居合術の達人がいたというもので、原作の市は人を斬っていない。この座頭市の伝説を、脚本の犬塚稔は、市と助五郎と敵対する笹川繁藏方の用心棒・平手造酒をメインに、友情で結ばれた2人が渡世の義理で最後に対決するという、友情物語に仕立て上げた。原作の市は長脇差を使うが、これを仕込み杖に変えて「逆手居合斬り」の名手にしたのは、勝の創案。助五郎の子分たちの前で、シリーズ中初めて市が居合を見せる、燃えるろうそくを縦に真っ二つにする場面は、その居合の速さに驚くこと請け合い。また市と拮抗する剣の腕を持ちながら、老咳に侵されている平手造酒を演じた天知茂の、影のある剣豪ぶりも印象的で、2人の対決は時代劇映画史上に残る名シーンになっている。

好評を得た第1作に続いて、市は第2作『続・座頭市物語』(1962年)では実の兄を、第3作『新・座頭市物語』(1963年)では剣の師匠を斬ることになり、この初期の3部作で座頭市自身の物語は、ひとまず完結。以降は旅先で市が、弱者を助けて悪い親分や悪代官を倒すのが物語のパターンになる。そしてラストに待っているのが、最強の敵との対決だ。今回放送される第12作『座頭市地獄旅』(1965年)では、互いに将棋好きということで旅の道連れになった成田三樹夫演じる浪人と、最後に頭の中で将棋を指しながら対決の機会を窺う、2人が醸し出す緊張感が素晴らしい。

のちにアメリカでリメイクされる、シリーズ第17作『座頭市血煙り街道』

また第17作『座頭市血煙り街道』(1967年)では、当時殺陣の鋭さではNo.1と言われた近衛十四郎を敵に迎え、勝と近衛が事前に段取りを決めずに斬り合った立ち回りが迫力満点。この作品はルトガー・ハウアー主演の『ブラインド・フューリー』(1989年)として、後にハリウッドでリメイクされている。

生まれ故郷を追われたヤクザ・朝吉が弟分とともに、権力者や偽善者を退治する『悪名』

陽気で人間味あふれる侠客を演じた「悪名」

「座頭市」のシリーズ全26本(1962~1968・1970~1973・1989年)には及ばないが、「悪名」(1961~1969・1974年)も大映で15本、後に勝プロダクションで1本作られた勝新太郎の代表作。今東光の小説を原作に、河内生まれの暴れん坊で、女に優しく曲がったことが大嫌いという侠客・朝吉の活躍を描いている。彼とコンビを組むのが、腕も度胸も人一倍で、朝吉よりもドライなところがある弟分のモートルの貞。猪突猛進派の勝と、歯切れのいい関西弁をまくし立てて危機を乗り越えていく田宮二郎扮する貞の見事な掛け合いが痛快な作品だ。

『続・悪名』で大阪へと向かった朝吉と貞だが、朝吉のもとに召集令状が届き…

1961年に始まったシリーズは、第1作『悪名』(1961年)と『続・悪名』(1961年)が物語的には1セット。度胸を買われて関西のやくざたちから一目置かれる存在になっていく朝吉が、自らはやくざを嫌いながらも彼を慕う者たちに担がれて組を結成。だがやがて朝吉に召集令状が届く。戦地に向かう前、朝吉が貞にこんな悪名はいらないから組を解散しろという場面には、義理や掟に縛られた任侠映画とは違う、朝吉の人間的な魅力が出ている。しかし朝吉が戦地へ行っている間に、貞が殺される。この俯瞰で撮られた(大映撮影所の駐車場で撮影されたと言われる)貞の雨の中の刺殺シーンが印象的で、最初の2作品は強烈なインパクトを残した。

故郷の河内へと戻るも、再び大阪へ行くこととなった朝吉が友人の清次と再会する『続・新悪名』

物語は第2作で完結したが、シリーズの人気は冷めず第3作『新・悪名』(1962年)が作られた。ここからは貞の弟・清次役で田宮二郎が復活。舞台を戦後に移し、朝吉と清次が悪党たちを叩きのめす内容になっていく。また度胸も愛嬌もある朝吉が、女親分に人柄を惚れ込まれるのも定番で、第1、2作の浪花千栄子、第5作『第三の悪名』(1963年)では月丘夢路がその役回りを演じた。第4作『続・新悪名』(1962年)には、朝吉が肩入れする少女歌手の母親役でミヤコ蝶々も出演している。

第6作『悪名市場』(1963年)には、朝吉と清次の偽物として芦谷雁之助と芦谷小雁が登場。ほかにも藤田まことなど、コメディ色豊かな俳優陣が出演し、盲人として生きることに影を湛えた「座頭市」とは違い、「悪名」は朝吉の陽気なキャラクターが作品全体を引っ張る娯楽シリーズになっている。

勝はほかにも、軍上層部の理不尽な暴力に反逆する無鉄砲な二等兵に扮した「兵隊やくざ」(1965~1968・1972年)シリーズを含めて、1960年代を大車輪の活躍で駆け抜けた。

四国へ向かった朝吉が、自身と清次の偽物コンビに出会う『悪名市場』

その後は黒澤明監督の『影武者』(1980年)の主演降板、スキャンダラスな事件やその豪快な人柄による数々の伝説で知られたが、勝はやはりいい意味での「役者バカ」という印象が強い。「座頭市」はアジアでも人気があり、香港のカンフースター、ジミー・ウォングと市が最後に対決する『新座頭市 破れ!唐人剣』(1971年)が作られたことがあるし、台湾では「座頭市」のキャラクターを使った偽物映画も作られた。またキューバでは特に「座頭市」の人気が高く、勝新太郎は国賓待遇で国に呼ばれたことがあった。その魅力は海外へも通じるもので、いままた時を超えて勝新太郎を初体験する人がいたら、その虜になるに違いない。

文=金澤誠(映画サイト「スカパー!映画の空」より転載)

金澤誠:映画ライター。「キネマ旬報」、「日刊ゲンダイ」、時事通信映画評などで執筆。日本映画をメインに、これまで約1万人の映画人に取材。著書に「誰かが行かねば、道はできない」(キネマ旬報社・木村大作と共著)、「音が語る、日本映画の黄金時代」(河出書房新社・紅谷愃一・著、取材・構成・文章を担当)、「新・映画道楽 ちょい町エレジー」(KADOKAWA文庫・鈴木敏夫・著、取材・構成・文章を担当)などがある。2022年は後半に入って日本映画の力作が揃って、嬉しい限り。

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<放送情報>

WOWOWプラス

●座頭市物語
放送日時:2022年11月5日(土)8:00~、17日(木)14:15~

●座頭市地獄旅
放送日時:2022年11月5日(土)10:00~、17日(木)16:00~

●座頭市血煙り街道
放送日時:2022年11月5日(土)11:45~、17日(木)17:40~

日本映画専門チャンネル

●悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)9:20~、11日(金)17:00~

●続・悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)11:10~、17日(木)7:10~

●新・悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)12:55~、22日(火)17:20~

●続・新悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)14:45~、25日(金)17:10~

●第三の悪名
放送日時:2022年11月3日(木・祝)16:35~

●悪名市場
放送日時:2022年11月4日(金)18:50~

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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