コンプライアンスにがんじがらめの現代を笑い飛ばす社会派コメディとして話題沸騰中のTVドラマ『不適切にもほどがある』の脚本家の宮藤官九郎。彼が同作よりも前に書いた初の本格的な社会派コメディドラマが、2016年放送の『ゆとりですがなにか』。岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥の演じるゆとり世代の3人を主人公にした同作は、世代で括るナンセンスやパワハラなどの社会問題をユーモアにくるんで描いて話題となり、翌年には続編のスペシャルドラマも放送された。それからコロナ禍も挟み6年経た昨年、心にゆとりを忘れつつある令和の時代に満を持して、さらなる続編が映画化。その映画「ゆとりですがなにか インターナショナル」のBlu-rayとDVDが3月27日に発売(レンタル同時リリース)されたのに併せ、同作の魅力や豪華版に収録の特典映像についてご紹介する。

 

主役級が揃う豪華キャストが再結集

今回の映画は、劇中で多少のドラマ版の振り返りもあるので初見でも楽しめるが、まずはシリーズを簡単に振り返ると、ドラマ版は2016年に日本テレビ系で放送。主人公は、ゆとり教育を受けて育ち、“野心も競争意識も協調性もない”と評されがちな、1987年生まれの“ゆとり第一世代”の坂間正和(岡田将生)、山路一豊(松坂桃李)、道上まりぶ(柳楽優弥)の三人で、ひょんなことから高円寺で出会った彼らは、仕事に家族に恋に迷いながら親交を深め、友人となっていく。

坂間は食品メーカーの営業マンだったが、後輩・山岸ひろむ(仲野大賀)にパワハラで訴えられ、系列店に出向して居酒屋の店長となった後、会社の同期だった茜(安藤サクラ)と結婚して共に退社し、東京郊外・八王子にある実家の坂間酒造で営業を務めることに。山路は優しく真面目な小学校教師で、教育実習生の佐倉悦子(吉岡里帆)や転校生の母親と恋に落ちそうになるも、結局は童貞が捨てられない。まりぶは内縁の妻と子どもがいながら坂間の妹・ゆとり(島崎遥香)と不倫もしていた破天荒な男で、風俗店の客引きをしながら東大を目指していたが、11浪した後に「東京中央大学」に進学した。

2017年7月にはスペシャルドラマ『ゆとりですがなにか 純米吟醸純情編』が放送され、その後の彼らの姿が描かれた。そして今回は、ゆとり世代と呼ばれた彼らも30代半ばとなり、いまやさとり世代やZ世代とのギャップに苦しみ、働き方改革などの時代の波にも揉まれる中、家族や仕事の問題も変化して人生の岐路に立たされた現在の姿が綴られていく。

 

高円寺から八王子の間で繰り広げられるインターナショナルな物語

映画では、坂間は茜との間に二人の娘が生まれているが、夫婦仲はあまりうまくいっておらず、坂間酒造の宣伝のために動画配信を始めるが、こちらもパッとしない。そんな中で以前の勤務先の食品メーカーが韓国企業に買収され、その傘下の居酒屋チェーンと日本酒の独占契約を結んでいた坂間酒造も契約見直しを迫られ、ピンチに陥る。

山路はいまだに女性経験ゼロで、婚活サイトで知り合った女性とのデートにも、レンタルおじさんでまりぶの父でもある麻生(吉田鋼太郎)にリモートで参加してもらい相談するという、相変わらずのこじらせぶりを見せる中、勤務先の小学校に外国人生徒が二人同時に転校してきたり、新たな教育実習生を迎えて、振り回される。

まりぶは、大学卒業後に日本発祥のエビチリで中国進出する新事業に手を出すが、失敗して帰国。坂間と再会して坂間酒造で働くことに。しかし、坂間が動画配信をやっているのを知って、悪知恵を働かす。

そして、山岸は後輩からパワハラを責められる立場になり、坂間の妹・ゆとりは旅行会社を辞めて北欧雑貨販売で企業しようとしていたりなど、時を経た他のキャラクターたちの状況も変化。さらには、木南晴夏や上白石萌歌らが演じる新キャラも登場する他、2017年にHuluで配信されたスピンオフドラマ『山岸ですがなにか』で山岸の彼女となった佐津川愛美演じる須藤冬美も本編に初登場する。余談ながらこのスピンオフも宮藤が脚本を書いており、メタフィクションドラマとして秀逸なので、機会があればぜひ観て欲しい(Huluで配信中のほか、スペシャルドラマの豪華版ソフトの特典映像に収録)。

なお、タイトルがなぜ“インターナショナル”なのかというと、今回は松坂が宮藤や水田伸生監督に、“映画「ハングオーバー!」シリーズのようなテイストを『ゆとりですがなにか』の主人公三人でもできるのでは”と提案したことが発端となっており、宮藤は海外ロケも視野に入れた“国際的な”続編を構想。しかしコロナ禍により状況が激変したことから、コロナ前は外国人の来日が多かったことを踏まえ、高円寺から八王子の間でインターナショナル感を出すことがこの作品らしいということになっていったようだ。

 

熱いメッセージも笑いを交えて積極臭さなしに伝える宮藤脚本

宮藤官九郎作品の魅力は、愛すべき多彩なキャラクターたちの群像劇と、予想できない展開を交えて綴られる喜怒哀楽のすべてが詰まった巧みな構成の笑って泣ける物語。熱いメッセージも笑いを交えて積極臭くなく伝える宮藤脚本の上手さは、宮藤が初めて本格的に社会問題を取り入れて書いたこのシリーズでも存分に発揮されており、『ゆとりですがなにか』なくして『不適切にもほどがある』は生まれなかったかもしれない。今回の映画版も、Z世代、働き方改革、コンプライアンス、テレワーク、待機児童、動画配信、多様性、LGBTQ、グローバル化といった、現代社会を反映した物語となっている。

様々な要素を主人公三人や坂間家の家族の物語にてんこ盛りに詰め込みながら、濃密な116分の一本の映画として上手く仕上げることに成功しているのは、脚本の力はもちろんだが、絶妙なアンサンブルを見せる芸達者なキャストたちが揃ったことに加え、コメディにもシリアスにも長け、宮藤とはドラマでも映画でも長年組んでその魅力を知り尽くした水田伸生が監督を務めているからこそ。まさにこのスタッフとキャストでしか作れない作品で、特にクライマックスで坂間家の茶の間に、岡田、松坂、安藤、仲野、島崎遥香、髙橋洋、青木さやか、佐津川愛美、長村航希、吉原光夫、中田喜子という様々な世代のキャストが揃うシーンは必見。狭い茶の間で大勢が揃い、ドタバタの会話劇が回想シーンも交えて展開する複雑な構成ながら、宮藤の脚本、水田の演出、俳優陣の芝居が見事にかみ合って、面白さを損なわずにわかりやすく見せている。

爆笑しながらも、現代社会の生きづらさを考えさせられたり、家族愛に感動したりという、心を揺さぶるエンタメ要素満載の本作。とにかく魅力的なキャラクターばかりなので、結局のところは難しいことを考えず、ただただ主役3人とその家族や周囲の人々の様子をずっと見守り続けたいと思わせられる、愛すべき人間ドラマとなっている。

3月27日にリリースされたBlu-rayの豪華版には、スペシャルフォトブックレットが封入される他、総計約90分の特典映像も収録。スペシャルメイキングでは撮影現場の様子と共に、メインキャストたちのコメントも収録。完成披露舞台挨拶や初日舞台挨拶などのイベント映像集も収められている。それらの特典映像で特に印象的なのは、やはり岡田、松坂、柳楽の仲の良さ。ドラマ版が始まる時に柳楽が声をかけて三人で京都旅行に行ったことを振り返ったり、そこから友人として関係を深めてきたので、岡田が「6年ぶりの共演でも撮影現場に友達がいると思うと安心感があった」と明かしたり、松坂が「全く飽きないご褒美みたいな特別な現場」「また2年後くらいにやりたい」などと語ったり、柳楽が自身のターニングポイントのような作品に時を経てまた参加できていることの喜びを述べたりしている。三人共に定期的に演じ続けたい役だと思っていることや、キャスト陣全員がこの作品を愛していることも伝わってくるコメントが満載なので、続編への期待を高めてくれることだろう。

文=天本伸一郎 制作=キネマ旬報社

 
映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』

●3月27日(水)Blu-ray&DVDリリース(レンタル同時)
▶Blu-ray&DVDの詳細情報こちら

豪華版 Blu-ray 価格:7,480円(税込)

【ディスク】<2枚>(本編Blu-ray1枚/特典DVD1枚)
★封入特典★

・スペシャルフォトブックレット
★映像特典★(※約90分)
・スペシャルメイキング
・イベント映像集(完成披露試写会/初日舞台挨拶)


●通常版DVD 価格:4,180円(税込)
【ディスク】<1枚>(本編DVD1枚)


●2023年/日本/本編116分
●脚本:宮藤官九郎
●監督:水田伸生
●音楽:平野義久
●主題歌:「ノンフィクションの僕らよ」感覚ピエロ(JIJI Inc.)

●出演:岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥
安藤サクラ、仲野太賀、吉岡里帆、島崎遥香
手塚とおる、髙橋洋、青木さやか、佐津川愛美、矢本悠馬、加藤諒、少路勇介、長村航希、小松和重
加藤清史郎、新谷ゆづみ、林家たま平、厚切りジェイソン、徳井優
木南晴夏、上白石萌歌、吉原光夫 / でんでん、中田喜子、吉田鋼太郎

●発売・販売元:VAP
©2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

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