伝説的ヘアメイクドレッサーが最後のメイクへ──。ウド・キアー主演「スワンソング」
- スワンソング , トッド・スティーブンス , ウド・キアー , ジェニファー・クーリッジ
- 2022年06月14日
引退したヘアメイクドレッサーが亡き親友の最後のメイクを施すために旅立ち、葛藤しながらも輝きを取り戻していく──。実在の人物をモデルに、名優ウド・キアー主演でゴージャスかつハートフルに綴るロードムービー「スワンソング」が、8月26日(金)よりシネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。
芸術などに身を捧げた者たちの人生最後の作品、最後のパフォーマンスといった“有終の美”を表す言葉〈スワンソング〉。白鳥がこの世を去る際に、最も美しい声で歌うとされる伝説に由来する。
現役を退き、老人ホームでひっそりと暮らすパット。伝説のヘアメイクドレッサーという過去の栄光に苛まれる彼に、わだかまりを残して亡くなった元顧客で親友のリタから“死化粧”の依頼が舞い込む。パートナーを早くにエイズで失ったゲイとしての人生、忘れていた仕事への情熱など、さまざまな思いが去来するパットの〈スワンソング〉は、リタを天国へ送り届ける仕事となるのか?
トッド・スティーブンス監督のメッセージも到着した(以下)。
1984年、私は初めて故郷の小さな町にあるゲイバー、“ザ・ユニバーサル・フルーツ・アンド・ナッツ・カンパニー”に足を踏み入れた。そこに彼がいた。ダンスフロアでキラキラ輝いている。フェザーボアを首に巻き付け、柔らかなフェルトのつば広帽をかぶり、お揃いのパンツスーツを着た“ミスター・パット”・ピッツェンバーガー。まるでボブ・フォッシーの世界から抜け出したような動きで踊っている。17歳の私にとって、パットは神のごとく輝いていた。
数年後、自伝映画『Edge of Seventeen』に着手しようと思っていた私は、すぐに“ミスター・パット”のことが頭に浮かんだ。彼を追跡しようと故郷に戻った私は、彼が動脈瘤を患い、一時的に話せなくなってしまったことを知った。だが、彼の恋人デビッドが私に物語を聞かせてくれた…。パットがかつてオハイオ州サンダスキーでどれほど素晴らしい美容師だったか、彼の有名な女装パフォーマンスについて、1970年代、彼がどんなふうにキャロル・バーネットのようなドレス姿でスーパーマーケットに買い物に行っていたか─。彼は、常に勇気をもって自分自身でいようとした。それが安全とは言えない時代でも。
実のところ、“ミスター・パット”に刺激されて私は『Edge of Seventeen』を書いた。重要な“パット”のキャラクターを主人公の良き相談相手として書いていたが、撮影の途中でその役はカットされた。だが私はいつも、自分の女神をいつかはもう一度書くことになるだろうとわかっていたのだ。そして何年もあとに彼はついに戻ってきた。私はもう一度パットを探したが、彼が最近亡くなったことを知った。悲しいかな、パットの有名な手作りのラインストーンのドレスはすべて失われてしまっていた。ただ靴箱がひとつ残っていた。中には、いくつかの色あせた宝石と半分吸いかけの煙草がひと箱だけ。
「スワンソング」は、急速に消えていくアメリカの“ゲイ文化”へのラブレターなのだ。クィアであることが以前よりずっと受け入れられてきた矢先に、昔栄えていたコミュニティが、あっという間に社会の中に溶けてなくなっていく。同化作用とテクノロジーのおかげで、“ザ・ユニバーサル・フルーツ・アンド・ナッツ・カンパニー”のような小さな町のゲイバーは消えていく運命にある。「スワンソング」を、忘れ去られたすべてのホモセクシャルのフローリストと美容師たちに捧げよう。彼らがゲイコミュニティを築き、私たちの多くが今日までしがみついてきた権利のための道を切り開いてくれたのだ。だが、何よりも、私にとってこれは、もう一度生きるのに遅すぎることは決してないということを教えてくれる映画なのだ。
「スワンソング」
監督:トッド・スティーブンス
出演:ウド・キアー、ジェニファー・クーリッジ、マイケル・ユーリー、リンダ・エヴァンス
2021年/アメリカ/英語/105分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:SWAN SONG/日本語字幕:小泉真祐
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
© 2021 Swan Song Film LLC
公式HP : swansong-movie.jp