フィリピンで見る人生最後の景色とは?「なれのはて」の “続編”「ベイウォーク」

フィリピンに生きる4人の困窮邦人を、7年をかけて追った粂田剛監督作「なれのはて」(昨年12月に公開)。同作に収録できなかった人物たちにフォーカスした「ベイウォーク」が、12月24日(土)より新宿K’s cinemaほかで全国順次公開される。メインビジュアル、場面写真、粂田剛監督のコメントが到着した。

 

 

「世界三大夕日の名所」の一つといわれるマニラで、市民の憩いの場となっている海沿いの遊歩道〈ベイウォーク〉。夕方までは家族連れやカップルで賑わうが、夜はホームレスのねぐらとなる。

そこにひとりの日本人がいた。赤塚崇さん58歳。裏稼業で幅を利かせた生活をしていたものの、フィリピンで騙されて一文無しに。日中は露店のタバコ売りを手伝い、夜はベイウォークで路上生活をしている。愛嬌ある人柄が幸いしてか、フィリピン人に助けられて日々を送っている。

一方、ベイウォークにほど近い高層アパートメントに入居したのは、関谷正美さん62歳だ。日本で年金生活を送っていたが、「呑む・打つ・買う」の楽しい暮らしを夢見てフィリピンに移住。海を望むリフォーム部屋で第二の人生(セカンドライフ)をスタートさせたが、フィリピン人をなかなか信用できず、何をやってもうまくいかない。やがて関谷さんは部屋に閉じこもるようになる。

50歳を過ぎて日本を飛び出し、フィリピンでの生活に夢を託した2人に待ち受けるものとは──。

 

「ベイウォーク」公開に当たって
日本から海外に飛び出した人たちの“その後”に興味があった。
彼らがそこでどんな暮らしをして、何を食べ、周りにはどんな人たちがいるのか…その生活は幸せか?それとも不幸か?今の自分の境遇を嘆いているのか、満足しているのか、または諦めているのか?そして故国日本に対してどんな感情を抱いているのか?彼らのことを知りたかった。それを何らかの作品にして残したかった。
2012年から2019年の間、カメラを持って20回ほどフィリピンを訪れ、多くの日本人に会った。ほとんどが男性だった。犯罪を犯して逃げてきた人、フィリピン人女性と結婚し移住した人、女性を追ってやって来てどん底に落ちた人、貧困の中家族を作り暮らしている人…当たり前だが一人ひとりにそれぞれの人生があり、それぞれの思いがあった。撮影させてくれた人も、撮影はダメだという人もいた。次に行った時は行方不明になっていた人もいた。継続的に撮影させてくれた人は7人だった。その中の4人を主人公に「なれのはて」という映画を作った。映画は第3回東京ドキュメンタリー映画祭でグランプリ&観客賞を受賞し、一般劇場公開されることになった。素直に嬉しかったが、そのあと、多少の割り切れなさが残った。映画に入らなかった人たちのことだった。長年にわたって撮影させてくれたのに、作品に結実しなかった人たち…彼らに申し訳なかった。彼らのためにもう1本、映画を作るべきだと思った。誰にも評価されなかったとしても。
そんな思いで完成させたのが今回の「ベイウォーク」だ。
この映画には、マニラで無一文になりホームレスにまで落ちぶれた男性と、老後をフィリピンで過ごそうと移住してきた男性が登場する。彼らの生活圏はほぼ重なっているが、互いの存在を知ることはない。片やストリートを這うように生き、もう片方は高層マンションにひとり暮らす。彼らの行く末がどうなるのかは…ぜひ映画をご覧になってほしい。
自分がなぜ、日本を捨て海外に暮らす人間たちに惹かれたのか。それまでの暮らしをリセットして新しい人生を生きる彼らが羨ましかった?そう思ったこともあった。どん底で生きる彼らの暮らしの中に、むき出しの「生」を感じた?そんな瞬間もあったが、それだけではない気がした。
7年間取材して2本の映画を作り、彼らのことを知るための長い旅はいったん終わったが、答えは、未だに分からない。
──監督 粂田剛

 

                    

 

「ベイウォーク」

監督・撮影・編集:粂田剛 音楽:高岡大祐 整音監修:浦田和治 配給・宣伝:ブライトホース・フィルム 製作:有象無象プロダクション
2022年/日本/DCP/カラー/90分
URL:atbaywalk.com
©Uzo Muzo Production

今日は映画何の日?

注目記事