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特別インタビュー:「Dr.コトー診療所」富岡涼(原剛洋役)【第1章】「Dr.コトー診療所」は、特別な思いが詰まった人生の財産です

 

現在、大ヒット上映中の「Dr.コトー診療所」は、2003年から2006年にかけて放送された人気テレビシリーズの16年ぶりの続篇で、コトー先生演じる吉岡秀隆をはじめ、レギュラー陣が全員再結集したのが、この映画の大きな魅力の一つとなっている。すでに俳優を引退していた原剛洋役の富岡涼も例外ではない。彼はこの映画のためだけに、俳優として復活した。その貴重な富岡涼さんのロングインタビュー【全3章】をお届けする。共演者との再会風景、作品に懸ける想い、役への理解など、16年後の剛洋を演じた富岡さんの心境をたっぷり伺った。(取材・文=前野裕一)

※この文章は、映画の重要な展開に触れています。

まさかの続篇 まさかの出演依頼
難しいと思いきや、会社は快諾!

──富岡さんは「Dr.コトー診療所2006」のあと俳優業をやめられているのですが、今回の出演依頼があったときは、どんなお気持ちでしたか。
富岡 驚きました。えっ、まさか、やるんだ……って。コトーの「2006」が終わってから何年かは、「続きがあるのかな」って考えたりもしていたのですが、さすがに16年も経っていましたからね。周りの人から「コトーはもうやらないの?」って聞かれることが多かったんですが、「いやあ、もうないんじゃないですか」みたいな話はしていました。だから、製作発表のニュースを見た皆さんが驚いたのと同じぐらい、自分も驚きを感じていました。

──そのニュースが出たとき、「剛洋はどうなるんだ⁉」ってファンの人たちの心配の声が多かったようですが……。
富岡 そうみたいですね(笑)。

──しかし、中江監督から出演依頼があっても、富岡さんとしては現在違う仕事をされているので、簡単に引き受けられる立場ではないですよね。
富岡 はい、だから悩みました。もちろん出たい気持ちは強くありましたが、やっぱり会社を長期間休まないといけなくなるわけですし……。監督からお話を伺って、会社の人に相談したら「それは本当にいい話だよ」と。監督が会社にご挨拶に来てくださったときも、「ぜひやりなよ」と言ってもらえて。

撮影中の中江功監督

──それは会社の方に感謝するしかないですね、我々ファンとしては(笑)。
富岡 はい、僕も同じ気持ちでした。

──あの、会社の上層部の方が「コトー」ファンだったとか(笑)。
富岡 いやいや、そうではなくて(笑)、「そんな貴重な体験はなかなかできないから、自分のためにもなるし、いい経験になるはずだから行ってきなさい」って。

──いい会社ですねえ。素晴らしい英断です。
富岡 (笑)。

──吉岡さんとは数年前に再会していたそうですが。
富岡 6、7年前ぐらいに一緒にお食事をして。吉岡さんが「コトーの続篇をやるんだったら、また出る?」とかおっしゃって「やるとなったら、どんな話だろうね」「何か突拍子もない感じになったりするのかな」なんて話をしました。出演に関しては、僕はそのときは、「うーん」って感じでしたね。「島のみんながどんな生活をしているのかは気になりますけど、僕はもう(俳優を)やめているし……」みたいな話をした記憶があります。

──しかし、その後、今回の映画の企画が成立して、富岡さんも出られることになったわけですよね。共演者の方たちとの顔合わせをしたのは、どのタイミングだったのですか。
富岡 結構バラバラでしたが、顔合わせ、ホン読みのときに、多くの方にはお会いできました。柴咲さんは、ロケ地でのリハーサルで最初にお会いしました。

──どんなお気持ちでしたか。
富岡 ホン読みの日はものすごく緊張しました。予定の時間よりものすごく早くスタジオに着いて、一人でドキドキしながらスタジオの片隅に座って待っていました。いろんなことを考えると余計に緊張して、それを紛らわすためにお水をたくさん飲む、みたいな(笑)。

──わかる気がします(笑)。
富岡 その後、みなさんが続々といらっしゃって。本当にドキドキした感じですね。

──どんな反応だったんですか。
富岡 皆さんが「わあー」「大きくなったなあ」「『コトー』終わった後、仕事やめちゃったんでしょ」って(笑)。山西(惇)さんと船木(誠勝)さんが、「オーッ、久しぶり」って感じで手をあげて声かけていただいて。

──その光景はまさにドラマの一場面みたいですね。
富岡 本当にそんな感じでした(笑)。

──メイキング、入っていないんですか。見たい(笑)。
富岡 僕の緊張が一瞬でほぐれるくらい、みなさんから温かく声をかけていただいて。

 

剛洋と剛利
時任三郎さんとの再会

撮影現場での記念撮影。吉岡秀隆さん、時任三郎さん、富岡涼さん

富岡涼演じる原剛洋は、漁師の父・剛利(時任三郎)と二人家族。彼の母親は、剛洋が幼い頃、当時の島の医者の誤診が原因で病死している。以後、剛利は、どんな医師が赴任しても“島の医師”を信用しない。それどころか憎んでいる。五島先生(コトー先生)が志木那島にやってきたときも、反感を持ち続けていた。一方、剛洋は急性虫垂炎で死にそうなところをコトー先生に救ってもらったこともあり、彼を慕い、やがてはコトー先生のような医師になりたいと思う。そのことを苦々しく思っていた剛利も、剛洋の想いが本気であることがわかると応援するようになる。

──再び原剛洋を演じるにあたり、これまでのドラマシリーズを見直したりしましたか。
富岡 第1シーズンの第1話から全部見直して、感動していました(笑)。

──吉岡さんのお話ですと、富岡さんは「コトー博士」と思えるくらい、ものすごく詳しいとか。
富岡 いやいや、そんなことないです(笑)。ただ思い出として、「コトー」の撮影現場では、こんなことや、あんなことがあったなって。撮影期間が長かったですし、自分も剛洋と同じ年齢で成長していく中で、毎年のように共演の皆さんにお会いして撮影していくのが、青春時代の思い出じゃないけど、幼少期の思い出として深く残っているんです。

──特に感受性が強い子どもの頃だと、よく覚えていますよね。
富岡 そうなんです。非日常的な出来事だし、沖縄に行って、そこでしばらく生活しながらロケをした日々は、強烈でしたね。

──そうそう、この人を忘れてはいけない。お父さんの原剛利役の時任三郎さんと再会されたときは、どうでしたか。
富岡 東京での衣裳合せで最初にお会いしましたが、相変わらず背が高いし、優しくて柔らかい雰囲気で「大きくなったね」「いま何してるの?」って話しかけてくださって。普段の時任さんは寡黙な剛利さんと違ってすごく気さくで、面白さ全開って感じで(笑)。僕は久しぶりなのでちょっと緊張しながらも、大きな優しさを感じていていました。ここは剛洋とお父さんとの距離と同じだなって。

──劇中の剛利さんは、剛洋くんに対して厳しいというか、現代の父と子の関係としては、ちょっと違う感じはありますよね。
富岡 そうなんですね。剛利さんの性格もあるでしょうが、剛洋が小さい頃に奥さんを亡くされて、男手一つで男の子を育てていくには、甘やかしてはいけない、厳しく育てないといけないという思いもあったんだと思います。ただ息子の願いを叶えるために必死でお金を貯めて医学の道に進学させるわけですが、そんなことは並大抵にできるものではない。だから、息子のことを思っていて、優しいんですけど不器用なところがある。剛洋もまた不器用なので、二人にはある距離があるんだけど、本当はずっと繋がっている父と子なんです。

──だからなのか、剛洋くんは剛利さんに、普通に子どもが父親に甘える感じがちょっとないですよね。
富岡 そうなんです。剛洋はどう甘えていいかわからないし、お父さんも甘えられたらどうしたらいいかわからない感じがある。

──それが、今回の映画にも丁寧に描かれていることに、非常に感銘を受けたのですが、それについてはのちほど詳しく。 

第2章へ続く

 


Ⓒ山田貴敏 Ⓒ2022映画 「Dr.コトー診療所」製作委員会
「Dr.コトー診療所」は全国東宝系にて公開中。

『キネマ旬報』1月上・下旬合併号では「Dr.コトー診療所」を大特集。吉岡秀隆(ロング)、柴咲コウ、時任三郎、大塚寧々、筧利夫、朝加真由美、泉谷しげる、小林薫、中江功監督(ロング)のインタビューを掲載。くわしくは KINEJUN ONLINE にて。

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