映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 —「ブルーバック あの海を見ていた」—

オーストラリアの海が育む母と娘の絆、自然への愛

海洋生物学者のアビーが故郷の海辺の町ロングボート・ベイに戻ったのは、母のドラが脳卒中で倒れたから。退院したドラは、言葉を発しない。海を一望する自宅で、親子の日々が再び始まり、過去が回想される——。

アビーを演じるのはミア・ワシコウスカ。ハリウッド作品でおなじみだが、今回は母国オーストラリアで落ち着いた魅力を見せる。昔日のドラ役にはラダ・ミッチェル。娘を深く愛する母親、そして海の生態系を破壊するリゾート開発に抗議する環境活動家という二つの顔が同居する。気さくでバイタリティにあふれ、時に荒っぽい(「臆病者に居場所はない」といった感じの台詞が印象的)。厳しくも優しい、まさに海そのもののような存在だ。

 

アビーにとって、母と並ぶもう一つの大きな存在。それは、8歳の誕生日に初めて潜った入り江で出会った巨大魚、ウエスタン・ブルーグローパーの〝ブルーバック〞だ。この魚が面白い。「体長は約1・7メートル、体重は約40キロに達し、約70年も生きる。人懐こく好奇心旺盛。産まれた時は皆メスで、体の色はグリーン。オスのハーレム状態というべき小さな群れをなし、そのオスが捕食や老齢などの理由で消えると、上位のメスがブルーに変色してオス化する」(プレスリリースより)。雌雄同体の種が形成するコミュニティ。こうなると、われわれヒト科が抱えるジェンダーやセクシュアリティとは一体何なのか、考えさせられる。

無骨な自由人である漁師役のエリック・バナ、少女時代のアビーに扮した新星イルサ・フォグとアリエル・ドノヒューらも好演。浮上するテーマが自然保護なのはもちろんだが、「多様性を守る」という言葉のみ独り歩きさせることなく、人々や生物種の唯一無二の実態を刻み、説得力を行き渡らせるのが、映画のいいところだ。


文=広岡歩 制作=キネマ旬報社
(「キネマ旬報」2023年12月号より転載)



「ブルーバック あの海を見ていた」

【あらすじ】
海洋生物学者のアビーは、母のドラが脳卒中で倒れたと聞き、西オーストラリアの海辺の町に帰郷。そして口がきけなくなったドラを世話しながら、少女時代を回想する。巨大な青い魚“ブルーバック”との出会い、環境活動家だったドラに海の素晴らしさを教わったことなど──。アビーが忘れかけていた大切なものは何か、自らの原点を見つめ直していく。

【STAFF & CAST】
監督・脚本:ロバート・コノリー
出演:ミア・ワシコウスカ、ラダ・ミッチェル、エリック・バナ

配給:エスパース・サロウ
オーストラリア/2022年/102分/区分G

12月29日(金)全国順次公開

公式HPはこちら

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