「ランボー ラスト・ブラッド」への道① シルヴェスター・スタローン主演・脚本インタビュー

6月26日(金)より公開される人気アクション・シリーズ最新作「ランボー ラスト・ブラッド」の連続企画。第1回は、主演・脚本のシルヴェスター・スタローンのインタビューをお届けしよう。

ランボーを人間として、 戦争を戦争として描くこと 

1982年に第1作「ランボー」を発表し、人気アクションスターとしての地位を確立。以来、 同シリーズに主演・脚本として関わり続けてきたシルヴェスター・スタローン(第4作「最後の戦場」は監督も)。前作から約10年、73歳のいぶし銀の肉体を奮い立たせ、再び同役に挑んだ彼が作品に込めた思いとは。記念すべき第1作にまつわる秘話も語ってくれた。 

穏やかになったランボー 

シルヴェスター・スタローンは、「ランボー ラスト・ブラッド」について、そう語る。それは今作の冒頭からも明らかだ。ランボーは、 亡き父が残したアリゾナの家に、昔からの友達マリア、彼女の孫娘ガブリエラと暮らして いる。その“疑似家族”は心地よく、彼は穏 やかで優しくなった。だがある日、ガブリエラは、ずっと連絡が取れなかった実の父の居所がわかったと、勝手にメキシコに戻ってしまう。彼女を待ち受けていたのは、大きな悲劇。ガブリエラを救うため、ランボーもひとり、国境を越えて南に向かう......。 

「以前の彼は、自分以外の誰にも興味を持てない人間だった。猫ですら可愛いとは思わない。 ペットを飼うこともありえない。心は完全に内向き。でも、今の彼は、ガブリエルのことを実の娘のように気にかけている。外の世界は危ないよ、気をつけなさいと、僕自身が僕の娘に対して思うのと同じことを伝えようとする。 だが、その愛する存在は、突然にして奪われてしまった。彼の中にあったものは、全部もぎとられてしまった。そうなった彼はもはや人間ではない。ひたすら原始的な怒りに燃えるだけだ」

その“原始的な怒り”を、スタローンは容赦なく描く。ヴァイオレンスを躊躇しなかった理由について、彼はこう語る。「ハリウッド流のフェイクな恐怖にしたくなかったからさ。本物の警察官が現場で遭遇することは、アクション映画で見るものより、ずっと、ずっと残酷。銃で顔を撃たれた同僚の顔を見たりするんだ。僕は戦いというものがどれほど恐ろしいのかを見せたかった。人がなぜそのトラウマを忘れられないのかを伝えたいんだよ。それが観客にとって辛すぎるかもしれないと認識はしている。でも、『ランボー』を見にくる人なら、覚悟しているのではないかな。たった一発の弾丸で人が死ぬようなシーンがよく映画に出てくるが、実際には9発は必要なんだよ。死ぬまいともがいている相手を殺すのは簡単じゃない。僕は戦争を戦争として描いたまで」 

第1作「ランボー」の"失敗" 

残酷描写のせいで毎回R指定を受けてきている本シリーズ。それに加え、もうひとつ一貫しているのは、毎回上映時間が100分程度と、現在のハリウッド映画の標準からすれば短いことだ。これもスタローンが意図的にやってきたという。なぜそうなったのかは、 第1作「ランボー(82)」 の“失敗”にさかのぼる。

「完成したばかりの1作目は、ひどかった。冗談で言っているんじゃないよ。作ったのは自分なのに、焼き捨てたかったほどなんだから。主人公が自分の国を攻撃する映画で、しかも長すぎた。それで 11社から配給を断られたんだ!だから、『思い切り削って、85分にしてみたらどうか』と思いついたというわけ(※編注:実際の『ランボー』は本篇93分)。 ランボーの話に、説明はそれほどいらない。すぐさま本題に入るほうがいいと」 

それでもまだ、買い手は興味を示さなかったという。流れが変わったのは、最後の手段として、さらに短く、20分に編集したものを 海外のバイヤーらに見せたことだ。

「とにかく誰かに買ってほしくてね。それを編集したのは僕以外の誰かで、いったいどうまとまっているのか、自分でも知らなかった。 でも、その上映が終わった後、場内は大きな 拍手に沸いたんだ。一緒に見ていた僕も、『この映画はいける。成功する』と初めて感じた。 それが、『ランボー』シリーズの誕生物語さ。 これは、そのまま僕のキャリアの話とも言える。僕の人生ではたいていの場合、これはダ メと思ったものが成功し、これはすべてにおいてうまくいったと思うものは、失敗してきているんだよね」 

そんな思い出深いシリーズの最終章を、スタローンは自分でメガホンをとっていない。 監督を務めたのは、メル・ギブソン主演のクライムアクション「キック・オーバー」(11)などで知られる新鋭エイドリアン・グランバーグだ。 

「自分はあいにく別の作品で忙しくて、タイミングが悪かったんだ。でもエイドリアン・ グランバーグは前に手がけた作品からも、今作の監督にふさわしいと思った。実際、彼はすばらしかったよ。仕事熱心で、4作目と見比べても違和感のない映像を作り上げてくれ た。僕自身も、『ロッキー』の2作目で監督を引き継いだ経験がある。あの時は僕も1作目と似たスタイルにしようと気を配ったものさ。エイドリアンはそれをやりつつ、彼ならではのものに仕上げたと思う」 

ロッキー・バルボアと並んで、ジョン・ランボーは、スタローンという俳優を語る時に絶対に欠かせないキャラクターだ。ロッキーはシリーズを終えた後も、彼以外の人間が立ち上げた「クリード」で、また演じることになっている。そんな彼は、ランボーの今後の可能性にも、考えを巡らせることがあるようだ。

「16歳か17歳だった頃のランボーは、どんな若者だったんだろうと、よく想像するんだよね。 彼はきっとスポーツチームのキャプテンで、人柄もよく、学年一の人気者だったのではないだろうか。完璧な青年が、ヴェトナム戦争のせいで変わるんだよ。その部分を語る前日譚を、いつか誰かが作ってくれないものかな」

 

そう聞いてもう動き出した人が、どこかにいるかもしれない。

取材・文=猿渡由紀 

 

「ランボー ラスト・ブラッド」への道 全5回
「ランボー ラスト・ブラッド」への道① シルヴェスター・スタローン主演・脚本インタビュー はこちらから

・「ランボー ラスト・ブラッド」への道② 名台詞とともに振り返る 「ランボー」シリーズのこれまで はこちらから

「ランボー ラスト・ブラッド」への道③ キリスト受難劇としてのランボー はこちらから

「ランボー ラスト・ブラッド」への道④「西部劇」としてのランボー

「ランボー ラスト・ブラッド」への道⑤アメリカの戦争とランボー

 

シルヴェスタ・スタローン Sylvester Stallone
1946年、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。65年、スイスのアメリカン・カレッジで演劇に興味を持ち、帰国後、マイアミ大学演劇科に入学。中退後、ポルノ映画などに出演しながら役者を目指し、73年にハリウッドに移る。3日間で書いた脚本を自らの主演で映画化した76年の「ロッキー」が世界的に大ヒットし、アカデミー賞作品賞を受賞。トップスターの仲間入りを果たす。同作は82年の「ランボー」とともに、スタローン主演の人 気シリーズに。一時コメディや演技派に転向しようとして失敗したが、93年の「クリフハンガー」で復活。10年には「エクスペンダブルズ」を大ヒットさせるなど、いまなおアクション俳優のトップの座に君臨する。 

最新映画カテゴリの最新記事