最後のカード1枚をめくるまで勝敗は分からない。 ポーカーを通じて人生を考える、ラッセル・クロウからのメッセージ「ポーカーフェイス 裏切りのカード」
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- 2024年08月02日
ラッセル・クロウが主演・監督・脚本した話題作「ポーカーフェイス 裏切りのカード」が8月2日にレンタル開始になる。MCU映画で全能の神ゼウスまで演じてみせた名優が監督を務めるのは2014年の「ディバイナー 戦禍に光を求めて」以来8年ぶり。今回の監督作には撮影時、還暦が近づいていたラッセルの人生観、同世代人へのメッセージが込められている。ギャンブル映画、クライムムービーでありながら、ヒューマンドラマでもある――「ポーカーフェイス 裏切りのカード」はそんな映画だ。
少年時代の友情はどこへ。人生を賭けたポーカーゲームが始まる
映画は少年時代の回想から始まる。ジェイク(ラッセル・クロウ)と4人の仲間は幼くしてポーカーで賭けをする間柄。非情な勝敗の結果で対立も生まれたが、彼らをいじめる年上の不良と一丸となって戦うことで固い友情も育んだ。ポーカーは彼らの“絆”なのだ。
それから40数年。ジェイクはポーカーゲームのオンライン化に成功し、巨万の富を得たが、ある失意から森の奥深くに住む老師のもとへリセットの旅に出る。秘薬を与えられ、悟りを得て都会に戻ったジェイクはかつての仲間、ドリュー、ポール、アレックス、マイケルを呼び集め、大金を賭けたポーカー大会を主催した。
久々に集まった、すっかり熟年になった仲間たち。親友のドリューはビジネスパートナーとして悠々自適。ポールは政治家に、アレックスは人気作家に出世した。ポーカーは彼らに洞察力や勝負運を授けたのだ。ただ、アレックスだけが人生の敗北者として酒浸りの日々を送っていた。
彼らはジェイクの所有する豪華な別荘でポーカーを始める。“テキサス・ホールデム”は参加者に2枚の手札を配り、卓の上に公開された5枚のカードと組み合わせて役を作るというルール。大金を賭けた緊張に襲われるメンバー。最初のゲームはジェイクとマイケルの一騎打ちとなった。最後に開かれた運命の一枚は……。
ポーカーは彼らを懐かしい少年時代に引き戻す。勝っても負けてもそれが人生だ。やがて緊張から解かれ、ジョークを言い合い、失敗談で過去の恥をさらけ出す5人。かつての固い友情が蘇ったかに思えたが、その中に裏切り者がいた。
裏切り者に導かれ、ショットガンを携えたギャングがジェイクの財産を狙って急襲。隠し部屋に閉じこもった5人はギャング一味との戦いを決意する。どうやって倒すのか。そして結末は……。
ギャンブル映画? それだけではない監督ラッセル・クロウが隠す切り札
ポーカーは欧米ではもっともポピュラーで庶民的なギャンブルであり、それをテーマにした映画も数多い。スティーブ・マックイーン主演「シンシナティ・キッド」(65年)やポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード主演「スティング」(73年)といった古典的名作から、マット・デイモン主演「ラウンダーズ」(98年)、ダニエル・クレイグの「007/カジノ・ロワイヤル」(06年)など新世代の傑作まで挙げてゆけばきりがない。本作も、その系譜に連なるジャンルといえる。
ただ、ギャンブル映画の第一印象は、見進めるにつれ姿を変えてゆく。
この映画の主役はポーカーではない。ポーカーをしながら参加者それぞれが語りだす苦い過去と、そこからの再生の過程が主役なのだ。一見、人生の勝利者に思える者も一皮むけば借金あり、不倫あり、病気ありと負のカードが必ず手の中にある。そして、ほんの小さな偶然がゲームを逆転させる。その転換が、映画を興味深くコク深いものにする。ポーカーはあくまで人生の比喩だ。
さらに、それだけに留まらない監督ラッセル・クロウの仕掛けがある。終盤、突如として映画はクライムサスペンスへ変化、オーストラリア美術史講義を織り交ぜながら(どんな形で現れるかはお楽しみに)、さらに大きなツイストがあり、カードゲームのように観る者を混乱させる。ラッセル・クロウはその中心で表情を変えず、心の中で観客のとまどいをほくそ笑んでいる。まさにポーカーフェイス。ラッセルの演出手腕が光る。
「人生で最も苦痛な12ヶ月」緊急登板した監督の“苦労(クロウ)”
実はラッセル・クロウがこの作品の監督を引き受けたのは、撮影開始予定のわずか5週間前だったという。クロウ自身の父親が亡くなって1週間、映画のキャストも決まっておらず、コロナ禍のロックダウンで撮影中止の可能性もあった。そこから脚本を新たに書き直し、リアム・ヘムズワースやスティーヴ・バストーニらオーストラリア人俳優を軸にしたキャストを決め、撮影チームを組み立てた。映像はポスト・コロナを意識して、オーストラリア観光への興味を刺激するものになっている。
クロウの言葉によれば、その撮影は「おそらく人生で最も苦痛な12ヶ月」だったという。
しかし映画は完成し、人生の苦楽を改めて考えさせる良作になった。撮影時、クロウの年齢は58歳。そろそろ人生の手仕舞いを考える年齢だ。その意識は映画に色濃く反映されているように思える。
だが人生がポーカーなら、最後のカード1枚がめくられて逆転もありうる。監督はそんなメッセージを伝えたかったのかもしれない。
文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社
「ポーカーフェイス 裏切りのカード」
●8月2日(水)レンタルリリース
●2022年/アメリカ、オーストラリア/本編94分
●監督・脚本・出演:ラッセル・クロウ
●出演:リアム・ヘムズワース、エルサ・バタキ、RZA、エイデン・ヤング
●発売・販売元:アメイジングD.C.
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