『カメ止め』が道を開いた!広がるインディーズ映画の可能性

短篇ながら、北は岩手・盛岡、南は大分・別府まで17館で拡大公開したのが、LGBTをテーマにした『カランコエの花』(39分)だ。短篇映画は新人監督の登竜門だが、劇場公開でここまで広がったのは異例。本作は2017年、LGBT映画の祭典「第26回レインボー・リール東京」のグランプリをはじめ、国内13冠を達成。2018年7月、東京・新宿のK’s cinema で、1日1回の1週間限定公開され、連日満席に。さらに、観客たちがSNSで“カランコエの花の上映を止めるな”と作品の素晴らしさを拡散した。

『カランコエの花』はある地方都市の高校で、突然、LGBTの特別授業が行われたことから、高校生たちが「クラスの中にLGBTがいるのではないか」と騒ぎ、動揺が広がる…というストーリー。主演の今田美桜らキャストはオーディションで選ばれた。夏休み前の数日間、揺れ動く高校生たちの心情を手持ちカメラで捉える。LGBTの問題を当事者の目線で描くのではなく、周囲の戸惑い、潜在的な差別意識を浮き上がらせた点が秀逸。“人を愛する気持ち”に違いはあるのかを深く考えさせる。

メガホンを取ったのはフリーディレクター、中川駿氏。1987年、石川県生まれ。大学卒業後、東京でイベント制作会社に就職。1年半後にフリーのイベント・ディレクターとして独立。展示会、シンポジウムを手がけるうちに映像に興味を持ち、映画学校「ニューシネマワークショップ」クリエーターコースで学んだ。その後、短篇から中篇まで計4作を発表。『time』(2014年)は第12回NHKミニミニ映像大賞 120秒部門グランプリ、尊厳死を扱った初の長篇『尊く厳かな死』(2015年)は新人監督映画祭コンペティション・中編部門 準グランプリを受賞した。

『カメラを止めるな!』との共通点

興収30億円を突破した『カメラを止めるな!』との共通点も多い。(1)国内の映画祭で注目され、インディーズ映画の聖地、K’s cinema で公開。(2)公開中は監督、出演者が連日、舞台挨拶を実施。(3)その熱が観客にも伝播し、SNSでブレーク。(4)映画会社の配給によって拡大公開という流れだ。

製作費は120万円。中川監督は、“観客に届けたい”という一心で、回収は一切考えなかったというが、映画祭の賞金で既に回収できたと言う。「宣伝予算が全くなかった中、作品の内容や趣旨に賛同してくださった方々のご協力で広がりました。LGBT当事者の方からご意見いただくことも多いですし、ストレートの方も賛同してくださった。リピーターも多く、20回観てくださった方もいます。『カメ止め』がインディーズの道を開いてくれました。僕たちは短篇の可能性みたいなものを広げられたらいいなと思っています」と話す。

2018年は『カメ止め』をはじめ、インディーズ映画の新たな可能性が見えた年だった。新たに短篇映画の成功例が生まれたことで、ビジネスチャンスも広がった。短篇映画から続く才能が発掘されることを期待したい。

こちらの記事は『キネマ旬報』3月下旬映画業界決算特別号に掲載。今号では「2018年映画業界総決算」と題して、『キネマ旬報』編集部が総力をあげて贈る特集をおこなった。2018年映画業界の分析や検証、問題提起、そして2019年以降の映画界を見据えた内容となっている。(敬称略)

文=平辻哲也/制作:キネマ旬報社

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