『スター・ウォーズ』日本初公開日記念!その誕生の裏側を河原一久が読み解く【全4回―④】

46年前の1978年6月24日、全米公開から約1年、日本中の映画ファンが待ちに待った「スター・ウォーズ」が日本で初公開(先行上映)された歴史的な日だ。前年の5月に全米公開され、未曾有の大ヒットを記録、その約1年後、日本列島をその熱狂の渦で包み込んだ。その後、映画史に残した足跡、伝説は語るまでもないが、その始まりの前夜にどれだけの物語が存在したのか。
もしかしたら、この伝説はすべて夢となっていたかもしれない──
フランスですでに8万部以上を売上げた大ベストセラー、「ルーカス・ウォーズ」。ジョージ・ルーカスの生い立ちから「スター・ウォーズ」誕生までを描いたこのバンド・デシネ(フランス語圏の漫画)からその裏側を読み解きたい。

 【全4回ー④】

 

ルーカスに影響を与えた(!?)『ヴァレリアンとロールレンヌ』

バンド・デシネのSF金字塔と呼ばれた『ヴァレリアンとロールレンヌ』はどうだろうか。ルーカスが同作から影響を受けたと言及したことはないが、同作の原作者のひとりであるピエール・クリスティンは「スター・ウォーズ」には彼らの作品との共通点を多数見出したと当時認めており、実際、80年代にはフランスの人々は「スター・ウォーズはヴァレリアンをパクったものだ」という認識が支配的だったと語っている。

共著者のジャン=クロード・メジエールは「スター・ウォーズ」に対しては厳しいスタンスだったが、クリスティンの方は「私たちもヴァレリアンを創作するにあたってアイザック・アシモフやレイ・ブラッドベリを参考にした。ルーカスも彼らの本を参考にしただろうから、似てくる部分があるのは当然だろう」として寛容な態度を示している。

実際のところはどうなのだろうか。個人的には『ヴァレリアンとロールレンヌ』の影響があった確率は五分五分くらいではないかと思っている。その理由は「ミレニアム・ファルコンのデザイン」だ。『ヴァレリアンとロールレンヌ』には主人公たちが駆る「イントルーダーXB982」という宇宙船が登場するが、これが「平べったい円形」のデザインで、確かに「ミレニアム・ファルコン」に似ていると言える。

だが、そもそもファルコンのデザインに関しては、当初、コリン・キャントウェルがデザインした初期案があり、ミニチュアも作られていたのだが、これが当時テレビで放映中だったSFドラマ『スペース1999』に登場する宇宙船「イーグル」に似ているということでルーカスが気づいて却下。急遽新デザインを作るように求めた。この時、「平べったい円形のもの」という方向性をルーカスは指示しており、これをジョー・ジョンストンらが現在の形の「ミレニアム・ファルコン」にまとめ上げた。

この時、もしルーカスが『ヴァレリアンとロールレンヌ』を知っていて参考にしたのであれば、そもそも「平べったい円形」などという指示は出していなかったはずだ。だから少なくとも第1作の時点でルーカスはこのコミックを「知らなかった」と推測できるわけだ。ただし、それ以降の『帝国の逆襲』や『ジェダイの帰還』の頃にはルーカスや、少なくともデザインチームの誰かが知っていた可能性はある。それほどこの2つのコンテンツには類似点があるからだ。これが「五分五分では」と考える理由である。


「スター・ウォーズ」登場でさらに広がったSF映画市場

いずれにせよ、多くのSF&ファンタジー作品の中で展開されていた「センス・オブ・ワンダー」の数々をルーカスが換骨奪胎していったことは間違いないだろうし、これがやがて「スター・ウォーズ」として結実することになった。そしてその後はルーカスが生み出した「スター・ウォーズ」が逆に世界中に多大な影響をもたらしていくことになる。

2017年、リュック・ベッソン監督が『ヴァレリアンとロールリンヌ』を映画化した「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」が公開された。画面の隅から隅まで凝りに凝ったこの作品は実にウイットに富んだフランスらしいSF大作で、すべての観客を魅了する美しい美術デザインも含めて、まさに「バンド・デシネ」が生んだ新しい映像作品となっていたが、これも1977年の「スター・ウォーズ」の歴史的成功によって切り開かれたSF映画という市場と、それに続く数々の技術革新がなければ実現できなかっただろう。

また、英語圏以外では「知らない人はいない」とまで言われる『アステリックス』も1999年からジェラール・ドパルデュー主演で実写映画シリーズが作られているが、古代ローマ時代を描いた物語なのに、たびたび「スター・ウォーズ」のギャグが登場するのだが、これも「スター・ウォーズ」の持つ文化的な懐の広さゆえの結果なのだろうと思う。

余談だがこのシリーズはフランス映画界で記録的な製作費をかけて製作され、記録的なヒットを続けてきたのだが、毎回豪華なゲストが出演し、バカバカしいコメディを真面目に演じているのが面白い。第1作「アステリクスとオベリクス」にはカエサルの副官としてイタリア人俳優のロベルト・ベニーニが、第2作「ミッション・クレオパトラ」(2002年)ではモニカ・ベルッチ、第3作「アステリックスと仲間たち オリンピック大奮闘」(2008年)ではカエサル役にアラン・ドロンが登場。

また、戦車競走の場面ではほとんどフェラーリにしか見えないドイツのチームが出場するのだが、戦車を駆るのは元F1王者のミハエル・シューマッハで、チーム監督をなんとフェラーリ時代の監督ジャン・トッドが熱演していて、F1が好きな人には堪らない場面となっている。他にもサッカーのジダンなど世界各国の著名アスリートがカメオ出演している。第4作「アステリックスの冒険〜秘薬を守る戦い」(2012年)にはカトリーヌ・ドヌーヴが女王を演じ、最新作「アステリックスとオベリックス ミドル・キングダム」ではカエサルをヴァンサン・カッセル、クレオパトラをマリオン・コティヤールという顔ぶれになっている。原作は全世界で3億5000万部以上を売り上げたという国民的コンテンツなだけに、これだけの予算とこれだけのキャストを集められるものだと、バンド・デシネの底力を見せつけられた思いである。本書によってスター・ウォーズとバンド・デシネに興味を持った方は、ぜひご覧になってみることをお勧めする。

文=河原一久 制作=キネマ旬報社

 

【書籍名】ルーカス・ウォーズ
【著者名】ロラン・オプマン 作 ルノー・ロッシュ 画 原正人 翻訳 河原一久 監修
【ISBNコード】978-4-87376-491-7
【判型・頁数】A4判/208頁/書籍
【刊行年月】2024年5月

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