【9月のBS松竹東急】映画好きなら見逃せない! 今見てほしいこの3本!! ―― 映画に観る、 知られざる 現代史の3本

「サンダカン八番娼館 望郷」

知られざる歴史の断面にスポットを当てた3作品が登場する。「サンダカン八番娼館 望郷」(74)は、山崎朋子のベストセラーノンフィクションの映画化。原作は明治から大正にかけて、家が貧困なために日本から東南アジアへと売られ、現地で〝からゆきさん〞と呼ばれた娼婦たちの実情に迫ったもの。映画は栗原小巻扮する女性の近代史研究家・圭子が、田中絹代演じる元からゆきさんの老婆サキから、彼女の半生を聞き出すという形になっている。サキの回想によって語られる、人身売買されて見知らぬ国へ行った女性たちの切ない現実を、社会派の熊井啓監督が重厚に映し出した力作だ。田中絹代が人生の年輪を感じさせるサキを見事に演じ、第25回ベルリン国際映画祭では銀熊賞(女優賞)を受賞。国内でもキネマ旬報ベスト・テンの第1位と監督賞、女優賞に輝いた。他にも、スリランカを舞台に名匠・木下惠介監督が様々な男女の愛を描いた「スリランカの愛と別れ」(76)と、野村芳太郎監督がエラリー・クイーンの原作を、舞台を山口県の萩市に移して描いたミステリ「配達されない三通の手紙」(79)という、栗原小巻の70年代の主演作2本が放送される。

 

「上海バンスキング」

「上海バンスキング」(84)は、オンシアター自由劇場の戯曲を、深作欣二監督が松坂慶子や風間杜夫、平田満など、「蒲田行進曲」(82)の主要キャストを再び集めて作った、ジャズのサウンド溢れる群像劇。日中戦争が始まる前年の昭和11年から昭和20年の終戦までの上海を舞台に、戦争によって運命を翻弄されるジャズマンとダンサーを描いている。原作戯曲は昭和11年から16年に上海の共同租界に存在したダンスホール『ブルーバード』をモデルにした、クラブ『セントルイス』の中で物語が展開するが、映画もこのクラブから、登場人物たちが戦争を見つめていく作りになっている。さらに日本軍による中国人の虐殺シーンを入れ込むあたりに監督独自の視点が感じられ、基本は歌と踊りに情熱を燃やす人々のドラマだが、一方では外地から日本の戦争を映した作品でもある。他にもジャズに魅せられた殿様が、ジャム・セッションする中を幕末の動乱が駆け抜けていく、岡本喜八監督の時代劇「ジャズ大名」(86)や、サックス奏者レスター・ヤングをモデルにした人間ドラマ「ラウンド・ミッドナイト」(86)、チャーリー・パーカーの半生を描いた「バード」(88)など、ジャズ映画が登場する。

 

「殺人の追憶」

ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」(03)は1980年代後半、軍事政権下の韓国で少なくとも10人の犠牲者を出した、華城連続殺人事件を基にした刑事ドラマ。容疑者が浮かんでは消えていく事件の謎をソン・ガンホ演じる刑事が追うが、自白の強要、証拠の捏造など、早く事件を終わらせたい当時の警察の体質がシビアに映し出されている。この監督第2作でポン・ジュノは韓国のみならず、世界的にも注目を浴びたが、今回は長篇監督第1作「ほえる犬は噛まない」(00)から「グエムル 漢江の怪物」(06)、「母なる証明」(09)、「スノーピアサー」(13)、米アカデミー賞作品賞に輝いた「パラサイト 半地下の家族」(19)まで、彼の長篇監督作すべてを一挙に放送する。

 

文=金澤誠 制作=キネマ旬報社(「キネマ旬報」2024年9月号より転載)

 

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■9/7[土] 夜9時(再放送9/15[日]昼12時8分)
「サンダカン八番娼館 望郷」
監督:熊井啓
出演:栗原小巻、高橋洋子、田中絹代ほか
© 1974 仕事/東宝

■9/19[木] 夜8時
「上海バンスキング」
監督:深作欣二
出演:松坂慶子、風間杜夫、平田満、宇崎竜童 ほか

© 1984 松竹・テレビ朝日

■9/20[金]夜8時(再放送9/22[日]昼12時)
「殺人の追憶」 
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル ほか
© 2003 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

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