激変する視聴環境、18年ヒット作からみる発見と課題

音楽の力で今冬を席巻した『ボヘミアン・ラプソディ』。Netflixをはじめとする配信による新作公開の増加。映画の共通体験の場としての劇場のあり方が問われる中、ハリウッドの映画人たちはどこへ向かうのか?


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2018年のアメリカ映画を振り返るにあたり、日本でも予想外の大ヒットとなった2本の音楽映画のことから始めないわけにはいかないだろう。1本目は『グレイテスト・ショーマン』(日本公開2月)、そしてもう1本は『ボヘミアン・ラプソディ』(日本公開11月)である。音楽を中心に据えた伝記映画というだけでなく、特に本国アメリカでは公開前、批評家たちからの評価が低く、興行的に失敗することが予想されていたという点も共通している。

そして、もう一つ共通しているのは、特に日本で「応援上映」などと呼ばれる観客参加型の形式が観客動員に拍車をかけたということである。これはアメリカ映画ではないが2017年の年末に公開されて18年に入っても息の長いヒットを続けた『バーフバリ 王の凱旋』にも共通して言える。また日本映画『カメラを止めるな!』の、こちらも予想外の大ヒットも、他の多くの見知らぬ観客たちと感動を共有するという劇場ならではの楽しみが再発見されたことが大ヒットの要因であると言えるだろう。

配信による新作の増加

この現象と対照的なのが、Netflix、Amazon Prime など配信による新作の増加である。コーエン兄弟の「バスターのバラード」、アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』など、劇場公開されていれば当然キネ旬のベスト・テンにも入っていたであろう作品が、ある日突然(という感じで)配信開始となり、自宅でのんびりと(あるいはダウンロードして、どこででも)鑑賞できるのである。

筆者はどちらの作品も心から堪能したのだが、やはりこれは劇場のスクリーンで観たかったよなあ、と思ったのも事実である。

動画配信の浸透は映画館文化にとって脅威であることは間違いないにしても、『ボヘミアン・ラプソディ』、『グレイテスト・ショーマン』によって劇場での鑑賞体験の素晴らしさを再発見、ないし新発見した観客たちをどうやってまた劇場に帰ってこさせ続けるかが、アメリカ映画には限らないが、これからの課題となるだろう。

DVDで手軽に観られる『遊星からの物体X』(1982年)の劇場リバイバルや『恐怖の報酬』(1977年)ディレクターズカットの本邦劇場初公開が成功したことからも、映画館で鑑賞体験を共有するという喜びは、今後も長らく愛され続けると考えたい。

記事の続きは『キネマ旬報』2月下旬ベスト・テン発表号に掲載。今号では『2018年 第92回キネマ旬報ベスト・テン&個人賞』を発表。受賞者のインタビューや2018年ベスト・テンの分析座談会などを掲載している。

文=鬼塚大輔/制作:キネマ旬報社

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