香港と深圳、少女から大人へ──人生の交差点に立つ少女の青春残酷物語

香港と深圳、少女から大人へ──人生の交差点に立つ少女の青春残酷物語

香港と大陸の関係

昨年3月、「THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~」が中国で公開された時、私はちょうど香港国際映画祭に参加するために香港に行った。本作に対する絶賛の声は、対岸の香港まで届いた。近年、中国の青春映画でここまで高く評価された作品はほとんどないので、私は本作の主人公・ペイのように、香港から深圳へCROSSINGした。これは中国生まれ・中国育ちの私にとって、初めての体験でもあった。福田口岸を跨いだ時、Google mapが使えなくなり、YouTube動画も再生不能になり、そしてポケモンGOのポケモンも消えた。

香港は今年、新型コロナウイルスの感染対策に続き、香港国家安全維持法が施行されたことで注目が集まっている。これから香港はどうなっていくのか、もはや誰もわからないだろう。そもそも、香港と大陸の関係はいつも特別だ。その関係は政治的であり、地理的であり、そして人と人もそうなのだ。香港は大陸より遥かに早い段階で経済発展が進み、大陸から見ると、ずっと憧れの大都市である。本作の中でも、香港の状態が丁寧に描かれている。豪華クルーザーでパーティーを開く若者がいる一方、生きるために頑張ってバイトをしている人もいる。成熟した“完成型”の社会だと言えるだろう。

それに対して、対岸の深圳は完全に真逆で、“進行型”だ。深圳は改革開放実施後、常に高いスピードで意気揚々と前進し続けている。そこにいる人々からは、お金に対する欲望、そしてこの世界に対する野心が露骨に見える。だから、たったiPhone一台でも大騒ぎになり、自分は何が欲しいのかもわからず、とにかくお金を稼ぎ、現状から脱皮し、新世界に入りたいという気持ちなのだ。その中で密輸は、一つの手段である。関税の問題などで、以前中国本土では海外より高い商品が多かった。それは、大陸客が日本などに爆買いしにくる理由の一つでもあった。特にiPhoneに関しては、発売も遅く、価格も香港や日本より高かった。そこで、密輸をし、その差額で稼ぐ職業が誕生した。中国の法律では、自己使用以外のスマホを輸入する場合、10%の関税がかけられるが、密輸をする者たちはもちろん払わない。毎日何十万人も通る大陸と香港の出入境検査場では全員にしっかり荷物検査ができるわけではないので、たとえ中国政府が力を入れて厳しく対応しても、密輸する人は未だに多く存在している。

ある少女の小さな青春物語を通し、“今の社会”が見える

本作の主人公であるペイは、香港出身の父と中国大陸出身の母を持つ16歳の高校生。毎日深圳から香港の高校へ通っている。そして、彼女の父は大陸と香港の間を行ったり来たりするトラック運転手で、香港では別の家族を持っている。母は毎日のように麻雀生活に浸り、ペイにはずっと無関心なのだ。だから、ペイはバイト中に、「家はどこですか?」と聞かれても、ただ「遠いところ」と答える。母と一緒に大陸に住んでいるが、家族の温かさはまったく感じられない。香港にいる父とはたまに会っているが、離れて暮らしているので、家族だと言えるかどうか、16歳の女子高校生はわからないだろう。このような複雑なアイデンティティを持っているペイのような若者がiPhoneの密輸に関わることにリアリティを感じた。

「THE CROSSING」には、“跨ぐ”や“交差点”の意味がある。そして、この映画は少女から大人へ跨ぐ成長物語であり、人生の交差点に立っている主人公の青春残酷物語でもある。親友と一緒に日本に旅行に行くために、お金を稼ぎたいペイは、偶然、密輸組織に入った。孤独なペイにとって、それは新しい世界の始まりだった。本作は犯罪サスペンスの要素も多く入っているが、作品の焦点はずっとペイに集中している。日本旅行に必要なお金をとっくに稼いだペイは、それでも密輸に関わることを止めず、さらに業務を拡大した。それは、他人から認められたいという気持ちがあるからだろう。家族や社会に捨てられたペイは、自分の居場所を探し続けている。ハオに認められ、その赤い照明の中で、iPhoneをお互いの身体に巻き合うシーンは、ある意味で近年の中国映画の中でも最高の官能シーンである。何よりペイは、そこから大人になったのだ。

現在、中国政府の厳しい映画検閲制度で、中国映画は真正面から香港について描くことができない。しかし、白雪監督は非常に鋭い切り口で、ある少女の小さな青春物語を通し、“今の社会”が見えるような作品を撮った。ペイはサメを海に返した。彼女は、いつか春が来ることを信じているに違いない。

文=徐昊辰/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報11月下旬号より転載)

筆者プロフィール
徐昊辰(じょ・こうしん)/1988年生まれ、中国・上海出身。映画ジャーナリスト。上海国際映画祭プログラミング・アドバイザー、WEB番組『活弁シネマ倶楽部』の企画・プロデューサーを務める。

THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~

●11月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開
●配給:チームジョイ
●公式HP:https://thecrossing-movie.com/
©Wanda Media Co., Ltd

最新映画カテゴリの最新記事