「ドキュメント・キアロスタミの世界」のストーリー

アッバス・キアロスタミ監督の運転する車で、撮影隊は「そして人生はつづく」のときと同じ高速道路に乗って「友だちのうちはどこ?」の“ジグザグ道”三部作の撮影地に向かう(料金所の係員は「そして人生はつづく」と同じ人物)。一行はまず「友だちのうちはどこ?」のアハマドプール兄弟に会い、キアロスタミ監督が自分たちはいい俳優だったと思うかと訊ねる。少年たちはそろってそんなことはないと答える(キアロスタミ監督によれば映画でアハマド少年が泣くのは宿題のせいではなく、ただ少年を写したポラロイド写真を目の前で破ってみせたからだという)。続いて一行は「オリーブの林をぬけて」のホセイン青年の家でお茶を御馳走になる。監督によればホセインは演技指導の必要もないほど上手かったらしいが、今では役所勤めを免職になって失業中の彼は俳優になる気もなく、自分がそんなに上手かったとも思っていない。彼は結婚して4年になり子供もいるが、妻は映画で恋している夫を見ても別に嫉妬はしないという-「だって映画ですもの」。続いて監督たちはテヘランから400キロ離れた街に「トラベラー」の少年を演じた男を訪ねて映画のテープをプレゼントする。夫婦で夫の子供のころの映画を見る二人は感慨深げだ。彼は自分は最初からキャメラがぜんぜん気にならずに自然に演技ができたから俳優として才能があったのだろうと言う。最後にテヘランの路上でキアロスタミ自身が「クローズ・アップ」についてインタビューを受け、この映画では全員が自分自身を演じながら、誰もが自分を見せないようにしていたと語る。監督が映画を支配するのではなく、映画が作家を支配すること……最後にインタビュアーが質問する。「あなたは本物のアッバス・キアロスタミですか?」「さあね、名前なんて真実であった試しはないからね。」