「アチャコ行状記 親馬鹿天国」のストーリー

大阪郊外の小さな町。駅前に関東煮の屋台を出す中年夫婦市太郎と妻おちか。二人は今では細々ながら幸せに暮していたが、二十年前の悲しい思い出がある。当時、市太郎の病気で療養費を稼ぐためおちかは料理屋へ住込み、そのため可愛い子供を産婆大島に頼んで、天王寺公園で先方の名も聞かずやってしまったのだ。もう、年頃の娘になっている筈。二人はおへその横にあったホクロを頼りに探し廻るが仲々見つからないのだった。たまたま近所のトンカツ屋佐吉が子供を貰ってくれと頼みに来たので二人は承諾。だがその日、隣りの民子が夫須藤を駅へ迎えに行った際、見知らぬ若い女が赤ん坊を預けて行方をくらます。困惑する民子らに、市太郎夫婦は一晩子供を預ろうと申し出、家に連れ帰って鞄を開けると中には手紙。東京のさる娘静江が恋人との間に出来た子供を両親に打明けられず、困って捨子したものと判った。昔と似た子供の境遇に夫婦はずっと世話する気になる。ある日駅長の千島から手続きが必要と言われ、市太郎が怒って帰宅すると須藤夫婦が静江とその両親を連れてやってくる。父親佐々木は娘の不始末を詫びた上、夫婦にさせるから子供を返してくれと頼む。今は仄かな愛情さえ覚える子供だが生みの親に育てられるのが一番幸福。二人は承知したが佐々木の洩した言葉から、静江こそ自分らの娘ではと種々問いただすが、似た境遇でも異人と判る。淋しく泣くおちかを慰さめながら、市太郎は又明日から、ホクロのある娘を探そうと約束した。