「適切な距離」のストーリー

演劇学科に通う大学生の雄司は生まれてからずっと母・和美と二人で暮らしている。二人の間には会話はなく、コミュニケーションを取らなくなって久しい。正月、雄司の元に昔授業で書いた小学生時分の自分からの年賀状が届く。「まだ日記を書いていますか?」という年賀状。それを機に、雄司は再び日記を書き始める。だがある日、雄司は日記にしか書いていない情報を和美が知っているということに気付く。和美に問い詰めるが反応はない。そんな中、雄司もまたひょんなことから和美の日記を発見してしまう。恐る恐る和美の日記を開くと、そこには死産したはずの雄司の弟・礼司と楽しく生活する和美の様子が書かれており、雄司が死産したことになっていた。腹を立てた雄司は、仕返しのために自分の日記に和美を傷つけるための嘘を書き始める。それは、20年前に離婚して消息を絶ったはずの父に会いに行くという嘘の日記だった。父は優しく、離婚の原因は和美のせいだと取れるような日記。コミュニケーションを取らない二人だけの家族の中で、日記の嘘がやがて自分達の理想の家族像を浮かび上がらせ、日記の中で理想の家族が誕生していく……。