エル・スール

えるすーる El Sur
上映日
1985年10月12日

製作国
スペイン フランス

制作年
1983
上映時間
95分

レーティング
一般映画
ジャンル
ドラマ

check解説

父を自殺で失った少女が父との想い出を回想し、やがて旅立つまでを描く。製作はエリアス・ケレヘタ、アデライダ・ガルシア・モラレスの原作を基に「ミツバチのささやき」のビクトル・エリセが監督・脚本。撮影はホセ・ルイス・アルカイネ、美術はアントニオ・ベリソンが担当。出演はオメロ・アントヌッティ、イシアル・ボリャンなど。1985年10月12日より劇場初公開(配給:フランス映画社)。ミニシアターの傑作上映企画『the アートシアター』として、2017年3月25日より再上映(配給:アイ・ヴィー・シー)。
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この作品のレビュー

ユーザーレビュー

  • ミャーノフ大佐

     映画の冒頭、画面の右側が徐々に灯り入ってきて、夜走っている列車の窓から入ってきた光かと思った。ゆっくりと露出を開いてくるとそれが部屋の中だと判る。それでもほとんど部屋の中が判別できない。ゆっくりゆっくり露出をあげていき部屋の中が少しずつ見えてくるようになる。他にもこの手法で撮影しているシーンが多い。舞台はスペイン内戦から10年くらい経ったスペイン北部の町か。
     主人公は少女のエストレーリャで、ウェキおじさんによると8歳の時と、15歳の時を描いている。父親は町の病院で医者をしている。母は反フランコだった為か教職を追われて専業主婦をしている。「ミツバチのささやき」でもそうだが、ちょっと幻想的と言えば大げさだろうか、少女の目を通すと少し不思議な大人との交流や周りの世界を見せてくれる。
     父親がどういう人間かを少女を通して徐々に判ってくる。やっぱりスペイン内戦で反フランコ派で、祖父と訣別してスペインの北部に来ているよう。スペイン内戦に負けたその負い目とか、痛みとかが癒やされておらずそれがちょっとずつ広がっていく。そんな変化を少女の目を通して描いていく。
     「エル・スール」とは訳すと”南”という意味だ。英語のタイトルが「The South」。”The”がついている。これは父親の出身地の事だろう。主人公エストレーリャの初聖体拝領に祖母と父の乳母がやってくる。父親は教会の隅の方で娘の拝領式を見ている。こんなところも反フランコをそれとなく描いている。カトリックはフランコを支持していたんだから。その後、暫くしてエストレーリャにスイス観光で写した祖母と乳母の写真を入れた手紙が送られてきた。南に住む祖父母達はフランコ政権下で何の屈託もなく生きている。しかし、父は”エル・スール”に帰れない。懐かしい故郷には二度と帰れない。
     スペインというとヨーロッパの南で温かいイメージがあり、冬に雪が降るなんて知らなかったんだけど、北部は雪が降るんだ。スペインの絵画なんか、色彩がカラフルで、例えばペドロ・アルモドバルの映画なんかでも明るい。ところがこの映画は、映像自体があまりカラフルとは言えない。それは、もう戻れない”エル・スール”への郷愁であろうか。

「エル・スール」のストーリー

エストレリャ(イシアル・ボリャン)が、父アグスティン(オメロ・アントヌッティ)がもう帰ってこないと予感したのは15歳の時、1957年の秋の朝、枕の下に小さなまるい黒い箱を見つけた時だ。その中には父が愛用していた霊力のふりこがのこされていた。エストレリャが7歳か8歳の頃(ソンソレス・アラングーレン)、一家は“かもめの家”と呼ばれる郊外の一軒家に住むことになった。父は、家の前の道を“国境”と呼び、バイクに乗せてくれる。そして、水脈を発見する奇跡を行なって村人に尊敬される父。そんな父と一緒にいられることだけで嬉しいエストレリャ。母フリア(ロラ・カルドナ)は、かつて教師だったが、内戦後に教職を追われ、家にいて読み書きを教えてくれる。冬の雪の日、南では雪は降らないと母に教えられ、エストレリャは南に想いをはせる。父は南の出身だが、祖父と大喧嘩をして北へ出たのだ。5月になって南の人が訪れてきた。アグスティンの母ドナ・ロサリオ(ジェルメーヌ・モンテロ)と乳母ミラグロス(ラファエラ・アパリシオ)だ。エストレリャの初聖体拝受式の日の朝。教会には父は来てくれないだろうとエストレリャが諦めかけた時、アグスティンが教会の入口にいるのに気がつく。式の後、祝宴で南の曲“エン・エル・ムンド”にのって、エストレリャは父と共に、パソ・ドブレを踊った。その日、陽気に、南に帰ってゆく祖母とミラグロス。やがて、エストレリャは父がイレーネ・リオス(オーロール・クレマン)という女優を想っていたことを知る。父は、映画館でイレーネ主役の「日かげの花」に見入る。内戦の頃に別れたかつての恋人で、本名をラウラという。彼女を未だに思っているのか。アグスティンはラウラに手紙を書くが、その返事は辛らつなものだった。「8年前に別れて以来、未来に生きる決意をし、女優をやめて一年になるのに、なぜ今さら手紙など……」最後の一行がアグスティンの胸を打つ。「今でも夜の来るのが恐い……」。アグスティンが最初の家出をしたのはそんな事があった直後だった。15歳に成長したエストレリャ。孤独に沈みがちな父。クランド・ホテルで食事に誘ってくれた時、それが最後になるとは思っていなかった。隣りのサロンでは、新婚を祝って、あの“エン・エル・ムンド”のメロディーが流れていた…。

「エル・スール」のスタッフ・キャスト

スタッフ
キャスト役名

「エル・スール」のスペック

基本情報
ジャンル ドラマ
製作国 スペイン フランス
製作年 1983
公開年月日 1985年10月12日
上映時間 95分
製作会社 エリアス・ケレヘタ・プロ=クロ・エ・プロ
配給 フランス映画社
レイティング 一般映画
アスペクト比 アメリカンビスタ(1:1.85)
カラー/サイズ カラー/ビスタ
公式サイト http://the-art-theater.com/

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