映画の冒頭、画面の右側が徐々に灯り入ってきて、夜走っている列車の窓から入ってきた光かと思った。ゆっくりと露出を開いてくるとそれが部屋の中だと判る。それでもほとんど部屋の中が判別できない。ゆっくりゆっくり露出をあげていき部屋の中が少しずつ見えてくるようになる。他にもこの手法で撮影しているシーンが多い。舞台はスペイン内戦から10年くらい経ったスペイン北部の町か。
主人公は少女のエストレーリャで、ウェキおじさんによると8歳の時と、15歳の時を描いている。父親は町の病院で医者をしている。母は反フランコだった為か教職を追われて専業主婦をしている。「ミツバチのささやき」でもそうだが、ちょっと幻想的と言えば大げさだろうか、少女の目を通すと少し不思議な大人との交流や周りの世界を見せてくれる。
父親がどういう人間かを少女を通して徐々に判ってくる。やっぱりスペイン内戦で反フランコ派で、祖父と訣別してスペインの北部に来ているよう。スペイン内戦に負けたその負い目とか、痛みとかが癒やされておらずそれがちょっとずつ広がっていく。そんな変化を少女の目を通して描いていく。
「エル・スール」とは訳すと”南”という意味だ。英語のタイトルが「The South」。”The”がついている。これは父親の出身地の事だろう。主人公エストレーリャの初聖体拝領に祖母と父の乳母がやってくる。父親は教会の隅の方で娘の拝領式を見ている。こんなところも反フランコをそれとなく描いている。カトリックはフランコを支持していたんだから。その後、暫くしてエストレーリャにスイス観光で写した祖母と乳母の写真を入れた手紙が送られてきた。南に住む祖父母達はフランコ政権下で何の屈託もなく生きている。しかし、父は”エル・スール”に帰れない。懐かしい故郷には二度と帰れない。
スペインというとヨーロッパの南で温かいイメージがあり、冬に雪が降るなんて知らなかったんだけど、北部は雪が降るんだ。スペインの絵画なんか、色彩がカラフルで、例えばペドロ・アルモドバルの映画なんかでも明るい。ところがこの映画は、映像自体があまりカラフルとは言えない。それは、もう戻れない”エル・スール”への郷愁であろうか。