「エヴァの匂い」のストーリー
雨にけむるヴェニス。一隻のゴンドラが静かに水の上をすべる。そのゴンドラから過ぎゆく景色を眺めているひとりの女。エヴァ(ジャンヌ・モロー)--それがこの女の名前。彼女の住む家はどこともきまっていない。また夫がいるかどうか誰もしらない。ただわかっているのは、幾人もの男がこの女のために身を滅していったということだけ。ティヴィアン・ジョーンズ(スタンリー・ベイカー)もそのひとり。彼は処女作が大当りをとり、一挙に富も名声も獲得した新進作家だった。そして、あとはフランチェスカ(ヴィルナ・リージ)と結婚するばかり。ある雨の降る夜だった。ティヴィアンの別荘にずぶぬれになった男と女が迷いこんできた。エヴァと彼女の客だった。それがティヴィアンとエヴァとの最初の出会いだった。が、その夜以来、ティヴィアンの脳裡にはエヴァの面影がやきついて離れなかった。ある夜、彼はローマのナイト・クラブで黒人の踊りを放心したように眺めているエヴァに会った。その時を契機とし彼はエヴァの肉体におぼれていった。ある週末、彼はエヴァをヴェニスへ誘った。が、彼女は拒絶していた。このことからティヴィアンはフランチェスカとの婚約にふみきった。そのレセプションの席上、エヴァからの電話が鳴った。「ヴェニスへ行きましょう、今すぐ……」。ティヴィアンはすべてを捨てヴェニスへ走った。酒とエヴァとの愛欲の日々。そんな関係におぼれたティヴィアンは口走った。小説は自分が書いたのではないことを……。ティヴィアンはフランチェスカのもとに帰った。二人の結婚式はゴンドラの上で行われた。が、エヴァからまた呪わしい電話がかかってきた。ある夜、エヴァがティヴィアンの別荘へやってきた。そのくせ彼に指一本ふれさせないエヴァだった。その光景をみたフランチェスカは絶望のあまり自殺した。二年たった。いまは乞食同然のティヴィアン。が、彼はいまだにエヴァの面影を求めている。今日もヴェニスは雨にけむり、ゴンドラが漂っている。