監督が三隅研次、脚本が伊藤大輔、つまらないわけがない。
映画のスタートが面白い。狂言回しのように廻り髪結いが眠狂四郎に事件の説明をするところから始まる。新潟から産出される臭水(原油)を精製し一儲けしようとする江戸の油問屋の企み、それと大塩平八郎の残党が江戸で謀反を計画する、この2つの事柄が絡み合いながら話が進んでいく。
眠狂四郎が活躍していた時代背景がハッキリしてきた。大塩平八郎の乱が1837年で越後でも同様の反乱が起きていたようだ。明治維新まで後30年程だ。実際の事件をベースに話を作っているからか、伊藤大輔の脚本が上手いからか、ストーリーがしっくりと落ち着いている。本作ではエロ路線は全くなく、眠狂四郎と大塩平八郎の残党の愛染(天知茂)の対峙と最後の決闘まで面白く見せてくれた。大体、眠狂四郎シリーズにエロ路線なんて必要ない。大体エロなんて観客の下卑な要望を満たすために入れているだけと思っているので、本作の様に純粋に時代劇にしてくれているのは嬉しい。
映画のラスト、愛染が狂四郎に倒された後、懐から竹細工が落ちてくる。これは映画の冒頭で愛染が襲った油問屋の娘と交わした約束の土産の品だ。こんなところにも愛染をただの悪人として描かなかった、重層的な人間像として描いている。
天知茂は、大映の映画に出始めて、だんだんと格上の配役になってきた。ただの素浪人、用心棒から本作では浪人でありながらどことなく品のある人物を演じていた。市川雷蔵の相手役として不足ない。大映は雷蔵がなくなった後、松方弘樹を東映から借りて眠狂四郎シリーズを続けたらしいが、天知茂にやらせたらどうだっただろう。天知のニヒルなところが眠狂四郎のキャラクターに合っていると思うのだが。