「億万長者(1954)」のストーリー
税務署徴税係の館香六は無口な小心者。廿三人の子供を抱えて汚職をしている伝署長からは不成績をどなられ、その娘でアプレの麻子からは軽蔑されている。アルマイト会社社長車は欧米旅行の途中、旅客機がアルプスに衝突して死亡、未亡人山子は十八人も子供がいるから納税はできぬという。失業者贋十二も子沢山で税金なんか念頭にない。この家の二階の間借人鏡すてはニコヨンをしながら原爆の製造に夢中だ。伝署長は会社重役に招待され、芸者花熊が彼を抱きこもうとする。花熊の十三番目の旦那で、やっと小菅から出て来た団海老蔵代議士が復縁を迫ると、「私は十三人の子供を養うため他の旦那をとったから」とにべなく拒絶する。数日後、館は署長から「麻子を見習え」といわれ、二人で贋の家へ徴税に出かける。麻子は贋の長男でニューフェースの門太と、子供を生まない話で意気投合する。無視された館は決然と贋に差押えを通告した。車山子は館を呼んで、半ば脅迫的に一万円を持たせ税金ごまかしの汚職に引入れる。驚いた彼はその金を鏡すてに呉れてやる。館は花熊から「脱税メモを作って発表すれば不正に勝つ」といわれメモ作成にかかる。麻子は門太の子供を孕んであわて出し、館に相談するが彼はメモに心を取られて相手にしない。メモは出来た。所が花熊はそれを脱税者に高く売付けて儲ける計画だった。それを小耳にした館は呆然と街をさ迷う内にメモを落す。鏡すてに館は二人で原爆を造ろうと勧められるが、彼は驚いて逃出す。メモは検察庁に拾われ大問題となった。彼は署長や花熊の制止を振切り、敢然と行監委に証人として立ったが、とたんに口が利けなくなり、身ぶり手ぶりで大童になったが、狂人としてつまみ出された。団海老蔵は自殺し、贋の一家は門太を除いて原爆マグロを食べ一家心中をした。その時二階では鏡すてが原爆第四号の実験にかかった。来合せた館と門太は屍体を置き去りに、反対の方向へ夢中になって逃走した。