戦後、外地から引き上げてきた男と戦中に付き合いのあった女との関係、という話はあの名作成瀬巳喜男の「浮雲」がある。この映画を観ていて「浮雲」を思い出した。もちろん「浮雲」とは比べるべくもない。「浮雲」は監督成瀬巳喜男、出演が森雅之と高嶺秀子。この映画は監督阿部豊、主演が宇津井健に新人の日比野恵子、そして島崎雪子。ちょっと格が違う。調べてみると「浮雲」の製作が1954年から1955年の始めまで、この映画が1955年。でもそれぞれ原作があって「浮雲」が林芙美子、この映画が川口松太郎なので、当時は引き揚げ者を題材とする小説や戯曲が多かったのかもしれない。
それでも拾いものの映画だった。まだ大倉貢に乗っ取られる前だったので、ギリギリ文芸路線映画が撮れたのかな。主人公は宮家の鈴子(日比野恵子)と宮家の農場で働いていた木内(宇津井健)の恋愛、そして引き揚げ船で知り合ったお慶(島崎雪子)(宮家の妾子)との関係。そして戦中は上司で戦後は闇貿易で稼いでいる有本(田崎潤)が絡んで話が進んでいく。
宮家とはまた大きく出たもんだなあ。戦後すぐの原作だからこんな設定に出来たんだろうなあ。で鈴子の母親役が三宅邦子とは、ダジャレ?
戦後のストーリーは鈴子側の話と、木内側の話が並行して進んでいって、途中から絡んできて、ラストこういう終わり方か、と。各人の戦中の後始末の仕方と、そして明日への希望を与えてくれるような終わり方だ。確かにそういう人生のあり方もあるなあ、と教えてもらった。
主演の日比野恵子は新人らしいが、新東宝らしい気の強そうな女性で、それとちょっと背が高すぎるかな。宇津井健は新東宝のエースなんだろうけど、やっぱり弱いなあ。裕次郎にはなれないなあ。新東宝は戦後10数年で潰れたから大スターがいないのが残念だ。
朝子の得度式のシーンは、きちんとリサーチしているのだろう、丁寧に撮られている。