「胡同の理髪師」のストーリー
80年以上のキャリアを誇る現役理髪師のチン爺さん(チン・クイ)は、北京の胡同の古い家にひとりで暮らしている。窓から朝日の差し込む6時に起きて、入れ歯をはめ、毎日5分遅れるゼンマイ時計を直し、鏡の前で白髪にクシを入れるのが日課である。今朝はその時計を修理に出すために時計店へ行くと、店主は「動くうちは毎日直せばいい」とにべも無い。この態度に呆れたチン爺さんは、黙って店を出てしまった。顔から耳、襟首、鼻毛まで処理する鮮やかなカミソリ捌きで常連客からの信頼を得ているチン爺さんは、三輪自転車で出張サービスを行っている。ベッドにほぼ寝たきりだった馴染み客も、チン爺さんの調髪と顔剃りの技に心から感謝を寄せる。テレビばかり見ているミー老人(ワン・シャン)には、頭の体操になるからと麻雀を薦めるチン爺さん。そんな中、チン爺さんが店を構える地区にも再開発の波が押し寄せる。役人が来ては測量の末、取り壊しのマークを家々に記していった。「実際に壊される頃には私は火葬場の煙になっている」と息子に語るチン爺さん。胡同住まいで寝たきりの顧客、チャオ老人(ワン・ホンタオ)には世話を焼いてくれる隣人がいた。郊外に住む息子は滅多に顔を出さないので、自分が亡くなったら家を隣人に譲るとチャオ老人は言う。そんな死を意識したチャオ老人に、チン爺さんは指圧を施すのだった。その後、ミー老人が孤独死を遂げ、それをチン爺さんが発見。ミー老人の飼っていた黒猫を連れて帰り、世話をするチン爺さんの心に“死”がよぎる。チャオ老人は息子夫婦に強引に引き取られてまもなく死を迎えた。チン爺さんはやがて来る日に備えて、黙々と準備を始めるのだった……。