ぼくが生きてる、ふたつの世界

ぼくがいきてるふたつのせかい
上映日
2024年9月20日

製作国
日本

制作年
2024
上映時間
105分

レーティング
一般映画
ジャンル
ドラマ

check解説

五十嵐大の自伝的エッセイを呉美保が映画化したヒューマンドラマ。耳のきこえない両親の下で育った五十嵐大。幼い頃から日常的に母の“通訳”をしてきたが、次第に周りから特別視されることに苛立つようになり、20歳になった大は、逃げるように東京へ……。主演は「キングダム 大将軍の帰還」の吉沢亮、主人公の両親役には、ともにろう者俳優として活躍する忍足亜希子、今井彰人が起用されている。
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この作品のレビュー

映画専門家レビュー

  • 文筆家
    和泉萌香
    赤ん坊を世話する若い母を見つめた光景や、学校で手話を友人に見せてみせる少年の顔な... もっと見る
  • フランス文学者
    谷昌親
    自身もコーダである五十嵐大の自伝的エッセイの映画化である。当然ながら、宮城県の小... もっと見る
  • 映画評論家
    吉田広明
    両親が「普通」ではないとの気づきから、色眼鏡で見られることへの反発、コーダとして... もっと見る

ユーザーレビュー

  • luna33

    予告編の吉沢亮君が無性に気になり、鑑賞する事に。

    物語としては普遍的な親子の愛情物語なのだが、構成に一切無駄がなく過剰な演出もせず、でも描く所はしっかり描くという呉美保監督の手腕がはっきり見て取れる作品だったように思う。息子の誕生から始まり、前半部分では息子の成長と共にろうあ者の日常生活で生じる不便や困難、危険などが描かれ、さらに息子(吉沢亮)のコーダとしての葛藤や苛立ちもリアルに伝わってくる。この辺のさりげない自然な見せ方が実に上手く、しかも本当に無駄がない。最小限の表現で最大限の効果を発揮している。呉美保作品を観るのは初めてなのだが、前半だけで「この監督すごいかも」と思わずにはいられなかった。ろうあ者の日常生活において起こる様々な出来事はあらゆる困難や不安に満ちており、それらの多くが彼らにとってはあるある話なのだろうが、僕にとっては驚きの連続だった。

    三浦友和に似てる似てないのバカ話、カレーの隠し味に味噌を使ってボロクソ言われる、パチンコ屋でどの台が出るか聞いてみたりする。まさにどうでもいいような「会話」を、彼らだって僕らと同じように日常的にしている事にすら僕は気付かずに今まで生きてきた。そんな自分を恥ずかしく思うが、それと同時に僕は基本的に「聞こえる世界」の住民であり、だから「聞こえない世界」というものを実は何ひとつ分かってない、という現実を思い知らされるのだ。最初は「ふたつの世界」って何だろう?と思っていたのだが、上映が始まってすぐに「なるほど、そういう事か」となる。

    登場人物はみな素晴らしい。母は息子の全てを受け止め、信じ、寄り添い続ける。補聴器を20万で買い、ろくに会話出来てないにも関わらず「これで大ちゃんの声が聞ける」と嬉しそうに言う。それを聞いて泣かずにいられるかっつーの。父は地元で働くと言う息子に「東京へ行け」と背中を押す。たったひと言だが、父の思いがしっかり込められている。またフルーツパーラーのエピソードだけでも両親がどう生きて来たかをしっかり想像させてくれる。

    じいちゃんとばあちゃんも素晴らしい。荒くれ者のじいちゃんなりに孫に何かを伝えているし、ばあちゃんは大にとって家庭内で貴重な「話し相手」だったわけだ。彼らの果たした役割(家庭としても映画的にも)は実に大きいと思う。また大の成長する姿だけでなく、彼らが年老いて行く姿を通じて、家族の「時間の流れ」というものをはっきり感じさせてくれた。2時間に満たない尺でこれだけ深みのある物語を作り上げた呉美保監督には本当に驚かされる。

    また上京してから知り合う河合(ユースケ・サンタマリア)も非常に印象深かった。大(吉沢亮)の採用を決めるくだりも面白かったし、大がライターと喧嘩した後に河合が「大はどこでも生きていけそうだな」と笑いかける。それまで「何者」でもなかった大が東京に来てしっかり成長している様(さま)を河合の何気ない言葉が的確に表現しているように感じ、非常に深く刺さる言葉だと思った。そして偉そうな事言ってると思ったらタモリの言葉を丸パクリだったり、しまいには結局飛んでしまうという掴みどころのないこの男は、実は大の成長において(この作品においても)かなり重要な立ち位置だったのではないかと個人的には感じた。

    そして最後。
    これはもう完全にやられた。駅のホームで母からの「手話で話してくれてありがとう」という言葉に、不意を突かれた大は思わず泣き崩れる。そこでまさかの「無音」という演出かいっ!これは見事としか言いようがない。この静寂の瞬間、僕にはふたつの世界が「ひとつ」になったような、たまらなく愛おしい時間に思えた。もう本当にマジでやられた。母にとってはたわいもないひと言でも、この言葉がその後の彼を支え続けたんじゃないかと思うし、こういう小さな出来事ってきっと誰の人生にもあるはずなのだ。だから大のくしゃくしゃの泣き顔に、誰もがどこかで自分の人生と重ね合わせたのではないだろうか。そして大の心を表現してるかのように真っ暗闇の奥から微かな光が差し、大きくなりながら眩いトンネルの出口へと向かっていくラスト。もうただただ号泣です。最後に流れる歌(手紙の歌詞)も良かった。

    やはり予告編で感じた直感は間違っていなかった。吉沢亮君の表情がとにかく素晴らしい。かつて「青くて痛くて脆い」で闇深い青年を演じて非常に良かったのだが、今回はさらに更新してくれた。ちょっと大げさに言えば、これで主演男優賞とか獲れないかなと本気で思ってしまう。この作品はシンプルなのに奥行きがある。基本はろうあ者のお話なのに、最後はそんなの関係ないと思えるほどの親子の物語であり、一人の青年の物語なのだ。

    この作品は多くの人に強くお勧めしたい。

    ※追記
    終盤スーツを買いに親子で洋服の青山へ行っていたが、さりげなく三浦友和ネタを回収していた事にあとで気付いた。なぜ三浦友和?と思っていたのだがそういう事かと感心した。

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」のストーリー

宮城県の小さな港町で、耳のきこえない両親の下で愛されて育った五十嵐大(吉沢亮)。幼い頃から母(忍足亜希子)の“通訳”をすることも“ふつう”の楽しい日常だった。だが次第に、周りから特別視されることに戸惑い、苛立つようになり、母の明るささえ疎ましくなる。心を持て余したまま20歳になった大は、逃げるように東京へ旅立つが……。

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」の映像

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」の写真

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」のスタッフ・キャスト

スタッフ
キャスト役名

「ぼくが生きてる、ふたつの世界」のスペック

基本情報
ジャンル ドラマ
製作国 日本
製作年 2024
公開年月日 2024年9月20日
上映時間 105分
製作会社 「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会(ワンダーラボラトリー=博報堂DYミュージック&ピクチャーズ=ギャガ=JR西日本コミュニケーションズ=アイ・ピー・アイ=アミューズ=河北新報社=東日本放送=シネマとうほく)
配給 ギャガ
レイティング 一般映画
アスペクト比 シネマ・スコープ(1:2.35)
カラー/サイズ カラー/シネスコ
音量 5.1ch
公式サイト https://gaga.ne.jp/FutatsunoSekai/
コピーライト (C)五十嵐大/幻冬舎 (C)2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会