アイミタガイの映画専門家レビュー一覧
-
文筆家
和泉萌香
「川を渡る電車」がひとつのキーワードであり、近鉄電車も全面協力とのことだが、その肝心の穏やかで美しいロケーションを活かしたダイナミズムが感じられず、同じ土地に流れる大きな時間も過去のシーンが時折挿入されるばかりでこぢんまりした箱庭のよう。殺伐としたニュースばかりの現代において「人に親切であること」は最も重んずるべき行動の一つと思うが、全員が似たような方向を向いた、見事にやさしくいい人たちしか登場しない世界で描かれても、その嘘くささが悪手になる。
-
フランス文学者
谷昌親
善い人ばかりが出てくる小説は嘘くさいと思ってきたが、いまは信じたい、と作中人物のひとりが述べる。実際、この映画には善人ばかりが出てくるのだし、その善人たちが偶然の作用でつながっていく美しい物語となっている。人生に希望を抱かせてくれる一方で、きちんとした人物造形と手堅い演出が印象的な映画でもある。だがそうしたすべての根源にひとりの人間の死があることを、この映画は本当に突き詰めているのだろうか。きれいなベールでくるむことになってはいないだろうか。
-
映画評論家
吉田広明
ウェルメイドな人情群像劇。知った同士が助け合うのではなく、知らない人にどこかで助けられていたことにそれぞれが気づく。各人物を繋いでいる不在の存在を中心にまるでスライドパズルのように全体像が動き、最後に完成する。不在が現存を動かすという機制は、当初の監督の死去に伴い、現監督が引き継いだという製作過程にも表れていて、その形式内容の一致に驚く。エンドタイトルで、主演の黒木が荒木一郎のTVドラマ主題歌を歌う選択にもグッと来た。
1 -
3件表示/全3件