正体の映画専門家レビュー一覧
正体
染井為人による同名小説を「ヴィレッジ」の藤井道人監督、横浜流星主演で映画化。殺人事件の容疑者として逮捕された鏑木が脱走した。又貫刑事は、潜伏し逃走を続ける鏑木と各地で出会った沙耶香らを取り調べるが、それぞれ出会った鏑木はまったく別人の姿であった。共演は「ハケンアニメ!」の吉岡里帆、「Gメン」の森本慎太郎、「山女」の山田杏奈、「はるヲうるひと」の山田孝之。
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ライター、編集
岡本敦史
最初は豪華キャストとシリアスな語り口に目を奪われるが、徐々にリアリティのない展開が目立ち、鼻白む。冤罪というテーマは、袴田巖氏の無罪確定のおかげでまさにアクチュアルな題材のはずだが、いまどき「あの人がそんなことするはずない」「信じてるから」といった人情劇に終始するのは古風に過ぎる。物語の核となる冤罪の形成過程もさすがに甘い。韓国映画を意識したような映像演出もあるが、力技に頼らず確固たる作品理解で「最適な語り口」を見出す本質までは模倣できていない。
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映画評論家
北川れい子
緩急のある手際のいい演出につい身を乗りだす。がいくら娯楽サスペンスという枠の中での話であり設定だと分かっていても、主人公の扱いの乱暴さにはさすがにオイオイ!日本の警察が犯人をでっち上げることは今さら珍しくはないが、一家3人殺しの容疑で逮捕された主人公は、そのままズルズル死刑囚に。その彼が逃亡しての1年間で、TPOに合わせた変身はまさにプロ級、演じる横浜流星、目立たず、騒がず、黙々と、髪型や目つきまで変えて映画を引っ張っている。でもやっぱり乱暴な印象は拭えない。
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映画評論家
吉田伊知郎
原作未読で予備知識なく目にしたので、別々の俳優が同一人物を演じていると信じ込んでしまった。横浜流星の見事な演技の変化は、顔の骨格まで別人に錯覚させてしまう。袴田さんの無罪や、八田與一の逃亡ともリンクするタイミングの公開だけに、現実を上回る虚構を見せて欲しかったが、古典的な“逃亡者もの”に収まった感。前半は犯人情報の提示がTVを通してばかりなのも単調。不利な証言をする重要目撃者の女性や、痴漢冤罪事件など、女が男を陥れるという構図の強調が気にかかる。
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