誰よりもつよく抱きしめての映画専門家レビュー一覧
誰よりもつよく抱きしめて
新堂冬樹の同名小説を「サイレントラブ」の内田英治監督が映画化。良城は強迫性障害による潔癖症を患い、同棲する恋人・月菜に触れることもできない。ようやく治療を決意した彼は、合同カウンセリングで初めて同じ症状を持つ千春と出会い、距離を縮めていく。出演は、ドラマ『虎に翼』の三山凌輝、「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」の久保史緒里、「忘れ雪」のファン・チャンソン。
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文筆家
和泉萌香
原作では主人公月菜が出会う青年は同性愛者とのことだが、本作では「人のことを愛せない青年」となっており、そのセクシャリティについても曖昧で、ただただ彼女にちょっかいをかけるキャラクターのような薄っぺらさ。タイトルのような情動もなく、ティーン向け少女漫画にもないだろうと突っ込みたくなるようなお別れシーンやら、終盤にて三山凌輝演じる彼によるある行為での「ドラマティック」な演出にも閉口するが、主人公の成長と彼女のさっぱりした女友だちが救い。
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フランス文学者
谷昌親
人間関係をしっかり描こうとしていることはそれなりに伝わってくるし、海辺のロケーションも印象的で、溝ができつつある男女関係を壁をはさんで左右にいる人物の構図で見せるといった映画ならではの工夫も悪くはない。だが、原作から引き継いだ絵本(原作では童話だが)と強迫性障害が中途半端に浮き彫りになり、純愛を強調するための道具に見えてしまうのが致命的だ。そもそも、触れることができない辛さをテーマにするなら、触れることの大事さを丁寧に描くべきではないだろうか。
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映画評論家
吉田広明
難病ですれ違い、引き裂かれる恋人たちなんて一昔前にはTVメロドラマで散々あったような気がするが、さまざまな障害、マイノリティに関する映画が製作される昨今、本作の主人公が悩む強迫性の接触障害に関する理解も深く、繊細にアップデートされているのかと思いきや、その扱いは(恋人に触れえないという)恋愛の障壁としての役割に過ぎない。つまり障害は単なる「ためにする」設定であり、これは障害の搾取と言われても仕方があるまい。昨年の収穫より一歩も二歩も後退した映画。
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