ファーストキス 1ST KISSの映画専門家レビュー一覧

ファーストキス 1ST KISS

「花束みたいな恋をした」「怪物」の脚本家・坂元裕二と、「ラストマイル」の監督・塚原あゆ子が初タッグを組み、松たか子と松村北斗を主演に迎えて贈るラブストーリー。結婚して15年目に、長く不仲だった夫を事故で亡くしたカンナは、タイムトラベルする術を身につける。過去に戻り、若き日の夫と再会した彼女は、もう一度彼と恋に落ちる。恋とは、愛とは、共に生きるとは……人生において誰もが直面する深くシンプルな疑問。その問いが、見る者の心を揺さぶる。
  • ライター、編集

    岡本敦史

    軽快かつウイットに富んだセリフを、リズミカルな場面転換で積み重ねていくドライブ感に舌を巻く(それも冒頭からかなり長丁場にわたって)。さすが当代一の人気脚本家&監督の仕事。ハリウッドの女性主導ロマコメを彷彿させ、これは海外でも勝負できるのでは?と本気で思った。女優・松たか子の魅力を誰でも再認識できるスター映画としても秀逸。ただ、近年の風潮に倣って「凝っても仕方ない」部分は潔くすっ飛ばしがちで、タイムスリップ周りの工夫がもう少し心に残ってもよかった。

  • 映画評論家

    北川れい子

    夫と出会う15年前にタイムトラベルする松たか子の、どこか遊び気分の演技がいい感じ。惰性で夫婦生活を続けていた現実の夫は、人助けで命を落としたばかり。15年前の夫は好青年で、彼女はもとの年齢のまま。それにしても事故死とかタイムトラベルなど、ありがちな設定を使って、まるで精緻な細工もののようなラブストーリーに仕上げる坂元裕二の脚本に感心する。塚原あゆ子監督の緑の空間をたっぷり映しこんだ映像演出も心地よい。細部に神宿るという映画作りの鉄則に忠実な佳作だ。

  • 映画評論家

    吉田伊知郎

    脚本や監督に期するものがあるとはいえ、この題名と設定で大丈夫かいなと油断していると、ぐいぐい引き込まれてしまう。同年同日同時刻にしか移動できない縛りを巧みに用いて、細田版「時かけ」のタイムリープ連打よろしく、ささいな失敗のリカバリーを繰り返しながら、大きな失敗の挽回を目指す。まるで「四月物語」の頃の雰囲気の松が登場することに驚くが、今を貶めて描くことなく、老いも若きも、生も死も肯定的に描く作劇が見事。巨大な虚構を成立させる細部の充実に目を見張る。

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