ゴンドラ(2023)の映画専門家レビュー一覧
ゴンドラ(2023)
「ツバル TUVALU」「ブラ!ブラ!ブラ!胸いっぱいの愛を」などの<セリフなし映画>のファイト・ヘルマー監督が贈る、山間を行き交う二つのゴンドラが世界をすこしだけ幸福にする物語。ゴンドラに乗務する二人の女性イヴァとニノの機知とユーモアが、ゴンドラを便利な乗り物だけではない「夢の空間」へと変えていく。2023年の東京国際映画祭でワールド・プレミアされ、「着替えするゴンドラがすごい」「どんなに落ち込んでる人が見ても笑顔になる」と観客の人気を集めた。美しいジョージアの風景の中で行ったり来たりするゴンドラ。世界のどこかに行けるわけではないけれど想像力があればどこへでも行ける。そんなメッセージが込められたヒューマン・ムーヴィー。
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文筆業
奈々村久生
空の上ですれ違う二台の赤いゴンドラ。交わる視線。交互に訪れる停留所で指し合うチェスの対戦。 二人の女性乗務員の交流がセリフなしで語られる、一目見ればそれとわかるスタイルは「ツバル TUVALU」などのファイト・ヘルマー監督のもの。更衣室での目撃カットから漂うそこはかとなく官能的な匂い。山あいに生きる人々の生活音が音楽を奏でるミラクル。シンプルでミニマムなコミュニケーションの限りない豊かさ。夜の闇に浮かぶライトアップされた車体が彩る密会は涙が出るほど美しい。
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アダルトビデオ監督
二村ヒトシ
セリフがなくなるだけで我々観客はこんなに目を使うようになり、こんなに画面の情報量が増すものなのか。ちょっと衝撃だった。すべての脚本家と監督は(まあアニメだと商業的に難しいだろうが)台本をつくりながらセリフというものは本当に必要なのか、セリフがなかったらその物語は成立しないのか、一度は真剣に考えてみるべきなんじゃないか。セリフがないと恋愛というものが成立していく過程がゆっくりゆっくり感じられる。ただ寓話なだけに「悪役」は割をくってて可哀想だな、とは思った。
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映画評論家
真魚八重子
山の谷間を交差する二つのゴンドラ。それぞれに乗る二人の女性添乗員は、すれ違うとき互いに悪戯をして楽しむ。全体に他愛もないが、その様々な意匠の凝らし方が、可愛らしい企みで微笑ましい。彼女らの恋が距離を縮めるにつれて、地上も巻き込んだ祝祭となっていく。男性同士の恋愛だと、こんなに屈託のない作品にはならず現実の苦が滲む。幸福感だけに満ちた男性同士の愛の映画の不在と、男性監督にとって女性同士の恋愛は、結局ファンタジーであることの露呈を同時に感じる。
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