大きな玉ねぎの下での映画専門家レビュー一覧
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ライター、編集
岡本敦史
ふたつの時代を行き来する作劇のアイデアは悪くないが、その先の展開に意外性が感じられず、物足りない。セリフも全体的に面白味がなく、等身大と凡庸さをゴッチャにしている印象。ゆえに、ラブストーリーとしても、ロマコメとしても弱い。社会人になった大人目線で「若さゆえの不器用さ」を懐かしむようなキャラクター性を導入した結果、「がらんどう、かつ嫌な奴」という人物造形になってしまった主人公にも心惹かれず。若い出演陣には才能も魅力もあると思うので、ぜんぶ大人が悪い。
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映画評論家
北川れい子
40年前にリリースされた“爆風スランプ”のヒット曲の、いまではほほえましいアナログの歌詞を、令和の現代に復活させた2組のラブストーリーだが、それなりに新鮮だ。髙橋泉の脚本は冒頭の居酒屋でのアクシデントから快調に走り出し、同じカフェバーで、昼と夜、すれ違いで働く彼女と彼の話に繋げていく。2人の間には仕事用の業務ノート。ラジオを通して描かれる、まんま歌詞をなぞった文通カップルのエピソードもくすぐったい。俳優たちの演技のバランスに無理がない、素直に楽しめる作品である。
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映画評論家
吉田伊知郎
古典的な〈映画女優〉の雰囲気を持つ桜田ひよりの贔屓筋としては、冒頭の救命措置に勤しむ姿から、看護学生として現場に立ちつつ、カフェでバイトに励む姿へ、彼女にカメラを向ければ映画になることを再確認する。さりげなく手足を動かす姿がなぜか際立つ。「交換ウソ日記」に続いて、今度は連絡ノートにまで振り回されるが、そんな虚構を成立させる稀有な存在である。昭和末期と現代の二部構成の配分が絶妙とは言い難く、武道館のクライマックスが重なり合う作劇の難しさを感じる。
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