ザ・ルーム・ネクスト・ドアの映画専門家レビュー一覧

ザ・ルーム・ネクスト・ドア

ヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝いたペドロ・アルモドバルのヒューマンドラマ。重い病に侵され、安楽死を望むマーサは、再会した親友イングリッドに、隣の部屋で最期の時を共に過ごしてほしいと懇願。こうして、マーサとイングリッドの短い数日間が始まる。出演は「フィクサー」のティルダ・スウィントン、「アリスのままで」のジュリアン・ムーア。2024年10月28日より開催の第37回東京国際映画祭(2024)企画「ワールド・フォーカス 第21回ラテンビート映画祭 IN TIFF」にて上映。
  • 俳優

    小川あん

    大女優二人が戦争記者、小説家という役柄を通じて、それぞれの経験に裏打ちされた人生観・死生観を語り合う。死 (または生) への強い欲望を描くことを、エモーショナルにせず、ほぼ語りのような会話と束の間の沈黙で表現する。そして顕わになる、若かりし頃の二人の仕事への気概、誇りが説得力を与える。描写まで浮かぶ。わたしも歳を重ねて、この境地までいきたいと俳優人生と向き合わなければいけない。アルモドバルが70代にして初の英語劇ということで、想像を超えた静かな傑作だった。

  • 翻訳者、映画批評

    篠儀直子

    アルモドバルの色彩豊かな画面で語られる、死についての思索。ジョイス/ヒューストンの「ザ・デッド」への美しい言及があり、死を間近に見据えた人間の運命が、死を目前にしているかもしれない地球の運命と、不意に連結される瞬間もあり。とはいえ最大の見どころは、舞台劇のように会話が続く作品世界を隙なく支える、ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアの安定感と凄み。娘ミシェルとの関係が良好であったならマーサの選択は変わっていたのかもしれないと思うと、何とも言えない気持ちに。

  • 編集者/東北芸術工科大学教授

    菅付雅信

    アルモドバル監督初の英語作でT・スウィントンとJ・ムーアという名女優の共演。病に侵され安楽死を望む女性とその親友で最後を見届けようとする女性の数日間を描く。名作になりそうな材料が揃いながらも、アルモドバル流の色彩美学が強調され、インテリア雑誌のファッション・シュートのような場面が連続する表層性。彼女らの元恋人で悲観主義のインテリ男(ジョン・タトゥーロ)が今の世界への気障な嘆きを語るが、映画全体が上流階級の優雅で軽薄な悲観主義に終わっており、その価値観を肯定し難い。

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