ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうたの映画専門家レビュー一覧
ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた
「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」のビル・ポーラッド監督がオスカー俳優ケイシー・アフレックと組み、実在の兄弟デュオ、ドニー&ジョー・エマーソンの実話を映画化した人間ドラマ。10代の頃に制作した売れないアルバムが約30年の時を経て人気を博していることを知ったドニーは、目を背けてきた過去や感情と向き合うことになる。主人公のドニーをケイシー・アフレックが、ドニーの妻ナンシーを「(500)日のサマー」のズーイー・デシャネルが、青年期のドニーを「ワンダー 君は太陽」や「クワイエット・プレイス」シリーズなど子供時代から話題作に出演するノア・ジュプが演じる。2022年第79回ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門上映作品。
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俳優
小川あん
70年代にアメリカで「ドリーミン・ワイルド」というアルバムを自主制作した兄弟と仲間を描いた、実話に基づく音楽ドラマ。過去と現在を交錯させながら、名声と家庭、成功と失敗のはざまで揺れる兄弟や家族の絆を描く。良かったのが、主人公のドンは愛に溢れて育った環境だったこと。親は夢を全力で応援し、兄は弟を支えるために側にいる。だからこそのプレッシャーと苦しみ。地味でありながらも、ケイシー・アフレックの哀愁漂う芝居は感動ものだ。ケイシーは田舎町がよく似合う!
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翻訳者、映画批評
篠儀直子
30年前のアルバムが発掘され大バズりとなれば手放しで喜びそうなものだが、そうはいかない事情が主人公にはある。10代の自分との対峙、兄との立場の差など全部映画的に表現されていたのに、クライマックスで台詞で語りなおされてしまうのは残念な気もしたが、場面の状況的に仕方ないか。それでも語り口に「アメリカ映画」としか言いようのないしみじみとしたよさがある。「サバービコン」以来何となく動向を気にしているノア・ジュプが、歌声も聴かせ、健在ぶりを披露しているのが個人的にうれしい。
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編集者/東北芸術工科大学教授
菅付雅信
70年代にデビューしたもののまったく世間から評価されなかった兄弟デュオが30年後にコレクターから再評価され、再発と記念ライブが決まる。しかし、それは兄弟にとって過去と深く向き合うことだった。「夢追い人」であるデュオの弟とそれを支える父、諦めつつある兄との確執や和解が、芳醇な感情のタペストリーのように描かれる。最後の時代を超えたライブの描写が素晴らしく、商業的な成功よりも自らの表現や人間関係の成熟を選んだ姿勢にポスト資本主義な豊かさを感じる。
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