犬と戦争 ウクライナで私が見たことの映画専門家レビュー一覧

犬と戦争 ウクライナで私が見たこと

戦禍のウクライナで動物たちの命を救おうと奮闘する人々を追ったドキュメンタリー。「犬に名前をつける日」の山田あかね監督が、約3年にわたりウクライナへ通って取材した。戦場で生きる犬たちの様子、そして戦場で《戦うこと》ではなく《救うこと》を選んだ人々に迫る。ナレーションは自身も保護犬と暮らし、猟師として日々命の現場に立つ東出昌大が務めた。
  • 文筆家

    和泉萌香

    トルコが野良猫と共生する国というのは知っていたが、ウクライナでの野良犬の環境をはじめ、動物愛護の事情にまず驚いた。冒頭のシェルターや終盤の小児病棟の悲劇、インタビュイーたちそれぞれの悲痛な言葉、人間性の?奪がおこなわれている世界で翻弄されるすべての命の姿と、間違いなく現在進行形で起こっている恐ろしい戦争の記録だが、どこかきりっとした子、おっとりした子、抱えられた小さな子たちと犬、猫たちのシーンが長いのが魅力的で、魅力的がゆえに胸を掻きむしられる。

  • フランス文学者

    谷昌親

    ロシアがウクライナに侵攻してから、三度にわたりウクライナに入国して撮影を繰り返した行動力と執念が作品に結実している。たしかに、この企画を断ったテレビ局のように、まずは人命救助のテーマを求めるのはいたしかたない面もあるが、山田あかね監督がこの映画をとおして突きつけた、命に優劣はつけられないというテーゼを受けつけなくなるのが戦争というものでもあるだろう。戦時下で見捨てられる犬の命と、その犬の存在に救われる人間の心をとおして、戦争に新たな光が当てられる。

  • 映画評論家

    吉田広明

    戦争、震災の緊急事態にあっては人命優先というのは確かに危機のリアルではあるのだろうし、本作で取り上げられているロシア占領下でむざむざ犬たちを見殺しにせざるを得なかった保護施設などを見るとそれも理解できないではない。しかしそれでも人命優先で犬猫は喫緊の話題ではないと本企画を却下したTV局の姿勢はその危機のリアリズムそのもので、これは、戦時では犠牲にしても仕方がない命があるというそんなマッチョな姿勢に対する、小さな命からのささやかだが確かな抵抗だ。

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