愛を耕すひとの映画専門家レビュー一覧

愛を耕すひと

「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」のニコライ・アーセル監督とマッツ・ミケルセンが再び組んだ、18世紀デンマークを舞台にした史実に基づくドラマ。荒野の開拓に取り組むケーレン大尉は、過酷な試練にさらされながら、夫を失った女性や捨てられた少女と心を通わせていく。イダ・ジェッセンによる歴史小説『The Captain and Ann Barbara(英題)』をベースに、デンマーク開拓史の裏に隠された愛の物語を紡ぐ。称号を懸け孤独に闘うケーレン大尉をマッツ・ミケルセンが、冷酷な有力者のもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラをドラマ『レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星』のアマンダ・コリンが演じる。2023年第80回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品。2024年第96回アカデミー賞国際長編映画賞デンマーク代表作品。
  • 文筆業

    奈々村久生

    マッツ・ミケルセンが圧巻。北の不毛な地で苦行のような闘いに挑む男の営みにどんなスペクタクルがあるのかという邪推など叩き潰される。寡黙にして無骨な退役軍人ケーレンの瞳の奥に宿る闇と光、険しい表情に刻まれた感情の揺れが物語る豊穣な顔のドラマ。彼を取り巻く共演者たちは、ケーレンとは違う資質を持つキャラクターばかりだが、それぞれがまったく引けを取らないチームプレーも素晴らしい。殺伐とした光景の中、孤独な者たちがはからずも家族らしきものの形を為す瞬間は染みる。

  • アダルトビデオ監督

    二村ヒトシ

    空気は読めないが体力があり、自分がなすべきことだけは決めてしっかり取り組むコミュ障の男が、お金がある男よりもモテるという話だ。ファンタジーといえばファンタジーだが、ここには現実的な希望がある。世の発達障がい気味の男性が苦しいのはクソみたいな上司に従わなければならないからで、(人を殴ったり殺したりは絶対やめといたほうがいいが)人の言うことを聞いてないで土に触って体を使って未開の地を耕せば、この映画でやってたようなエロいセックスができるのですよ。すばらしい。

  • 映画評論家

    真魚八重子

    マッツ・ミケルセンが本国デンマークで撮った作品は、ちょっと奇妙な面白いクセがある。それを生み出しているのは、今回も脚本に参加しているアナス・トマス・イェンセンだ。本作のマッツも一般人から大尉にまで上りつめ、退役後は貧窮しているケーレンという不可思議な男で、国に貴族の身分と引き換えに荒野の開拓を申し出る。地位にこだわり決してヒューマニストではないはずなのに、主人公ゆえに差別を否定し、身分制も自然と乗り越え善人となる、映画らしい変遷が興味深い。

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