ブルータリストの映画専門家レビュー一覧
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俳優
小川あん
215分という長尺は観客にプレッシャーを与える。しかし、ひとりの人生の歴史を語るには相応の時間が必要だということを、本作は完璧に立証している。驚くべきは、これが実話ベースじゃないこと。苦難を生き抜いた人物という記号ではなく、ラースロー・トートを真の存在にさせた。手紙を読み上げる声と、交響曲の響き、ダイナミックな映像のシンフォニーが、主人公が生き抜く姿を見事に体現し、各所の技術面での仕事が完璧に調和している。大胆でありながら繊細な創作の力に息を呑む。
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翻訳者、映画批評
篠儀直子
建築ファン(わしじゃ)は全員感涙必至。ていうか、クールなオープニングクレジットまでの数分間だけでもう泣いてしまった。だがその先はそんな華やかな演出はあまりない。明らかに強制収容所を思わせ、いずれ誰かの墓廟めいたものになるのではと予感させる建築物の、施工過程に次々降りかかるトラブルは、誇大妄想的な大プロジェクトが頓挫するあれやこれやの作品を想起させるが、映画の着地点はそのどれでもなく、第二次世界大戦後の(現在も?)米国社会を覆っていた、ある精神を浮き彫りにする。
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編集者/東北芸術工科大学教授
菅付雅信
ホロコーストを生き延びて米国へ渡ったユダヤ人建築家の苦難の日々を描いたドラマ。バウハウスで教育を受け欧州で実績を残した建築家がアメリカでどん底からの再起を図るが、傍若無人な資産家の依頼に翻弄される。ユダヤ人の苦難、3時間25分という長尺、役者陣の熱演という批評家受けする要素を持ちながらも、第二部タイトル「美の核心」とは裏腹に、映画はホロコーストの核心にもブルータリズム建築の核心にも触れていない。物語の核がないのに、批評家攻略マニュアル的なあざとさが鼻につく。
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