TATAMIの映画専門家レビュー一覧
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映画監督
清原惟
イラン政府から受けた脅しに立ち向かう柔道の選手とコーチの物語。初めは脅しに屈して政府の言いなりだったコーチの葛藤が、「聖なるイチジクの種」の母と重なり印象深い。しかし、この作品にはパレスチナ人に対して深刻な人権侵害・虐殺を行っているイスラエルの資本が入っており、イラン・イスラム政府を徹底して批判的に描くことで(イラン政府の人権侵害はもちろん深刻だが)、直接ではないがイスラエルの行いを正当化するようにも見えてしまい、観ていてしんどいものがあった。
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編集者、映画批評家
高崎俊夫
女子柔道世界選手権を舞台に、その裏面でうごめく国家間の熾烈な闘いを炙り出す作劇がユニークである。イスラエル選手との対戦を回避するため、イラン政府は選手と監督に対して棄権を強要するのだが、あらゆる卑劣な手段が講じられ、そのおぞましさには?然となる。試合中に満身創痍となったイラン選手の顔面から滴り落ちる血をとらえたカットが鮮烈だ。畳という聖なる磁場がふいに深い象徴性を帯びるのである。この問題作がイスラエルとイラン出身の共同監督であるのが救いではある。
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リモートワーカー型物書き
キシオカタカシ
祖国が抱える問題を亡命者が告発した、当事者からの必死の叫び――。ちょうど「聖なるイチジクの種」と重なる主題を持つ紛れもない力作であり、“ザール・アミール監督作品”として観ると一本筋が通っている。しかし“ガイ・ナッティヴ監督作品”として観れば、そもそも物語の前提となった問題における自国の責任に一切触れていないため、「相手を断罪する」一方的にも見える姿勢に矛盾を感じてしまう。鑑賞後にナッティヴ監督のスタンスを探るため海外インタビューを漁ることとなった。
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