終わりの鳥の映画専門家レビュー一覧

終わりの鳥

生きものの「終わり」を告げる奇妙な鳥と突如出会ったことで“死”と向き合いながら、今ここにある“生”の喜びをかみしめる母娘の物語。ある日、余命わずかな少女・チューズデーの前に<DEATH(デス)>という名の喋って歌う変幻自在な一羽の鳥が舞い降りる。デスはタバコをくゆらせ、ラップのリズムを刻むチャーミングさを見せるが、実は地球を周回して生きものの「終わり」を告げる鳥だった。クロアチア出身のダイナ・O・プスィッチによる長編監督デビュー作。デスを造形する一方で“死”という観念を奇想天外に視覚化、その苦悩にも触れるなど奥行きのあるストーリーに仕立てた。繊細でウィットに富んだ少女チューズデー役には「恋人はアンバー」のローラ・ペティクルー。シリアスとコミカルを横断する絶妙なバランスで母親ゾラを演じたのは、エミー賞常連の人気TVシリーズ『VEEP/ヴィープ』で知られる、コメディエンヌのジュリア・ルイス=ドレイファス。コンゴウインコをメインに据えて、絶滅危惧種まで含めさまざまな種類の鳥を複合的に掛け合わせた<デス>の声には俳優のアリンゼ・ケニを起用。ただ単にアフレコを行ったのではなく、実際に撮影現場に立ち会い、キャストの一員として<デス>を演じ、リアリティを持たせた。
  • 映画評論家

    鬼塚大輔

    ポーの『大鴉』がヒントなのかもしれないが、死の象徴である鳥を巡るパーソナルな物語なのかと思って観ていると、中盤から一気にスケールアップして瞠目させられる。そして再びパーソナルへ。めちゃくちゃをしているようでいて、実は誰もが経験したことのある/これから経験する物語なのである。CGIをこれでもかと乱用する娯楽大作には食傷気味だが、この作品のようにユニークな使い方をするのであれば大歓迎。悲劇と喜劇と奇想のバランスも心地よい。

  • ライター、翻訳家

    野中モモ

    「人知を超えた力を持つ鳥がやってくる」といえば思い浮かぶのは『火の鳥』。だけど本篇の鳥はあいつ(AKAクソ鳥)に比べるとだいぶかわいげがある。命を奪いに来た異形の者と特別な関係を結ぶのも昔から人気の型だよね、『うしおととら』とか。母と娘の話になる後半はちょっと萩尾望都とか大島弓子みたいな……。そんなふうに漫画的かつ怖くて魅力的なクリーチャーは英国の伝統を感じさせもして、カルト的に愛されそうな予感。クロアチア出身女性の初監督長篇、次作にも期待。

  • SF・文芸評論家

    藤田直哉

    死神のように訪れる鳥と仲良くなる死期が近い若い娘と、その母親の物語である。鳥は、「死」を擬人化し、ドラマ化するための装置だろう。擬人化によって描かれるのは、死の受容である。自身に訪れる死と対話したり、娘の死を避けようと奮闘したり……。描かれているのは、ターミナル・ケアにおける内面のドラマの寓話である。極めて少人数の内的で繊細なドラマをよくぞ映画化したと評価したい。とはいえ、狭く小さい関係性の話ゆえの停滞も感じざるを得なかった。

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