蜃気楼の舟の映画専門家レビュー一覧

蜃気楼の舟

ホームレスの老人たちから生活保護費を搾取する仕事に従事していた男が、幼い頃に別れた父親との再会をきっかけに、揺れ動いてゆく姿を綴ったドラマ。引き籠りの青年を描いた「今、僕は」が高評価を受けた竹馬靖具監督の第2作。出演は「朱花の月」の小水たいが、連続テレビ小説『まれ』の田中泯。坂本龍一がテーマ曲を手掛けている。
  • 映画評論家

    上島春彦

    アントニオーニかタルコフスキーか、という映像美は文句なし。空気の流れを感じさせるモノクロ場面も効果的。テーマは「父と息子」の奇妙な再会。いわば「放蕩息子の帰還」のパロディをやっていて、この旧約聖書的な物語の強度は普遍的なものだ。親父のラスト・パフォーマンスもいかにも前衛舞踏家っぽくて良い。でも無駄が多いね。女が無駄。ブルジョワ青年も無駄。無駄と言っちゃいかんのか、つまり効いてない。息子にとって親父が何だったのか、あまりよく分からなかったのが残念だ。

  • 映画評論家

    北川れい子

    暗い水面に浮かぶ無人の小さなボロ舟。心象風景としてはありがちで、既視感を覚える。それを言えば、強風の効果音や、砂浜に無言で立ちすくむ男たちの映像も、以前にどこかで観た記憶があり、ストイックに、シンプルに虚無や孤絶感を描こうとすると、描写が似てくるのか。いや逆に、伝わり過ぎるから既視感を覚えたのかも。ともあれ、“囲い屋”をしている主人公の心理を台詞や説明抜き、映像で描出しようとする竹馬監督の意図は頼もしく、いささか通俗的な肉親幻想も救いになっている。

  • 映画評論家

    モルモット吉田

    東京と近郊の地方都市を結ぶ視点は「NINIFUNI」の脚本家らしく冷徹。若者たちがホームレスから生活保護を巻き上げるために用意した小屋という社会の縮図のような空虚な空間が素晴らしい。何が起きるわけでもないが、ガイラの息子こと小水たいがや大久保鷹(往年の若松プロみたいな並びだが)の存在感が惹きつける。さらに後半になると〈動き始める〉田中泯が絵画の如き風景の廃墟・砂丘に拮抗しようとする。人と空間、人と風景を見事に対比させた佐々木靖之の撮影が凄い。

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