あの頃エッフェル塔の下での映画専門家レビュー一覧
あの頃エッフェル塔の下で
偽のパスポートをめぐるトラブルを契機に人類学者の脳裏に家族や若き日の旅、初恋といった思い出が色鮮やかに蘇り、人生を追想する人間ドラマ。マチュー・アマルリックが約20年の時を経て「そして僕は恋をする」と同じ役で出演している。監督は「クリスマス・ストーリー」「そして僕は恋をする」のアルノー・デプレシャン。第 68回カンヌ国際映画祭監督週間SACD賞を受賞。
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映画監督、映画評論
筒井武文
現在、「ドワネル」ものをやるなら、これほどの情報量が必要との認識が凄い。20年前なら、5時間かけていたであろう題材を、編集のアクロバットで2時間に圧縮する。ソ連での緊迫のスパイ事件から、都市と田舎に引き裂かれる恋愛と、ジャンルまで越境する。エステルを再登場させるときの美。女優の演出に、技という技を繰り出す。エピローグの強烈な挿話は、取り返しのつかない時間を失った悲痛さに溢れ、「ドワネル」番外篇としての「恋のエチュード」を超えようとする素晴らしさだ。
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映画監督
内藤誠
あとから考えるとどうしてあんなことになったのだろうと思うのが青春だが、デプレシャンはそのニュアンスをよくとらえて演出。青春を生きる者の生意気さ、憧れ、読んだ書物、聴いたレコード、ダンスと暴力沙汰。すべてが懐かしく感情移入できるのは監督みずからの記憶が作品に投影されているからだろう。そうでなければ、かくも唐突で興味深い構成はできないはずだ。ドルメールとルコリネをはじめ、登場する新人たちが瑞々しく、現在の主人公アマルリックとその人類学教師が印象的。
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映画系文筆業
奈々村久生
裸やセックスが映画に出てくるとき、それらがテーマの作品もあるが、人として当たり前の行為だから特に過激なことをしているつもりはありませんという体で撮られていたり、それを口言する監督もいる。そういう映画で実際に裸やセックスが「普通」に写っていることは稀である。だがデプレシャンの映画では、裸やセックスが本当にごはんを食べたり洗濯をするような感覚で写っている。これが俳優との信頼関係や繊細な演出の賜物であるとわかっていても、毎回のように驚かずにはいられない。
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