函館珈琲の映画専門家レビュー一覧
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評論家
上野昻志
ご当地もののなかでも、函館は、どうやら特権的な場を占めているらしい。ま、画になるロケーションに事欠かないから……。まして本作は、函館市長賞を受賞したホンだから、この街に似つかわしい建物が舞台になっている。そのアパートに集う人たちも、それぞれ場にふさわしくワケあり風で。久し振りに片岡礼子をスクリーンで見られたのは嬉しいのだが、主人公を演じる黄川田将也の演技がなあ。自身の小説のメモ書きを見て、ウワッとばかりに投げ出す、あの所作は、どうよ?
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映画評論家
上島春彦
京都にこういう職人長屋があるそうだ。脚本のヒントになっているかも。そこにやってくる「書けない新人作家」の人生修業という作り。芸は身を助くというように、本業はスランプでもコーヒーの淹れ方がプロ級なのがいい。セドリ(古書の転売)で細かく稼いでいるうちに本の真の価値が分からなくなってしまった男、というのがじわじわ判明する流れも上手い。それと何と言ってもピンホールカメラでしょう、この映画が星を伸ばした理由は。冒頭と最後が韻を踏んでる感じも実によろしい。
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映画評論家
モルモット吉田
函館映画が多いので何を撮るかは大きな問題になるはずだが、乱歩映画でも撮れそうな古い西洋風アパートの室内を中心に描いているのがいい。住人たちとの交流も程よく、片岡礼子が以前にも増して魅力的で自由に動き回る姿が映画を担う。主人公はセドリ(古書店からの転売で利ざやを稼ぐ)で古書を集めるが、書けない作家が開く店なのだから、均一棚から抜くにしても無造作に大量に取るのではなく吟味するぐらいの愛情を珈琲と同じぐらいかけてほしかったと思うのは古書派の僻みか。
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