月光(2016)の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
こちらの誤解かもしれないが、性暴力の被害者を逆美化したような内容と演出がどうも納得出来ない。傷口に塩をこすりつけるようにウツウツと自分を責めるピアノ教師。その割にこの教師、自分のマンションではドタバタと足音を響かせて動き回り、演出の注意力が散漫。靴のカットが多いのも意味があるような、ないような。ピアノ教師を犯した写真屋が、自分の娘まで犯していたという設定も、被害者の2倍増ふうでいささか引いてしまう。題材に溺れすぎているのが残念だ。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
ロマンポルノ「天使のはらわた」シリーズや洋画の「発情アニマル」などが自分にとってのレイプのイメージ。また、生活体験のなかではピンク映画館薔薇族映画館に観に行ったりバイトしたりした時に男色系の人にセクシャル対象として見られ、痴漢され、そこから女性はこういう苦難が日常なのかと心に刻んだが、たしかに本作はそれと矛盾せず、文句もないものの、人物の行動の極端さが問題の間口を狭めた疑いもある。ジャンル映画の方向の普遍と苛烈があればと思う。
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映画評論家
松崎健夫
「日常の生活音が聞こえて来る」ということは、「周囲が気になっている」ということである。本作では、本来であれば聞こえて来ないような生活音の音声レベルを上げることで、気にならないはずの音が徐々に耳障りとなる。やがて、舗道を歩く靴音はもちろん、蝉の声や呼び鈴の音、シャワーの音までが耳障りな〈暴力〉となってゆくのである。それらが、ヒロインの内なる叫びを代弁するだけでなく、佐藤乃莉・石橋宇輪、異なるふたつの陰鬱たる眼力によって我々の心を掻き乱してゆくのだ。
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