桜の樹の下の映画専門家レビュー一覧
桜の樹の下
川崎市の公営住宅に暮らす単身高齢者たちに密着したドキュメンタリー。自らの死と向き合い孤独を感じながらも、慎ましく逞しく生きようとする人々の赤裸々な日常を映しとる。1987年生まれの女性監督、田中圭による劇場映画デビュー作。山形国際ドキュメンタリー映画祭2015日本プログラム正式出品作品。
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評論家
上野昻志
ここには、さまざまなテーマにつながる糸口がある。即ち、高度成長期に建てられた団地の歴史と現在、また独居老人の孤独死等々。だが、本作の美点は、そのような問題に収斂しない、老人たち一人ひとりの決して一括りには出来ない暮らしぶり=生き方を浮かび上がらせた点にこそある。だから、死を身近に見据え今を生きる四人の姿がくっきりと見える。それは監督が、彼らをしてごく自然に語らせたことによるが、それには方法以前の、監督自身の立ち居振舞いにあったと思われる。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
ドキュメンタリーについて、自分の鑑賞の解像度を下げ、能動的に観る姿勢をやめてみると、エンタメ的に煽るもの、ただ撮っているだけのもの、気合い入れて撮っているもの、の三つの区分が浮上する(あくまで個人の反応です)が、本作は三つ目だろう。被写体の高齢者の生活感から団地の実景に至るまで、監督の凝視を感じる。題材の捉え方が良い。無縁の老人、孤独死など日本社会の予感としてあるものがこの作から明確に提出された感がある。だから、怖いものを観たなという気もした。
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文筆業
八幡橙
団地の一室でインコや植物、観賞魚を愛でつつ日々を生きる独居老人たちの姿を、87年生まれの田中圭監督が程よい距離から見つめる。夫のDVに耐え、精神を病み、離れて暮らす息子だけを支えにごみ屋敷に暮らす女性と、彼女の面倒を見続ける柔和な“関口さん”の関係が象徴するように、「巣箱」と称される古びた団地で孤独と孤独がかすかに触れ合うさまが、ひしひしと切なく、人肌の温もりをもって伝わってくる。人の命は一見、桜の花びらのように軽やかだが、その幹は太く揺るぎない。
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