しゃぼん玉の映画専門家レビュー一覧
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映画評論家
北川れい子
以前、某作家が、小説家になりたい人へのアドバイスとして、〈通俗を恐れるな〉と語っていた。「しゃぼん玉」の、どのキャラクターも、どの風景も以前に観たことがあるような既視感があるのは、段取り通りにことが運び、予想を裏切らないからだろう。演出もソツがない。結果として、わざわざ映画にするまでもないような、ちょっといい話に終わってしまい、通俗的以上のコクも深みもいまいち。近年、さまざまな役を演じている林遣都だが、今回も線の細さが歯痒い。
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映画文筆系フリーライター、退役映写技師
千浦僚
この「しゃぼん玉」は原作があるが本欄では地方振興企画映画を多数扱うため、地方よいとこ一度はおいで、みたいなものをよく観る。しかし単なる地方アピールを超えて、都会では生が次代までも持続可能なものとして感じられない、というのは共有されうる実感かもしれない。主役を演じた林遣都の名“けんと”は彼の本名で、都に出て名を成せというご両親の願いがあるそうだがそれを反語的に見つめ直すかのようなこの役もまた運命的だ。昨年の映画「怒り」の逆をゆく筋立てが好ましい。
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映画評論家
松崎健夫
ハードなオープニングから一転、桃源郷のような山間の町での暮らしが描かれる本作。“箸を持ち直す”など、人生をやり直すことのメタファーとなる描写が挿入されるなど、主人公の姿は平家祭の由来と重なってゆく。それゆえ映画の冒頭と終盤では彼の成長を、去ってゆく“うしろ姿”で表現している。同じ“うしろ姿”であるはずなのに、その意味が「逃亡」と「前進」と異なっている点は秀逸。2010年に発表された秦基博の〈アイ〉は、まるで本作のために作られたような趣がある。
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